謝罪
「……ここにノコノコ来るとは、馬鹿だと思っていたが、予想以上だな」
整った美しい眉の下には、切れ長の目が、鋭く息吹を見つめている。手には茶碗と箸を持ち、食事の真っ最中であった。よく掃除された畳みの部屋の窓から、息吹は顔を出し、気まずそうにこちらを伺っている。
「そんな所からこちらをジロジロ見るな。話があるなら其処に座れ」
息吹は窓からヒラリと舞い降りて、尊治の前に正座し、いきなり土下座した。尊治は茶碗と箸を置き、息吹を見据えた。
「……おい、なんのつもりだ」
息吹は顔を上げず、ゴクリと唾を飲み込んで、一言一言噛み締めるように話した。
「……どうしたら許してもらえるか分からなくて。でも、謝るのが一番だと思ったから」
「謝られてもお前のした事は何も変わらん。……さっきも言ったが、もう二度お前の顔なんて見たくない」
息吹は、勢いよく顔を上げ、お腹から声を出した。
「逃げ出してごめんなさい!もう二度とこんなことしません……だから七之助さんを殺さないで下さい!」
尊治は表情を変えず、片眉を上げた。息吹は口から心臓が飛びでそうだったが、変わると決めたんだと心の中で唱えて、必死で言葉を紡いだ。
「私の命を代わりになんて言えないけど……でも役に立つって約束した事、もう破りません」
「あいつが生きてると誰に聞いた」
「神谷様が、多分殺してないって」
「……お前は、追ってを俺が差し向けた事は分かってるのか」
「私が約束を破ったからしょうがない」
包帯だらけの息吹を見て、尊治はバツが悪そうに、馬鹿につける薬がないと言うのはホントだなと呟いた。
「神谷様が法力を使える様にしてくれるって約束してくれた。神谷様は、尊治様の為に使ってくれって」
息吹は、取り敢えず伝えなきゃいけない事を先に言わなければと、早口になった。尊治が最後の方少し表情が変化した様に見えたが、気のせいだったかなと息吹は思った。
「私、自分の事しか考えて無かった。嫌な事から逃げ出して、いつも先生の所に帰りたいって。でも、七之助さんが私の事考えて逃がそうとしてくれた事……とっても嬉しかった。だから私も、役に立ちたい」
「俺がお前を信用すると思うのか」
尊治の目を見た息吹は、手足が震えているのを感じた。次言う事を間違えれば、殺されるような気がする。
「……思わないけど、信用してなくても、私の事、尊治様は上手に使うと思う」
息吹は精一杯一番いい答えだと思う事を言った。
「人殺しはしたくないんだろう」
「神谷様が、法力は殺す為じゃなくて、守る為に使うものだって。私もそうしたい」
神谷に出会って、息吹は自分がどうしたいのかはっきり見えた気がした。その為には、相手に理解してもらうよう努力して伝えていかなければならないと痛感したのだ。
尊治は息吹から視線を外し、出て行けと呟いた。息吹は少し黙って、明日も来ますと言って窓からヒラリと出て行った。風が吹いて、風鈴が涼しげに鳴った。
「あいつは窓の意味をイマイチ分かっていないようだな……」
尊治は月を仰ぎ、微かに笑みを浮かべるのであった。




