「紫式部と紫の上って、」
名前とヒロインのお話?
「なにやってんの」
「ひあっ!!」
カズキが覗き込むと、ユウキは椅子から飛び上がった。
ユウキはアニメ好きの影響か、時々漫画かと言いたくなるような大げさな行動をとることがある。
「何女子みたいな声出してんだよ」
「ヒトは本気で驚くと想像のつかない声をあげられることを実証できたな」
「ほーん、小説書いてんのか」
「ぎゃあああああああああ見ないで!!」
机の上にはノートと筆記用具、ノートにはキャラクターのイラストと設定らしいメモ書き、そして本文の書き出しが書いてあった。
「次はどんな話なんだよ」
「次は……現代源氏物語みたいな」
「そーいえばさー」
「聞けよっ!!」
「いやちゃんと聞いてるよ。源氏物語で思い出したんだけどさ、源氏物語を書いたのって紫式部じゃん?源氏物語の中にもさ、紫の上っていう『紫』が名前に入るキャラがいるじゃん?どっちが先に生まれたんだろうと思って」
「…あぁ」
「なんか知ってる?」
「知らない」
「知らんのかい。『…あぁ』はなんだったんだよ」
「相槌」
「アイヅチ…」
ユウキはさりげなく小説ノートをしまって、残ったシャーペンをくるくると回している。
カズキは持っていた飴をひとつくれてやった。
「そりゃ紫式部が先じゃない?本名じゃないにせよ一応名前なんだし」
「でもそう考えると紫式部はヒロインに自分の名前をつけたことになるぞ」
「素人の小説ってそんなもんじゃない?自分を勇者とかヒロインに仕立て上げて、自分中心で物語を進めてく」
「紫式部を素人呼ばわりしたぞこいつ」
「物書きに関しては素人じゃない?何十作品も書いていたわけではないし」
「源氏物語だけで何十作品だけどな」
「物語のキャラを考えるのって小説を書く前か序盤でやらない?」
「いや、やらない?と言われても小説書いたことないからな…」
ユウキは両手にペンを持ってまわし始めた。ちょっと得意げな顔をしているのが腹が立つ。
カズキはユウキにあげたのとは違う味の飴を口に放り込んだ。
「あ」
「?、どうした?」
「こういう考えもできるよね。源氏物語が有名になっていくにつれて、この作品自体が紫式部の代名詞になって、その中の一番のヒロインの名前から1文字とって紫式部と呼ばれるようになったとか」
「!!そっちのほうが納得できる!」
「あの時代の名前は人々の噂からあだ名がうまれて、それがまるで実名のように現代に残っているものが多いからねぇ。光源氏だってそうだよ。『源氏』は帝から授かった姓だけど、『光』は源氏が光り輝くばかりに美しかったことからついたものでしょう?」
「確かに。よく知ってるな」
「小説を書く者たるもの知ってて当然さ」
「最初知らないって言ってたし。ポケットからスマホ見えてるぞ」
「…ちっ」
そう言ってスマホと筆記用具をしまった。ペンまわしは飽きたようだ。
「あーぁ、小説書く気失せちゃったよ」
「アドバイスしてあげるからノートを渡しなさい」
「ぜっっっっっっったいやだ!」
「主人公の名前『ユウキ』だったりするのか?」
「ち、ちがうし!!!ぜったいちがうし!!」
「へえ~じゃあどんな名前なのかなぁ~」
「あっ!ちょ、やめろとるなあああああああああ!!」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
主人公に自分や知り合いの名前を、よくやりがちですよね。
え?やらないって?失礼いたしました。




