働き台風6 ランチ2
ビルの地下にレストラン街があり、エレベーターは一階止まりだったので吹き抜けの空間にあるエスカレーターで下りる。
途中、頭上の、さらにうえの円柱型の吹き抜けでは、天窓から白い光がさしこみ、きらきらと輝いていた。
円柱の内壁に筋状に刻みつけられている、幾本もの溝のようにもみえる各階の廊下には、大勢の社会人がいて、歩いたり、小走りだったり、談笑したりしている。
このビルに何人くらいいるんだろうねえ、と横で川瀬さんの声がして、つられてわたしも上向いちゃった、という。
前にいた長岡が、どうしたの、とふり向く。
その隣の松月は、人々が行き来する地下のフロアをながめながら、アリヅカみたいだな、とつぶやいた。
とんかつ、パスタ、カレー、うどん屋が並んでいる。コーヒーショップもあった。
さっぱりしたものがいいという松月の意見が採用され、うどんの山田屋に決まる。
僕は何でもかまわなかった。
五分ほど待ち、座敷へ通される。
店の通路わきに、古びた樽がひとつあった。
触ってみる。
樽は、なぜかべっとりとざらつき、身体じゅうの毛穴が塞がるような気味悪さで、さっと手をはなした僕の様子をうしろからみていた長岡がいう。
「これ、どこの山田屋にもあるんだよ」
メニューをみる間もなく山田屋という文字の入った割烹着姿のおばちゃんが、お茶とおしぼりを盆に乗せてくる。
注文はお決まりですか、とおばちゃんはてきぱきという。
すかさず松月が(さっぱりしたものがいいといったにもかかわらず)
煮込み
といったら、おばちゃんは、はい煮込みひとつ、と注文を繰り返す。
あ、じゃあ、俺もそれ、と長岡がいい、おばちゃんは早口に、はい煮込みふたつ、と繰り返した。
少し間があき、川瀬さんがあわてたように、天ぷらうどん、といったら、温かいほうね? ときかれ、あ、はい、とうなずく。僕はテーブルにあったメニューを手にしたまま、壁に貼ってあるメニューのなかから、とろろうどん、が眼に入り注文した。
おばちゃんは早口で四人の注文を繰り返して去っていく。
僕は、とろろうどんになんかしなければよかったと思いながら、上着を脱ぐ。
たとえどうあろうと、注文する前に上着くらいは脱いでおくべきだった。




