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-1話 失恋、ついでに馬肉も添えて

大分遅れましたがゴールデンウィーク更新中。

ちょい時間はかかる感じですが、四日分ちゃんとやります。

番外編一話目は最後の方空気だった馬肉達の話にしました。

本編に入り切らなかったものです。

コメディのりです。

 

「クレイ様は何であんな奴の言う事を聞くんですか? クレイ様なら従う必要なんてないでしょ?」


俺がそう疑問を投げ掛けたのは、綺麗な女の子だった。

儚げな見た目ではあるが、真っ直ぐと此方を見ている。

ほんの少し前までは、この世の不幸を一身に背負っているという顔をしていたのに。

そんな彼女、クレイ・キアージュは今現在俺の主人である。

そして──


「いや、普通に聞くでしょ。相手、王子様だから。カーストのトップにいらっしゃる方だから」


儚げな見た目に反して返された言葉は、まるでコイツ馬鹿かと言わんばかりのものだった。


「でも、クレイ様は凄いギフトを持っているじゃないですか。それを使えばきっと」


クレイ様は貴族だ。

だから、俺達にはないギフトを生まれながらに持っている。

その力のお陰で、この村は変わった。

今日を生きるのもギリギリだった村が、今では周辺のどの村や町より富んでいる。

俺もほんの少し前までは肋が浮いていたのに、今ではうっすらと筋肉がついて、服も以前とは比べられない位質の良いものを着ている。

俺は貴族ではないから、ギフトに詳しくない。

けれど、この目で見てきたクレイ様の力は間違いなく奇跡だった。

そんな力がこの世に溢れているとは到底思えない。

クレイ様があのすかした王子達に負ける姿が、俺には想像出来なかった。


「いや、あの王子様達を舐めちゃいけないから。私の自慢のわんわんを軽く屠れる位の力持ってるからね。あれ一体数億は注ぎ込んでんだからねっ!? それを、それを王子様達はばっさばっさと……あぁ、損失額が……」


急にどこか遠くを見始めたクレイ様。

前々から感じていたが、クレイ様は金への執着が強い気がする。


「でも……そしたら、クレイ様はここを出ていくんだろ?」


だから、俺は嫌だと感じるのだ。

あのすかした王子に着いていくということは、クレイ様がこの村から居なくなるということだ。

折角、村もここまで大きくなって、これからもっと豊かになっていくという所だったのに。


「安心して。村は王子様の領地にお引っ越しするだけだから。これまで通り、私の力で豊かな生活を送れるよ」


「っ、そういう事じゃなくてっ、その、クレイ様は一緒には行かないんだろ? 王都の学園に通うって」


引っ越し先は王都からは離れているという。

離れてしまえば、面倒臭がりなクレイ様の事だ。

滅多に会うことはなくなる。

それに貴族の世界に戻ってしまえば、今みたいに気軽に話す事出来なくなってしまう。


「一応、その予定だね」


そう言ったクレイ様の顔には、面倒臭いとはっきり顔に書いていた。

そんなに嫌なのにどうして、クレイ様は黙って従うのだろうか。

逆らいたくない相手だとしても、俺達と一緒に村で暮らせば良いじゃないか。

あの王子達の狙いはクレイ様のギフトだ。

新しく移る場所で、これまで通り暮らしながら税金を納めればいい。


「まぁ、王都には行ってみたかったし……それに、何だかんだで王子様達と過ごすのも面白そうだしね。ほら、同年代の友人とか私居ないし」


俺の思いとは裏腹に、クレイ様はあの王子達に着いていく事を既に決めているようだ。

俺の説得に全く揺らがない。


「っ、俺は、俺はクレイ様の事がっ」


初めは気に食わない奴だと思っていた。

傲慢で酷い奴だとも。

けれど、冷静に考えた今なら、あの時のクレイ様の態度も頷ける。

もし自分が逆の立場であったなら、自分の家族を助けなかった奴等が助けを乞おうと見捨てたに違いない。

クレイ様は天の邪鬼で我が道を行っているが、基本は善人だ。

何だかんだで、俺達にも手を差し伸べてくれた。

初めは反発していたのに、俺はいつしかクレイ様の事が好きになっていた。


「──あぁ、うん。それ無理だから」


しかし、全てを告げる前に、俺の告白はクレイ様にバッサリと切り捨てられた。

いっそ、潔い程に。


「な、何で」


「いや、当然でしょ。私達は奴隷と主人の関係で、対等何かじゃない。稀にそういう趣味の人もいるけど、私にそんな趣味はないから……それに、カルナはそういうの全部ひっくるめた覚悟で私に頭を下げたんじゃないの?」


