答えの見つからぬまま、伝説となってしまった…
シュリアーゼの願いによってマディニア王国は隣のアマルゼ王国に支援部隊を送ってくれた。シュリアーゼが先頭に立って、支援部隊を指揮し、リリア達教会の人達も協力し、家をなくした人や、親を亡くした子供達を救済していった。
ユリシーズもアマルゼ王国に戻り、人々の為に働き始めた。
マディニア王国に逃げていたマディニア王と皇太子も戻って来て、国の復興に力を尽くした。
リリアには、あえて会わないようにした。
勇者としての力を尽くして、瓦礫を片付け、泥だらけになって働くことが日課となった。
田舎から父親も出て来て、共に働いてくれた。父親は大工である。
都の顔みしりの大工仲間を募って、建物を建てていく。
とりあえず、大勢の人が暮らせる長く大きな仮設の木の家だ。給金は国から補助が出ていた。
アマルゼ王国はマディニア王国に借金をしてでも、国の立て直しを図った。
ユリシーズは今日も働いていた。
父を手伝って、材料を運ぶ。木を運ぶのも力持ちなのでお手のものだ。
材料を切る時も、あの腕輪をノコギリに変形させて使えるのでとても便利である。
瓦礫を砕くときはでかいトンカチに変形させて力任せに砕けば程よい大きさに砕けた。
「勇者様、今日も有難う。私達国の為に働いてくれて。」
ユリシーズの顔を見れば、人々が感謝の言葉を述べる。
「当たり前の事をしているまでだよ。」
子供たちが、出来上がりつつある家を見て。
「うわーー。屋根があるっ。やっとテント暮らしから抜けられるんだね。」
喜ぶ子供達。しかし、親を亡くしているのだ。無理をして喜んで、勇者である自分に気を使ってくれているのが解った。
子供達に近づいてぎゅうっと抱きしめる。
「ごめんな。助けるのが遅れて。本当にごめん。」
子供達が泣きだして。でもけなげに首を振り。
「勇者様のお陰でこうして生きていられるんです。」
「感謝をしております。」
いつの間にか、ユリシーズ、リリア、シュリアーゼは英雄扱いになっていた。
「シュリアーゼ様が通るぞ。シュリアーゼ様。」
アマルゼ王国の復興の為、シュバッツア公爵と相談し、婚姻を遅らせて、いまだ、国の為に尽くす王女を人々は敬った。
「シュリアーゼ様っ。シュリアーゼ様のお陰でこうして生きていられます。」
「有難うございます。シュリアーゼ様。」
騎士姿で金髪をなびかせながら、シュリアーゼは。
「私はそんな大した事をしていない。お前たちの頑張りのお陰だよ。」
ユリシーズに気づいて、近づいて来た。
「ユリシーズ達、大工が協力してくれるので、復興が早く進む。有難う。」
ユリシーズは慌てて首を振って。
「ちゃんと給金貰ってるし、仕送りもお陰様で出来てるよ。俺こそシュリアーゼには感謝しないと。」
「当たり前だ。ただ働きじゃ生きていけないだろうからな。」
「あ、そうだ。復興が落ち着いたら、結婚するんだろう?」
ぽっと頬を染めて頷くシュリアーゼ。こういう所は乙女らしいんだからなぁと思いながら。
「結婚式には呼んでくれよな。」
「勿論、お前を呼ばなくてどうする?お前は良き友人だ。」
「そう言ってくれると助かるよ。強烈にビンタされた身をしてはね。」
「あの時は最悪だった。」
思い出したのか、眉を顰めるシュリアーゼ。
不機嫌に。
「水に流してやる。約束したぞ。必ず結婚式には出ろ。これは命令だ。」
「はいはい。了解したよ。」
シュリアーゼが帰っていくと、父親がやってきて。
「そろそろ昼飯にしようや。今のお方は…」
「シュリアーゼ姫だよ。」
「あの有名なっ。男らしい方だなぁ。さすが英雄だ。」
シュリアーゼの騎士である後姿を感心したように見る。
ユリシーズが笑って。
「女剣士だからね。さぁ飯食ってもう一仕事するか。」
仮設の家も建てて、もう少し復興が進んだら、故郷に改めて帰ろうと父と話した。
