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第10話「Look Back Again」

あまねは気が付くと、公園のベンチで横になっていた。


前にも来たことがある、森に近い公園だ。なんでこんな場所で寝ていたのだろう。


手に布袋を持っていた。これは自分のもので良いのだろうか。


中身はお菓子とパンツ。……パンツ?

とりあえず家に帰ろう。駅はあっちの方だからその先だ。


日も高いのに何だか眠い。まだ寝ぼけているのだろうか。


駅前の交番の前を歩いていると、制服を着た警官に呼び止められた。

初めての事で少し動転する。補導とかだろうか、変な事はしていないのに。


言われるがままに、パトカーに乗せられて警察署に連れられた。


やましい事はしていないが、大勢の大人に囲まれて緊張する。


女性の警察官が、優しい声で質問してきた。


お名前は?

住所は言える?

今日は何を食べましたか?

今まで何処に居たの?

誰と一緒だったの?


住所を聞かれた後の質問が、一つも答えられない。自分でも訳が分からない。


そのうち部屋に両親が入ってきた。二人とも泣いてあまねを抱きしめてきた。


ママ、最近元気なかったけど、大丈夫なのかな。

大分瘦せた気がする。あれ、いつからママに会っていなかったっけ。


「あまね、身体は?お腹の……子は無事なの?」

「うん。……元気だよ。大丈夫」


何とも表現できない表情になる母親に、笑顔を見せるあまね。


大丈夫よ、ママ。難しいことは後でゆっくり考えるわ。


◇ ◇ ◇


焚火の前のバネッサ。


手のひらに乗せた「忘却の三角」をぼんやり見ている。


性格が悪い魔道具職人が設けた最後の仕様。


- 対象者(あまね)から魔法使用者(バネッサ)の記憶を全て消去する。


この魔道具は、忘却魔法を使われたことすら記憶から消してしまう。

何かを消された、だけでなく誰かに消されたという事実すら記憶から無くなるのだ。

消える記憶が2つではなく3つであるという仕様を、バネッサはあまねに伝えることができなかった。


あまねの中から、バネッサに関する記憶が、一切合切消去されたのだ。


「……無責任すぎます、よね」


しかしバネッサとしては、あまねにバネッサの記憶が残るのも、都合が悪い点も多い。

一概に職人ばかりを責めるのも気の毒かもしれない。


川辺で魔法を使ったのは、いつ目覚めるか分からない危険がある中、迅速にあまねを街へ送り届ける必要があった為、なるべく人里に近い場所で魔道具を使ったのだ。


ベンチで目覚め、ふらふらと歩きながら去って行くあまねの姿を、バネッサは物陰から見守りながら、今回の措置が正しかったかどうか不安だった。転生者ではない一般人の少女に魔道具を使い、そしてその後を見届けられない点について、自分がやってはいけない一線を越えたのかもしれない気がしてならない。


「忘却の三角」は救済装置。


過去の暗い記憶を消去し、明日への一歩を踏み出させるための魔道具。確かにその側面はある。バネッサもそのつもりで今回使用したが、あまねの人生を無責任に捻じ曲げてしまったのではないかと自責している。


しばらく、考え込んで大きく息を吐く。


あまねが何の記憶を消したのか不明だが、それで家族や周囲と調和して健やかな赤ちゃんを産んでくれたら、まずはそれでいい。そう信じるしかない。


難しい事は、後でゆっくり考えよう。久遠の自分には時間だけはたっぷりあるのだ。

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