凛とした目で俺を見るクレイ様に、はっとさせられた。

俺は自分が裕福な暮らしをするようになって、すっかり忘れていた。

自分が奴隷である事を。

いや、分かってはいたが、本当の意味で理解してはいなかった。

奴隷としては破格の待遇だったから、大きな勘違いをしていたのだ。

自分にはその資格があるのだと。

俺はクレイ様に命さえ捧げる覚悟でいたのに、いつの間にか同じ思いを返して貰えるのではないかと錯覚していたのだ。

だから、あの王子達が現れた時、俺は嫉妬していた。

俺とクレイ様は決して対等ではないのに。


「おれ、は……」


「それに私憎んではいなけど、赦してはいないから」


さらりと告げられた言葉に再び胸が抉られる。

あの年老いた女性はクレイ様にとってただ1人の家族だった。

その人を見殺しにした俺達を、クレイ様は赦してなどいなかったのだ。

俺にはクレイ様に思いを告げる資格など、初めからありはしなかった。


『ならば、我はどうだっ? この高貴なるユニコーンたる我に想われて、さぞかし名誉な事であろうっ!』


失恋に沈む俺の耳に、クレイ様に馬肉と名付けられたユニコーンの声が聞こえた。

相変わらず空気の読めないユニコーンだ。


「いや、もっと無理だから。論外もいいとこだから」


馬肉の告白?に先程以上にバッサリと、冷めた目でバッサリと切り捨てたクレイ様。

その様子に少しだけほっとする。


馬肉(家畜)よりは、上で良かった……。


『な、何故だっ!? 我はそこなカルナ(奴隷)より役立つぞ!??』


「いや、人外だから。それだけで論外だから」


クレイ様の言葉に俺も頷いた。

クレイ様からはそんな特殊な趣味は感じられない。


『む、では人型を取ればよいのだな。安心せよ、我は高貴なユニコーン故、それくらい造作もないことだ』


そう言うがいなや、馬肉は淡い光に包まれた。


「「──は?」」


光が消え、現れた姿に俺達は声を揃えた。

馬肉は人間へと姿を変えていた。

白髪の長い髪を結わえたその姿は、まるでどこぞの貴公子のようだ。

あの王子様達と同様に、村の女子達が知ったらキャーキャー騒ぎ出しそうだ。


『ふふ、我の美しさに言葉も出ないか』


「き、」


『き? うむ、我は綺麗であろう』


ふふんと胸をはる先程までは馬だった美青年。

まさかと思いながらも、黙ったままのクレイ様を窺い見る。


「きめぇ……私、あの駄馬に乗った事あるんだけど」


セクハラじゃないかと、まるでゴミを見るような目で馬肉を睨んでいた。

確かにそう考えると、セクハラとも取れる。

年若い少女にとっては不快だろう。


『き、きめぇ!!? 何故だ、我はこんなにも美しいというのにっ!』


「ナルシストなとこが無理。そもそも姿形を変えようと、駄馬である事に変わらないから無理。それに処女厨なセクハラ駄馬な時点で本当に無理」


『そ、そんな……』


振った理由は実にクレイ様らしかった。

馬肉はショックを受けたのか、クレイ様の話を聞いて項垂れている。


そもそも、馬肉は何故クレイ様が好きなんだ?


俺以上にその理由が見当たらない。

馬肉は食肉にされかけた事もあるのだ。


『勿論、顔だ。性格は悪魔のようだが、顔だけは我の好みなのだ』


疑問が声に漏れていたのか、ショックから復活した馬肉がそう答えた。


確かにクレイ様は村の女子とは桁違いに可愛いけど……。


理由としてはよく理解出来る。

村に住む他の少年達に聞いても、村で1番可愛いのはクレイ様だと答えるだろう。


『それに何より、我の好む生むす「”馬肉は金輪際人型禁止!!“」な、何故だっ!?』


眉間にシワを寄せたクレイ様が馬肉に蹴りを入れながら、そう命じると馬肉は元の姿へと戻った。


……うん、そりゃ怒るだろう。


完全にセクハラだ。

俺も馬肉へと白い目を向けた。


「カルナ、今度からこの駄馬の飼育係は50才オーバーにしといて」


『そんな殺生なっ! せめて、20代の乙女に「食肉とどっちがいい?」……うむ、あい分かった』


抗議する馬肉をクレイ様は一瞬で黙らせると、部屋に戻ると俺達を残して去っていった。


「…………何か、完全に俺の告白が無かった事になったな」


だが、それで良かったのかもしれない。

少し心が痛むがきっといつかは癒える筈だ。


『鬼め、クレイは鬼だ……カルナよ、我らは仲間だ。クレイには内緒で飼育係をうら若き乙女にせよ』


「…………」


俺は馬肉の飼育係に、50才×3のモニカおばさんを推すことに決めた。


断じて、俺と馬肉は同じではない。

そこには大きな隔たりがあるのだ。

時間はかかりますが、今後も番外編を追加していく予定です。

最後までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m

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