のんびり馬車の旅
森を出るときにゴブリンとは別れ、街道まで歩いていく。右手にはエルルの手をとり、胸ポケットにはハムマルが入っていた。
街道に出てからたっぷり2時間はエルルとおはなしができた。じゃねぇ、誰もこねぇぞ。
エルルに帰るぞといいかけたところで、彼女が馬車が来たと騒ぎ出した。
う~ん、見えない。
「ほんとに見えるのか? 俺にはぜんぜん見えないぞ」
「うん、あっちから来てるよ」
少女が指差すほうを目を細くしてみると、小さな点が見える。あれが馬車なのだろうか。そのまましばらく待っていると徐々に形が分かってきた。
「エルルは目がいいんだなぁ」
「えへへぇ」
頭を撫でてやると嬉しそうに顔を朱に染めて笑う。
「こんにちは、いい天気ですね」
「おぉ、ほんとにいい天気だ。こんないい陽気だと馬車に揺られてるとほんに眠くなっちまうだ」
細い道を馬車の通行を塞ぐ形で真ん中で立ち止まり挨拶をしたら、相手も機嫌よく返事を返してくれた。
結構緊張したー。
「どちらまで行かれるのですか?」
「この道っつたら、町しかねーべ。いや、途中の分かれ道から遠いがザックの町へも行けるだな。だけんども、ここを真っ直ぐ行った近いほうの町、ドレンへ後ろに積んでる荷を売りに行くだ」
馬車を引いている後ろの荷台部分を指差す。
「ちょうどよかった。この子と二人、町まで乗せていってもらえませんか? もちろんお代は払います」
「いいだよ、金なんか払わなくても乗せてってやるだ」
いかにも純朴そうな田舎のおっちゃんといった風な男は快く了承してくれた。
「それでは申し訳ないです。よかったら代わりに売りに行く予定の物を何か買わせてもらえないでしょうか」
そう口にしてポケットから銀貨1枚を取り出しておじさんに渡すとニコニコしながら荷台に案内してくれる。
ただでいいっていう好意にすがるのもいいが、逆に恩を売ったほうがいいと思うし、たぶんこれで間違ってない。
「それに見合うだけのものがあるといいだが、まぁ見てってくれだ」
そこには麦などの穀物や野菜、イスや木の食器などの村の木工職人が造ったもの、村の猟師が狩ったという獣の皮などが積まれていた。
おっ、イスとか食器なんかいいかもしれんな。
「そういえば、この道ってあまり人通りは多くないのでしょうか」
2時間くらいここにいたが、出会ったのはこのおじさんただ一人だったため聞いてみた。
「あぁ、この道はおらたちの村とドレンの道をつないでて、この先でザックの町への分かれ道があるだ。ドレンの町とザックの町との道は人通りが多いだが、こっちの道はおらたちの村の人間が使うくらいでほとんど人は通らねえだ」
うん、いいこと聞いた。
俺は麦を1袋、イスを2脚、食器をいくつか、動物の牙で作った首飾りがあったのであるだけ全部、といっても6個だが、それに獣の皮2枚を譲ってもらう。
もう少し選んでもいいといってくれたが、それ以外特に欲しいもののなかったため、乗せていってくれるお礼も含めてと銀貨もう1枚をおじさんの手に握らせた。
荷物はその場に降ろし、置いていくと言ったらおじさんはびっくりしていたが、そのうち知り合いが取りに来てくれるはずだと言ったらあっさり納得してくれたようだった。
「お前、足が凄く速いんだったよな。ちょっとダンジョンまで行ってゴブリンたちに荷物を回収するように言ってきてくれないか」
小声でこっそりと胸のポケットから顔を出しているハムマルに話しかける。
「主様、ものの10分もあれば行って帰ってこれるかと存じますが、精神安定化スキルの効果の範囲外となりますがよろしいでしょうか」
「いや、ちょっと自信ない……」
「タルミ様はあたしが守るんだもん」
胸を張ってそういう少女に俺はぐっときた。
こんな小さな子に守ってあげると言われるなんて情けないと思いつつ、俺の半分くらいしか背のない少女を軽く抱きしめると、心なしか気持ちが落ち着いた気がする。
「よし、行ってこい」
胸ポケットから飛び降りたハムマルが驚くほどの速さで走っていく。小さいのもあるが、一瞬でその姿が見えなくなってしまった。
「そんじゃ、そろそろ行くだよ」
おじさんの声に俺達は御者台へと登り、馬車に揺られ町へと向かう。
御者台では膝の上にエルルを乗せ、道中はずっとおじさんと雑談をしていた。天気の話題に始まり村での生活や町のことなど、ほとんど俺が質問してカールさんが答え、それを適当に相槌を打ちながら聞くといった感じだ。
ハムマルはほどなくして戻ってきたが、エルル効果かそれとも克服できたのか、特に不安感も感じずなんとか耐えることができたのはほんとによかった。
すみません、きりのいいところで切ったため少し短くなりました。
次は町です。