帝
口髭を蓄え、黒く太い眉の男は、玉座の間に腰掛けていた。髪は殆ど白髪であったが、びっしりと生えて、年齢よりも若く見える。羽織は金で縁取られ、見事な屏風に囲まれた部屋は些か下品にもみえたが、この者がいかに権力を持っているか示すには十分であった。
(やはり、母と瓜二つ。なんと美しい事よ……)
帝は、じろじろと妾の子供を眺めた。美しい黒髪を結い上げ、陶器のような肌は切れ長の瞳をより一層美しく見せた。
「父上、体調を壊したと聞き、参上いたしましたが、ほかに用があるのではございませぬか」
尊治の顔には感情は無く、まるでカラクリがセリフを吐いてるように父には見えた。
(やはり我を恨むか……尊治よ)
帝は目を細めややあと喋った。
「特に用はない。お前の顔を拝みたかっただけだ」
尊治はありがたきお言葉と呟く様に吐いたが、やはりこれもセリフのように聞こえた。
(相良の頼みで呼んだとはとても言えぬな……)
帝は暗い眼差しで、尊治を見据えた。
今日尊治を宮中に呼んだのは、珍しく相良の頼みによるものであった。相良は、尊治と違いいつもにこやかに自分ににじり寄って来るが、その瞳の奥は真っ暗で、帝はそのことにきづいていた。
(力強く勇ましいあの三兄弟が生きていたならば、こんなことにはならなかったのかもしれぬ……だがもう遅い)
帝は、先の戦で亡くした息子達を思った。今もなお、心に闇を住まわす原因となった事実を、帝は受け入れずにいた。
(相良もまた息子に間違いはない……だが我と生き方がかけ離れ過ぎておる)
分かりあえない残った息子達に、今はさほど興味もない。尊治を優遇するのは、尊治への愛ではなく、失った妻への未練のためだった。
「父上、また会いに参ります」
尊治はまたセリフのように言葉を吐き、一礼するとその場を去った。
帝からは返事はなく、ただ暗い闇が瞳の奥底に映るだけであった。




