物理的で間接的な添い寝
period 1、前半部の最終になります。
少し短めですが、後半部に向けた一種の幕間としてお楽しみ下さい。
目を覚ませば、鳥のさえずりと、木々の間から差し込む微かな朝日に気付く。
地面から力強く伸びる樹木を背もたれにして、いつの間にか、優しく甘い香りが漂う『布地』で身をくるんで眠っていたようだ。
「………………んぁ……?」
ゆっくりとまぶたが開き、霞んだ視界の先で真っ先に目に入ったのは……目の前で、獣のように丸まって眠るイブキの姿。
俺の目覚めを敏感に察知したのか、直ぐにパチッと片目を開いて微笑みかけてきた。
「んっ……おぁよぉ、英雄さん」
「いや……何でお前、こんなところで寝ているわけ……?」
「家の中でも外でも、休もうと思えば何処でも休められるしねぇ。ほら、ワレって『鬼』だし」
「知らないが、そんなこと。ていうか、ちょっと待て……コレ、お前のだよな?」
「そだよぉ?」
よくよく見れば、俺が身体にくるんでいた布地は、いつもイブキが身に付けている着物だったような……。
もしかして、俺が寝ている間に掛けてくれたのだろうか……?
そして、目の前には……サラシだけを身に付け、殆ど裸体に近いイブキのあらわな姿が……。
「──ってぅおいっ!? 着ろっ! 風邪引くだろっ!」
半ば反射的に、イブキへ向かって着物を投げつける。
全身が着物で埋もれたイブキは、ワタワタとモタつきながらもそれを着直すと、少し不服そうに口を尖らせた。
「わぶっ! 風邪なんて生まれてこの方引いたことないも~ん」
「前は服はだけていただけだったのに、遂にやるとこまでやりやがったな」
「ん~…………あんま意識させないでほしいなぁ……ちょっと恥ずかしくなってきちゃったからさぁ……」
「自業自得だろ……ホント、何がしたいんだお前……」
「ふふっ。なんだろうねぇ、ワレもちょっとよく分かんないや」
彼女はそんなことを言いながら、少しだけ顔を朱色に染めて、頬を指先で掻きながら何処か照れ臭そうな笑みを浮かべる。
分かんないや、なんて言われるとこちらも困るんだが……。
「というか、もうナビードに従う義理はないんだから、俺を監視する必要も無くなった筈だろう。いつまで俺に付きまとうつもりだ?」
「あ~、それは確かに。だけど、その事でちゃんと言っておきたいことがあるんだよねぇ」
「は? なんだ、今更……?」
面倒な話じゃないだろうな……そんなことを思いながら、眉を潜めてイブキを見下ろす。
すると、彼女はわざわざ正座になってから深々と頭を下げ、彼女らしからぬ丁寧な口調でこう言ってきた。
「──湊本エルマ殿。此度は母上を助けて頂き、誠にありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」
「……!」
「つきましては。母上と比べて貧相な身体に御座いますが、以前に言っていた夜のお相手をさせて頂きたく存じ上げ……」
「──待て待て待て待て待て。何をノリノリで受けようとしてんですか?」
何やらトンでもない方向へ話がこじれ掛けていることを察して、即座にイブキの言葉に横やりを入れる。
すると、彼女は少し驚いた様子で目を見開いていた。
「えっ、本当に冗談だったの?」
「本気だったとしても普通は受けないだろ」
「それはほらぁ、ワレって『鬼』だし。普通とかよく分かんないからなぁ~」
「そう言えば全部納得されるとでも思ってんのか……?」
確かに、それを言い始めたのは俺だ。
だが、別にやましい気持ちがあった訳ではない。ただ、ああやって誰もがドン引きするような発言をしておいて、イブキに幻滅して貰えればそれで良かった。
それなのに、幻滅するどころか、むしろノリノリで距離を縮めてくるだなんて、誰が予想出来ただろうか。
「ふふっ、まぁ冗談はさておき────これからは気持ちを入れ替えて、『監視役』を続けさせて貰うからよっろしくぅっ!」
「………………もう盆地に帰れよ、お前」
さて、こうなって来ると、何故イブキがあくまで『監視役』に徹しようとするのか、本格的に分からなくなってきた訳だが……。
どちらにせよ、一人でひっそりと引きこもり生活を送れる時が来るのは、まだ少し先の話になりそうだ。
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