表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
66/139

願い

「願いだと……」


尊治の目は釣り上がり、切れ長の美しい瞳は怒りに満ちた。神谷は、背筋が凍る思いがしたが、屈せず、ゴクリと唾を飲み込んで必死に訴えた。


「お前は解放されたいと望んでるんじゃあないか?俺は、あの子を通して知らなかったお前の姿を見た気がしたんだ。……俺はそれに賭けたい」


ぬるい風が二人の間を通り過ぎた。神谷は喉がカラカラで、自分でもきちんと喋れてるかどうか分からない。だが、蛇に睨まれた蛙のように、尊治の視線から一歩も逃げることはできなかった。


「だとしたら、どうする。お前が、俺の代わりでもしてくれるのか」


神谷は、尊治が無機質な、他人を思いやれない人間だと思っていたが、それは間違いだと思った。尊治は見捨てる事が出来ないのだ。不条理に滅ぼされた、彼の一族を……。


「俺なんかが代わりにはなれないだろう。だが、一族の怨念を晴らす方法なら考える事ができる」


尊治は黙った。日差しは少し傾き、美しい顔は影でよく見えない。


「帝を含め、俺たちもろとも皆殺しにすれば、もしかしたらお前の背後の者たちは、気が済むのかもしれんが、そうすれば、新たな憎しみを生む事になる。お前は永遠に自由にはなれない」


温い風は尊治の美しい黒髪を揺らし、神谷の心を少し落ち着かせた。


「なんでそんな必死になる。お前の仲間を使えば、俺を消すなど容易だろう。俺を説得して、お前に何の得がある」


尊治にすれば当然の疑問だった。彼らは、兄弟であっても、蹴落としたい相手でもあるのだ。神谷の行動はちぐはぐで、尊治には理解できなかった。


「あの子をハヤテ殿に預けた事、後悔はしたが、正しかったと思いたいんだ。あの子が俺たちの関係を変えてくれると信じたい」


尊治は、刀を鞘から抜き、流れるような動きで、神谷の首に剣先を突きつけた。神谷の額に、一雫にの汗がすうっと流れた。


「お前を信じろと?」


「俺の行動は今の所、信じるに足るものだと思うんだが……」


神谷は、頬を引きつらせながら無理矢理笑った。少しの沈黙であったが、神谷は生きた心地がしなかった。


生ぬるい風は強くなり、キラキラ光る緑の葉を揺らした。


尊治は剣をしまい、背を向けた。


「話は城で聞こう」


神谷は胸を撫で下ろした。初めの一歩を今やっと踏み出せたのだ。


猫背の男はノロノロと、尊治の背後をついて行くのであった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