40/139
春
空気は少しずつ温かくなり、寂しかった枝にもチラホラ新芽が顔をだし始めた。
小さな黄色い蝶たちは、春の訪れを喜んでいるように、ヒラヒラ舞っている。
蝶はゆっくり黒い物体にとまった。ゆらっと動いたかと思うと、草むらからおかっぱ頭が出てきた。
髪の隙間からみえる明るい青い瞳が、日差しを浴びてキラキラした。すくっと立ち上がると、スラッと伸びた手足は真っ白だったが傷だらけだ。
「息吹」
黒子の男が息吹を呼びとめた。
「急に背が伸びたな」
「そうかな。あれ、尊治様は?」
「帝に呼び出され、今から外出なさるところだ」
「じゃあ法力の訓練は今日は無しだね」
息吹はにかっと笑うと、枝へ飛び上がり座って足をぶらぶらさせた。
「そうはいかん。今日は俺が教えるから、さっさと支度しろ」
息吹は無駄なのにと他人事のように呟いた。耳のいい七之助は、すっかり聞こえており小さな赤い木の実が息吹の額にとんできてピシッと当たった。
息吹は額をさすりながら、木から降りるといつの間にか居なくなっていた。お説教から逃れるためだ。
「……逃げ足だけは一人前だな」
七之助は、新芽を眺めながらはぁっとため息をつくのであった。




