疑い
日も暮れ、暑さも和らいだ頃、尊治は足早に城に戻って来た。理由はただ1つ。今回の城からの呼び出しは、誰かの画策にしか思えなかったからだ。
(じじいが理由もなく俺を呼び出すのはいつもの事だが、いつも俺に絡んで来る相良が居なかった。あいつは俺が城に上がる時は、必ず俺に目を光らせている)
尊治は美しい眉をつり上げ、勢いよくふすまを開けた。
其処には真っ黒な髪の青い目の子供が、布団の上から起き上がって、目を見開いてこっちを見ている。白い顔は血の気を無くして、まるで人形の様であった。
「ここにあいつが来たな」
尊治は尋問するかの様な声色で息吹を見据えた。髪の隙間から見える青い目には感情は無く、息吹は小さく誰も来てないと答えた。
「聞き方を変えてやる」
尊治の侮蔑の表情を浮かべたが、それさえも美しかった。
「次は、俺をどういう風に裏切るつもりだ」
息吹の青い目は一瞬潤み、宝石の様に光ったが尊治は表情を変えなかった。息吹は、視線を外し、噛み締めるように小さくポツリポツリと呟いた。
「……夢の中で、四人の男の人達に会ったよ。尊治様の言ってたお兄さん達だと思う」
尊治から侮蔑の表情は消えなかったが、そのまま息吹に話す様に促した。息吹には数珠の修行を受けさせる前に、ある程度情報を与えていた。
「ここに戻って来れたって事は、第一関門は合格だよね?」
(こいつ馬鹿なりに学習してやがる)
尊治は苦々しく、唇を噛み締めた。息吹は、大人達に揉まれる中で自分自身取引の道具になり得る事に気付き始めていた。
「私きっと数珠を使えるようになると思う。約束通り、尊治様の武器になれる」
息吹はそれ以上何も言わなかった。尊治は少し黙り、その後クルリと後ろを向きそのまま部屋から出て行った。
息吹はこれから何が起こるかまだ予想出来なかったが、覚悟を決めるしかないのだと自分に言い聞かせた。
障子の隙間から、ぬるい風が息吹の頬を撫でた。これから自分がする事に恐怖を感じながらも、逃げる事は叶わないのだと今の息吹は理解するのであった。




