どうやって生きたらいいんだろうか?
村に着いて白龍から降りる。リリアは降りずに。
「私は都へ戻るわ。都でやる事があるの。今まで有難う。貴方は貴方の生活を。」
突如突き放された。そんな気がした。
いつも一緒だったのに。
「嫌だ。俺、リリアと離れたくない。魔王を倒したからって俺は用済みか?」
リリアは龍から降りて、背伸びをしユリシーズの額にキスをしてくれた。
出会った時はリリアの方が背が高かった。だけど今はユリシーズの方が背が高い。
「さようなら。」
そういうと龍に乗ってリリアは去ってしまった。
ものすごく落ち込んでユリシーズが家に戻れば、両親と祖父母が出迎えてくれた。
母親がぎゅううっとユリシーズを抱きしめて。
「無事に帰ってきてくれてよかった。」
父親も。
「お前は我が誇りだ。本当に生きて帰ってきてくれて嬉しいぞ。」
祖母も。
「さぁ。御馳走のふかしたジャガイモを沢山、用意してあるわ。」
祖父が一言。
「嫁はどうしたのじゃ?嫁は。」
ユリシーズは涙を流して。
「親不孝を許してくれ。俺は都で暮らす。仕送りもするし。ちゃんと里帰りもするから。許してくれっ。」
だだっと外へ走り出す。リリアを追いかけるのだ。
恋する男の気持ちは止まらない。
リリアに会いたい。リリアに…。ユリシーズは村を飛び出て走り出した。
日が暮れようとしていた。
走りながら思った。
寒い…。そして腹が減った。
せめてジャガイモを食ってから家を飛び出せばよかったと。
川の音が聞こえたので、川辺に行き立って腕輪に念じる。
右手から金色の釣り竿が左手から金色の掬い網が飛び出した。
「魚、釣って食うぞ。腹が減って死にそう…いやその前に水だな。水。」
綺麗そうな水でも、飲んだら腹を壊すことがある。
網を一旦変形させて筒状の金色の水筒にした。水を汲み中で振れば綺麗な水になるように、願いを込めた。飲んでみれば美味しい水になっている。
すぐに竿がしなって魚がかかる。水を飲み干すと水筒を掬い網に変形させて、網ですくって魚を見れば結構、大きな太った魚が獲れた。
「こいつを食べれば腹が膨れるか。」
更に左の腕輪に念じれば金色の板に変形する。
木を集めて火をおこし、板の上に魚を乗せて焼いた。
程よく片面が焼けた頃に、右の腕輪に念じてフライ返しにし、魚をひっくり返す。焼き終わったらフライ返しをナイフにし、魚を解体してナイフに刺して、口に運ぶ。ほくほくした白身が美味かった。
リリアっーー。待ってろよー。必ず会いに行く。そして結婚の…。
女神は結婚できないんだっけ。
でも追いかけたかった。傍に居たかった。
「俺、リリアの事、こんなに好きだったんだ…」
空を見上げれば星が流れる。
ユリシーズ、魔王を倒した17歳の秋だった。
2日かけて、やっと都に着いた。
しかしだ。リリアはどこにいるんだろう。
都は瓦礫に覆われていて、逃げ出しても済むところが無く、戻ってきた人々が、焚火をしていたり、何か残っていないか探していたり、絶望のあまり地に転がっていたり。
さながら地獄絵図だった。
これが魔王の破壊の後。
薄汚れた子供たちが何人も座り込んでいる。
ふといい匂いが漂ってきて、人々がそちらへフラフラと歩いていく。
炊き出しを行っているのだ。
食事を配る女性たちの中に、リリアが居た。
「リリアっ。」
「ユリシーズ。」
その時、腹がぐうううっと鳴った。
リリアはパンとチーズの塊と、スープの椀を差し出して。
「まずは腹ごしらえよね。ユリシーズ。」
髪を優しく撫でてくれる。
「俺は、リリアの事が。」
「私は女神だから…。零れ落ちる命を救いたいの。」
リリアは目をつぶり、両手を広げた。
人々の上に美しく暖かな光が降り注ぐ。
「痛みが楽になっていく…」
「身体が暖かい…」
皆がリリアに感謝の伝えるかのように、祈りをささげる。
リリアは傷ついたこの国の為に、人々を癒し、腹を満たして助けようとしている。
それに比べて自分はなんだろう。
情けなくなった。
そしてその場を離れる。
しまったパンとチーズとスープを食べそびれ…。
すきっ腹を抱えて歩いていれば、見覚えのある顔が目の前に立っていた。
「お前に話がある。城に来い。」
女剣士シュリアーゼに引っ張られて王城に連れていかれる。
腹が減っていると言ったらシュリアーゼに豪勢な部屋に連れて、机の上に山のように料理が運ばれてきた。
洒落たソースがかかったステーキ肉、見たこともない上品な魚料理。パン一つにとっても、あったかく焼き立ての歯ごたえの良い丸いパン。バターやハチミツも申し分なく、一流で。サラダもシャキシャキしていて新鮮で美味しい。
腹いっぱい食べた後にくつろいでいれば、シュリアーゼは洒落た青いドレスに着替えて来た。
彼女は背が高い。さらに大人っぽく見える。
「父や他の王族は皆、隣国に逃げている。まぁ魔王が倒されたのだ。戻って来よう。