リリアを追いかけて家を飛び出てから、故郷に帰っていないのだ。
母も祖父母も会いたがっているだろう。
必死で働いて更に三月程過ぎた頃である。
仮設の建物の一つに泊まり、父たち大工仲間とごろ寝していると、外に怪しい気配を感じた。
外へ出てみれば、前に会った男がスーツとシルクハット姿で立っていた。
「お久しぶりです。勇者殿。その節はどうも。」
「確か、フォルダンとか言ったな。」
魔王の弱点を教えた魔族の男であることを思い出した。
男はニヤリと笑って。
「ルシェル・フォルダンです。私と共に来ていただけませんか。」
「どこへ?」
「こちらです。」
空に転移の魔法陣を展開する。
ユリシーズの手を引くと、ルシフェルは転移魔法陣の中に飛び込む。耳をつんざくような滝の音が聞こえて来た。
ユリシーズは目を見開くと、そこにはリリアが立っていた。
「ユリシーズっ。貴方も連れてこられたの?」
「リリア。君もか?」
ふと、見上げてみれば氷漬けにされた巨大な黒龍がこちらを見下ろしていた。
フォルダンは二人に向かって。
「貴方達が倒した魔王は今、ここに逃げ込んでいます。受けたダメージの為、氷漬けになっておりますがね…ほら、良く見て下さい。ヒビが入っているでしょ?」
ぱぁっと暗闇に灯りがともる。
黒龍の身体を覆う氷には無数のひび割れが入っていた。
リリアが叫ぶ。
「このままではどうなるの?」
フォルダンは灯りをともしながら。
「復活するでしょうな。怒りのあまり、人の世界に復讐するか。それとも魔界で暴れまくるか。どちらにしろ…」
フォルダンが何やら呪文を唱え始める。
ユリシーズの右手の腕輪が輝いて、剣を出現させる。
「生贄が必要なんですよ。もう一度。黒龍の眉間をその剣で貫いてくれませんか?そして、贄となって下さるとありがたいんですがね。」
リリアがフォルダンを睨みつける。
「許さないわ。ユリシーズを生贄にするなんて。」
「慈愛に満ちた女神様。それでも貴方は邪な女神様だ。この男に恋をしていますな。」
「恋なんてしていないわ。私は皆の為に…この世界を平和にするためにこの子を…ユリシーズを育てたの。恋なんてしていないっ。」
フォルダンがユリシーズに。
「女神の怒りに、ほら、魔王が呼応している…。ひび割れが増えてしまいましたよ。どうしますか。」
ぽろぽろと落ちる氷…。黒龍の心臓だろうか。身体の中央が光りだした。
ユリシーズは剣を構える。
リリアが叫ぶ。
「駄目っーー。ユリシーズっ。」
「今でも好きだよ。リリア…。俺は勇者だ。ねぇ。リリア。ほめてくれるよね。」
ユリシーズは飛び上がった。とても高い高い黒龍の額めがけて、飛び上がり、そして剣をその額に突き立てた。
氷が再び龍の身体を覆っていく。
ユリシーズの身体も同時に覆われて。
流れ出る滝も時を止めたように、全てが凍り付き、茫然と立ち尽くすリリアと、その状況を見てほほ笑むフォルダンがいた。
「おかげ様で、魔王を再び封じ込める事が出来ました。贄になった勇者様に感謝ですな。」
「この悪魔っーーー。」
氷を破壊したい。ユリシーズを助けなくては。
でも。それをしたら魔王を蘇らせてしまう。
今のリリアには止める力はない。
「私も共に眠ります…。」
リリアの身体が氷に覆われていく。
フォルダンは優しくリリアに向かって。
「いつか、魔王を超える真の勇者が現れるまで、お眠りなさい。その時はきっと…まぁ私は生きていない遠い先でしょうけどね。」
姿を消したユリシーズとリリアは伝説となった。
再び伝説が動き出すのは時を待たなければならなかった。
ルフェル・フォルダンはフローラのおじい様です。リリアはフローラのお母様。シュリアーゼはローゼン騎士団長のお母様です。ユリシーズは、フローラ公爵令嬢のお話で30年後に復活して魔王討伐を再び目指してます。




