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コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
72/139

取引

「こんな田舎に、よくもまあ忙しい私を呼び出したものだな」


神谷の顔を見るなり、相良は嫌味を吐き、口を豪華な扇で覆った。この古い城には全く似合わない出で立ちで、従者達もゾロゾロと大勢引き連れている。


「……相良、悪いが二人で話がしたいんだ」


「聞きましたか、皆の者!次の帝様のご命令ですよ」


相良が高らかに叫ぶと背後に控えて女達はクスクスと笑い、機嫌を損なわれたら大変だわあとキャイキャイ言いながら部屋から出て行った。高菜は鬼の様な形相であったが、一礼すると自分も退席した。


(やっぱりやりにくいなあ)


神谷は自分が変な汗をかいてるのを感じながら、相良の顔を見た。面長の顔は、男にしては色白で、鼻も口も目も、まるで筆でかいた様に細かった。身体も線のように細く、運動を嫌うため華奢であった。


(お面と話してる気分になるんだよな……)


神谷は胃がキリキリするのを感じながら、姿勢を正した。


「要件はなんなのだ。お前の様な美しくない者と話す時間は、私はあまり持ち合わせておらんのでな。はようしてくれ」


相良は肘掛けに肘をつきながら、退屈そうにしゃべった。


「悪い、あまり時間は取らせないから。雪姫の面会なんだが……出来れば俺一人でお願いしたいんだ」


相良はふわあああと欠伸をすると、ダメだと一言だけ答えた。


「無理を言ってるのは承知の上だ。今回の件、承諾してもらえたら、俺の隊の手練れの法力使いを何名か、お前の所に置いといてもいい」


前々から、相良は神谷の部隊で育てている法力使いを欲しがっており、神谷はいざという時に手札として温めていた。


「ふん、それだけでは承諾できんな。手練れと言っても数名だ。さほど痛手ではないのだろう?こちらから指名させて貰えるなら、話は別だがな」


頬杖を付きながら、気怠そうに応えているが、 半円を描いた眼は、奥の方でギラギラ光っている。神谷はそう来たかと心の中で悪態をつきながら、戯けてみせた。


「う〜ん。隊長クラスを連れて行かれちゃったら、今までの俺の頑張りもなんだったんだって感じになっちゃうだろ〜。他の条件じゃ駄目なのか?」


「では、お前にいつも引っ付いてるあの女であれば問題無いであろう?あやつは大した法力使いではないと聞いてるぞ」


神谷はサアーっと血の気が引くのを感じた。これは法力使いを寄越せと言ってるのではない。人質が欲しいと言ってるのだ。相良は、二人の仲が特別なのを見透かしていた。


(相良は人質を殺す事を厭わない。だが、これ以上譲歩させるのはきっと難しい)


長い沈黙の後、神谷は少し時間をくれと呟いた。はようしてくれと言ったはずだが、まあ良いと相良は立ち上がりながら返事した。


神谷は何も答えることができなかった。


神谷を部屋に残し、出て行こうとしたが、思い出した様に振り向き、朱色の唇は半円を描いて意地悪く笑った。


「私を甘く見るのは勝手だが、次の帝はお前などではない。……私だよ」



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