私は急ぎ、婚姻しなければならない。」
「へ?もしかして俺と?」
殴られそうになった。かろうじてよけたけど。
シュリアーゼはにらみつけて。
「ガキは好みじゃない。私は隣国マディニア王国のアスティリオ・フォバッツア公爵と婚姻が決まっている。隣国に逃げた父上達が話をつけてくれるといいが、まったくそこまで頼りになる父上や兄上ではないのでな。私がフォバッツア公爵と婚姻し、マディニア王に話をつけて貰おうと思っているのだ。この国への支援のな。」
「大変なんだな。」
「そこでだ。お前、私と共にマディニア王国へ行ってほしい。勇者が護衛となれば心強いだろう。」
いやいや、シュリアーゼに護衛なんて必要あるか??と思うユリシーズであったが口には出さなかった。
「承知したよ。」
「有難う。明日、騎士20名と共に出立する。支度をして付き添ってほしい。」
「それでさ。お願いがあるんだけど。報酬は出るのかな。俺、実家に仕送りしないとならないんだ。貧乏だし。」
シュリアーゼは頭を下げて。
「すまない。報酬は勿論、出させてもらう。そこまで考えなかった。生きるにはお金が必要だものな。」
シュリアーゼはいい奴だ。
「助かるよ。有難う。」
ユリシーズはその日は王城の客室に止めて貰った。
こんな広くて立派な部屋に泊まったことがない。
大きな湯船に驚き、でかいベットにころころと転がって王室の部屋生活を一晩満喫したのであった。
翌日は朝食を頂いた後、ユリシーズとシュリアーゼは馬に乗り、騎士20名と共に国境へ向かって移動する。
魔王が倒されたので魔物の姿は見当たらないが、山賊とかに襲われる危険がある。
注意して街道を移動していく。
国境に着けば、50名程の馬に乗った騎士団らしき一団を発見する。
こちらを確認したのか、白銀の鎧を着た騎士がこちらに近づいてきた。
馬から降りると、シュリアーゼに向かって兜を取り。
「私は騎士団長、アスティリオ・フォバッツア公爵。其方の婚約者だ。」
あまりの美丈夫ぶりにシュリアーゼはうっとりとしているようだ。
「迎えに来てくれたのか。アスティリオ殿。」
「ええ、シュリアーゼ姫。さぁ王がお待ちです。参りましょう。」
馬に乗って前を歩く二人の後姿を見つめながらユリシーズは思った。
いいなぁ…俺も嫁が欲しいな…と。
ふと、アスティリオが後ろのユリシーズに問いかける。
「もしかして君が勇者殿か。」
「ユリシーズと言います。」
「活躍は聞いている。魔王を倒したその強さ。見習いたいものだ。」
魔王を倒したっていったって眉間を突き刺しただけだもんな…いいのか?そんなんで倒れて魔王。
マディニア王国の城がある王都は、巨大な都市だった。
魔王や魔物による襲撃もなく、人々は幸せを謳歌している。
そういえば、この国は影で魔族と繋がっているとか言っていたな…あのフォルダンとかいう魔族が。
マディニア王はしたたかな王なのか…。
王城は、アマルゼ王国と比べると倍は大きく、城の中へ案内されれば年老いた王は自らシュリアーゼ達を出迎えた。
「良く来て下さったのう。」
「これはマディニア王、初めまして。わたくしはアマルゼ王女、シュリアーゼと申します。」
鎧姿のシュリアーゼは深く礼をする。
王はシュリアーゼを近くで見つめて。
「いやはや、アマルゼ王女は男勝りと聞いていたが、このような美しい姫君とは。フォバッツア公爵も幸せものよの。」
アスティリオは頷いて。
「はい。私は今日、初めて姫君のお姿を拝見しましたが、これほどの姫君とは幸せな限りです。」
アスティリオの言葉にシュリアーゼが赤面する。
ユリシーズはそんなシュリアーゼを見て、可愛いとこあるじゃんと思っていたりする。
シュリアーゼはマディニア王に向かって。
「お願いがあります。先程の魔王襲撃の為に我が国は壊滅的な状況にあります。立て直すにも時がかかり、その間に飢え死にする国民が多数出る事は確実。どうか、支援をお願いできないでしょうか。」
ユリシーズも国王に向かって。
「俺はユリシーズ。勇者です。どうか俺からも支援をお願いします。」
マディニア王はユリシーズを見て。
「君が勇者か…魔王を倒したという。」
「はいっ。そうです。」
「姫と勇者に頼まれてはのう。支援部隊をすぐにでも送ろう。食料や物資を持ってな。」
シュリアーゼとユリシーズは共に王に向かって。
「有難うございます。」
ほっとした。これで助かる命もあるだろう。
今日は王城の客室に泊まっていけとのことなので。
豪勢な夕食を王と共にした後に、また、広いベットと浴室を堪能したユリシーズであった。
「王族っていいよなぁ…天井が高い。」
疲れが出たのかうとうとする。
俺、少しはリリアに褒められる事しているかな…。
リリアに褒められる生き方をしたい…どうすればいいんだろう。
いつしかふかふかのベットで深い眠りに落ちるユリシーズであった。