縁がある
縁があるね、と誰かが言ったけど、あんまり憶えてない。
だってそれくらい、嬉しかったんだもの。
それというのも昨日、私の婚約者が決まったから。
相手は銀色の髪と紅玉の目が素敵な男の子。
ものすごい雨の日に温室に飛び込んできた男の子は自分をオズと言った。
なんでこんなとこにって聞けばよかったんだけど、あんまりな格好だったからうっかり忘れてた。
私のスカートを貸したらすごく照れてたなあ。
そうそう、あのドレスは元通りにならなかった。
バリバリって剥がしちゃったからあちこち穴が開いちゃったのよね。おかげでハナヲにすごく泣かれた。
でもそのドレスのおかげで素敵な男の子と仲良くなれたのって言ったら、創作意欲がわいたとかで飛び出してしまったっけ。
新しいドレス、スカートが20枚重なってないといいんだけど……。
まあそれはともかく、私達は無事に婚約式を終えた。
大人は大人の話があるから遊んでおいで、と二人そろって庭に取り残されたけど、6歳にもなってお庭で遊べって言われても困るわ。
こてんと首を倒していたら、オズがちょっと頬を赤くしながら温室が見たいと言った。
「僕らの出会いの場だし」
にっこり笑うオズ。笑顔が素敵。
でも、ごめんなさい。
「あの温室は離宮にあるから遠いの」
「そかー。残念」
「あ、でもでも、近くに水が流れるところがあるの。そこに四阿があるから、そこでもいい?」
というわけで、庭園の垣根をいくつか超えて、四阿に行く。
四阿の西側にはバラ園。
東側にはなぜか薬草園。
なんで薬草? と思ったけど、細かいことは気にしない。
二人で四阿のベンチに座る。
ちょっと高いので足がつかないのはご愛敬よね。大人になったら解消するだろうし。
足をぶらぶらさせていると、オズが私のドレスを見ているのに気づく。
「今日は、ふんわりしてないんだね」
「あれは特別製。っていうか、試着? デザイナーのハナヲが試しに作ったので感想聞かせてっていうから着てたの」
「そうなんだ。でも庭を散策するには不向きだよね?」
「私も出てから気づいた。戻ろうと思ったら雨になるんだもの。重たくて困っちゃった」
「確かにすごい布の量だったもんね。おかげであったかかったけど」
顔を見合わせて笑う。
「あの後怒られたんじゃない? 大丈夫だった?」
「平気よ。ドレスはハナヲに泣かれちゃったけど、お父様もお母様も工夫できてえらかったねって褒めてくださったわ」
「それならよかった」
「そっちはどうだった?」
「僕? 僕も大丈夫だったよ。というかよく生きてたって泣かれた」
「そっかあ。お互いに怒られなくてよかったね」
誰だった怒られたくはないものね。それにあの時は寒かったんだもん。オズがいてくれて助かったわ。
突然現れた男の子と婚約するなんて思いもしなかった。
でも今思うとこれが縁なのかも。
私は人見知りはしないほうだけど、初めて会った人とすぐに仲良くなれるほど子供じゃないと思ってる。特に男の子はそう。苦手だなって思うこともある。兄弟だけどお母様が違う上のお兄様とか、意地悪してくる同じ年の弟とか、顔見ると逃げたくなるもの。
でも、オズには初めて会ったときから仲良くなれる気がしたの。
だって、何を話しても楽しいんだもの。
「アンと一緒ならどこでも楽しそうだね」
そんなことを思っていたとき、オズが言った。
思わず耳が熱くなる。
「私も同じことを思ってたの」
そう答えたら、オズは顔を真っ赤にしながらそっと手をつないでくれた。
読んでいただいてありがとうございます。
ちょっと短いですが切りがよかったのでアップしました。
あと少し子供時代をかいたら一気に15歳くらいになり、全寮制の学校に入学する予定です。