エピローグ
結局、グリードに噛みついて全ての牙を失ってしまったプライドは、馬鹿らしくなったといい置いて姿をくらませてしまった。
グリードはあれだけのことを引き起こしておいてなんて無責任なと憤慨していたが、グリードがこれ以上傷つかなくて済むと知って私はとても嬉しかった。
人であることをやめた私は、ドライアドでありながら竜の眷属という奇妙な生き物になった。
ジルやイルと違い自由に動き回ることはできないので、今は火山に生えた一本の木として生活している。もっと力をつければ木を離れてもまるで実体があるかのように行動できるようになるそうだが、テレパシーで長に聞いたら「百年か二百年ぐらい」かかると言っていたので、気長にその時を待つつもりだ。
その後グリードは、地中のマグマだまりを大量の土で埋め尽くし、熱気が立ち昇らない普通の山にしてしまった。他にも養分のある土や水を運んできては山を育て、私の本体の成長を助けてくれている。
人間でも植物を育てたり庭園を整えることはあるが、竜は山ごと変えてしまえるのだなと面白く思ったりした。
それでも、労をいとわず環境を整えてくれるその姿に、改めて彼の眷属になってよかったと思った。
そして一年が過ぎると、すっかり形を変えた山には頑丈な植物の芽が芽吹き、グリードはその近くに庵と呼ぶには立派過ぎる別荘を建てた。
すぐに放り出すわけにはいかないとグリード竜王国の王を続けてはいるが、国が軌道に乗ったら王様業をスレインに譲り、自分はこの別荘で隠居するのだと常々零している。
その様は本当に人間の様で、私はこの竜のことが愛おしくてたまらなくなるのだった。
『グリード様』
「なんだ?」
今も、国の書類に目を通しながら、彼は難しい顔をしていた。
私は本体を中心に建てられた屋敷の中で、ふよふよと漂っている。
こんな運命が待っているなんて思いもしなかったけれど、あの日火山に飛び込んで本当によかった。
あの時は絶望しかもっていなかった私が、今はこんなに満ち足りた気持ちでいられるのだから。
『実体が出せるようになったら、私とつがいになって子作りしましょうね?』
「……っ!?」
驚きのあまり、人型をしていたグリードは動揺して角と尻尾を生やした。きりりとした凛々しい顔だって、今は真っ赤に染まっている。
かわいい人だ。
百年でも二百年でも、あるいはもっと、私はこの竜の傍にいられる自分の幸せに感謝した。




