表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
100/139

ウラギリモノ

今日会うのはお前の母だよ。と神谷に伝えられ、息吹はゴトゴト揺れる荷馬車の端の方で膝立てて座り込んでいた。


(尊治様の所に連れて来られた時もこんな感じだったな……)


息吹は柱に頭をもたげてぼんやりと考えていた。格子状の光が顔の上でユラユラ揺れていたが、あまり煩わしくは感じなかった。


(あの人達に私が敵うはずない……)


息吹はぎゅっと拳を握りしめた。あの瀬尾という大男、明るい雰囲気で快活そうそうだったが、息吹はそんなものより血の匂いを感じていた。きっと何人も殺してるに違いないと息吹は思った。神谷から感じた事のない恐怖。どうやって神谷があのような男達をまとめられているのか不思議でしょうがなかった。


(戻れないって分かってる……でも……お兄さんに助けてもらったのに、私は又七之助さんにした事と同じ事をしようとしてる)


息吹は胸がぎゅっと苦しくなるのを感じながら、外を眺めた。雨上がりの空は、まだ少し黒い雲と湿気を残していたが、陽の光が少しずつ差し込んで雫達が木々をキラキラと光らしている。



(私はウラギリモノなんだ)


息吹は先生と離れてから、肉体的には強くなっていたものの、精神的には脆弱になってきてるのを感じていた。


(私はウラギリモノのカラスのこ)


息吹は自分自身が悪者であると思い込むように、心の中で唱え始めた。


(私はウラギリモノのカラスの子)


胸の苦しさは消えず、目の端がぼやけて涙が溢れそうになるのを感じた。


(私はウラギリモノのカラスの子)


涙を吹き飛ばそうとぎゅっと目を瞑って息吹はしまったと思った。


大好きな先生がこっちを優しく見つめている。


---------お前は自慢の弟子だ



息吹はぎゅっと縮こまり光から体を遠ざけた。


(……助けてよ、先生)


息吹の悲痛な心の声は届かず、荷馬車の音がガタゴトと虚しく鳴り響いているのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