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コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
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尊治

白鷺の城は、照りつける夏の日差しに負けず、涼しげに美しくそびえていた。神谷は門の前で、ふかぶかとため息をついた。もう何回目だろう、門前払いは。


(尊治が留守なのはわかるが、俺も帝の子供なのに、ここでの俺の嫌われっぷりはほんとにひどいな)


神谷は頭をクシャクシャ搔きむしると、このまま外で尊治の帰りを待つことにした。日差しはきつく、汗が止まらない。


木漏れ日が、緑をキラキラと光らせ夏の到来を喜んでいるようだった。蝉も賑やかに鳴き始め、神谷は落ち着かず城の側を離れた。


(尊治を説得するには、取り引き材料が必要だ……尊治の経歴をもう一度思い出せ)


神谷はどかっと木陰に座り込むと空を見上げ、尊治の幼少期を思った。


尊治の母親は、ただの踊り子として帝の前に現れ、すぐに見初められた。この異例の事態に宮中はざわめき、普通であれば虐げられるところだが、帝の寵愛ぶりは凄まじく、彼女の扱いは特別で、その事については皆暗黙の了解であった。

だが、さすがに百目数珠の管理を尊治に任せた時は、皆黙っていられなかった。母親を亡くしたばかりの若い尊治に任せるなど、皆納得出来ないと抗議した。だが、倭国で百目数珠を使えるものは、帝只一人と皆信じていたため、帝の意志は結局絶対であり、抗議も虚しく尊治に任される事となった。尊治は益々孤立し、他の男兄弟からはやっかみをかい、宮中での居場所は彼には無かった。いじめられる側の神谷には、何もしてやれず、尊治が心許せる相手は七之助だけのように思えた。


(今思えば、あいつの苦しみをわかってやれるのは俺ぐらいだったのかもしれなかった。……でも、俺にとってあいつは羨ましい存在だったし、あいつも俺の事は虫けらのように見てたしな)


神谷は、武術も容姿も、勉学も何1つ優れてない。だが、神谷の母親はおっとりした人で、あまりそのことも気に止める様子もなく、いつもニコニコしていた。今の神谷があるのも、ひとえに母親のおかげだ。


(あの尊治が息吹の事を気にいるのは自然な事だ。あいつは実力主義だし、あの子は素直で、きっとハヤテ殿が鍛えたのだから見所があったのだ。あいつは駒を探していた。百目数珠を自由にできる優れた駒を……あの子には、十分使える可能性がある)


息吹の母親について、尊治は一族の裏切りものと言ったが、そこには少し語弊があった。尊治の母を手引きし、帝に引き合わせたが結局帝側に寝返ったという意味での裏切りであり、息吹の母親は法力使いの一族ではなかった。


彼女は帝の年の離れた妹であり、朝廷側の人間であった。つまり息吹は、神谷と尊治にとって従兄弟という関係だっだのだ。


(あの子はきっと何も知らないのだろう。俺や尊治と血の繋がりがあるなど……)


神谷は青い空に浮かぶ入道雲をじっと見た。そういえば、今年はまだ向日葵を見ていない。


(本当に、息吹は尊治にとって都合のいい駒だったのか?)


神谷は何か引っかかる感じがした。尊治は神谷から見れば、冷酷で無機質な青年であったが、息吹の話しを聞いていたときは、普通の若者のように思えた。


(俺はあいつのことを何も分かっていない……)


神谷はもう一度立ち上がり白鷺城へ向かう事にした。此処に来たばかりの時とはなんだか気分が違う。日差しは相変わらずきつかったが、少し風が吹いているように思えた。


先ほどよりもキビキビと歩き出した神谷の背後で、馬の足音聞こえる。


「次の帝と謳われる兄上が、こんな田舎に何の用だ」


神谷は振り返った。そして、ほうっと一息ついた。


(我が弟ながら、惚れ惚れするな)


燦々と太陽の光りが降り注ぐ中、美しい青年は真っ黒な馬に跨り、涼しげにこちらを見下ろしているのであった。



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