孤独
蝉の鳴き声は、激しくなり長い沈黙は二人の間の空気を重くした。尊治は数歩先で立ち止まり、神谷の目に映るのは長く美しい黒髪だけだ。
「あの子からお前の話を聞いた。……あの一族の末裔だったとはな。法力の腕は、俺の予想を遥かに超えるのだろう」
真上に来た日差しは、大地を照りつけた。神谷は汗ビッショリで尊治の返答を待った。長い沈黙が永遠に続くように神谷には思えた。
ふと、乾いた風が二人の間を通り過ぎた。
「あいつの行方を宮中のあたりで見失った。……よりによってお前に拾われるとはな。悪運の強い奴だ」
最後の方は自嘲してるように神谷に聞こえたが、尊治の顔は見えずそれが自分に対してなのか、息吹に対してなのか分からなかった。
「あの子を殺す気だったのか」
神谷は、感情を抑え、今初めて、対等な立場で弟向き合った。
「だとしたらなんだ。拾った物をどうしようと俺の勝手だ」
「あの子は悔やんでいたんだぞ!お前が七之助殿を殺すのではないかと!!」
神谷は初めて尊治を弟として叱った。自分の予想外の感情に驚いたが、止める事はできなかった。だが、尊治は振り向かない。
「分かってて逃げ出した筈だ」
「……あの子とお前の境遇はよく似ている。産まれを大人に利用され、今も尚、戦争の道具にされようとしている。あの子は、俺たちと血の繋がった家族なんだぞ」
こんなに必死に訴えたのはいつぶりだろう。滴る汗も、枯れた声も気にならない。こいつを振り向かすには一体どうしたらいいのだ。
「血の繋がりなど、俺には呪いでしかない」
「そうだとしても、自分と息吹を重ねた筈だ!あの子の不憫な境遇を、お前は他人事に思えなかった、そうだろう?」
なんだか神谷は怒りよりも悲しみが自分の胸のうちに溢れてるのを感じた。長い髪が大きく揺れ、遂に尊治は振り返った。日差しに照らされた美しい顔は憂いに満ちている。
「あいつをこの国から追い出した張本人が、どの面下げてほざきやがる」
「戦を終わらせたかったんだ。今は、後悔している。あの子を犠牲にした事を……」
神谷は気づいた。この感情は、尊治だけではない、自分に対するものだと。尊治の切れ長の漆黒の瞳は、神谷を見据えた。神谷の事を探っている。神谷は逃げ出したい気分だった。
「あいつは俺よりも恵まれている。……あいつを心から心配してる奴がこの世に少なくとも一人は居るからな」
(これが尊治……)
今まで自分が知ってる尊治とはまるで違う。何もかも兼ね備え、帝に寵愛されても尊治の心は大きな孤独の中にあった。
(俺には救えない……だがあの子にはできる筈だ)
神谷はあの小さな青い目の少女を思い出していた。あの子は、尊治と似た境遇にあったにも関わらず、まるで孤独をしらない。
「尊治、お前の願いを叶えよう」




