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いいことがある

 いいことがあると言われて隣の国に連れていかれたのは一昨日の夜のこと。

 ぼんやりした月が出てるなとしか思わなかったけど、カタコトと揺れる馬車のリズムに合わせていたらいつのまにか寝ちゃってた。


 そのまま朝になって、気づいたら叔父上の膝枕で寝てた僕。

 起き上がって叔父上におはようのキスをして、外を見たら別の国(国境は越えてたから間違ってない)だった。

 どんよりと重たい雲が空一面を覆ってる。

 晴れた日が続くボルト王国とは違うんだなあと実感する。

 一晩中走っていたのか、馬車はカタコトがガタゴトになってた。メアリ(右の馬)もリンダ(左の馬)もダイソン(頼れる御者)も疲れちゃったんだろうな。


 大丈夫かなと心配してたら、ポツンと雨が降ってきた。


「これはまずいな」


 隣にいる叔父上が舌打ちをする。

 たしかに、雨の中だと馬たちもダイソンもくたくたになっちゃうね。


「どこかで休むの?」

「いいや、残念だが時間がない。ダイソン、行けるか?」

「がんばります。これ以上雨がひどくなるとメアリの古傷に響きますからね」


 ほおれ、と声がして、ピシリ、と鞭の音が続いた。

 馬車はぐんぐんと速度を上げる。

 外の景色がどんどん流れていく。馬車の揺れがひどくなって体が何度も浮いた。尻が痛いけど頑張る。僕は男の子だからね。


 そうしてしばらく我慢していたら、馬車が大きく揺れた。


「あぶない!!」


 外からダイソンの叫び声がする。

 なんだろう、と思わず窓から身を乗り出したら、馬車が勢いよく弾んだ。


「ひゃっ!?」


 はずみで転げ落ちた。

 運悪く馬車はそのまま行ってしまった。馬たちを驚かせた何かがあったらしい。ダイソンと叔父上の声が遠くなっていく。


「あー、やっちゃったなあ」


 呟いた途端、川の底が抜けたような土砂降りになった。




 どこをどう歩いたのかわからない。

 全身びっしょりになって、寒いし困ったなと思ってたら、遠くに小さな明かりを見つけた。

 何とか走って、たどりついたのはガラス張りの温室だった。

 こんな立派な温室があるってことは、どこかの貴族の庭に運よく迷い込んだのだろう。

 よかったよかった。

 僕って運がいい。


 急いで中に飛び込むと、温室の端で女の子が椅子の上で膝を抱えていた。


 僕はとってもびっくりした。

 女の子もとっても驚いているようだ。


 固まっていると、女の子はゆっくり近づいてきた。

 濡れたはちみつ色の髪を耳の下で二つにしている、女の子。

 バラみたいに広がったドレスがすごい。そう思っていたら、突然腰に手を回し、ペロンとスカートを一枚剥がした。


「ごめんなさい。こんなのしかないの」


 言いながら、僕の腰に回す。

 おおおお、女の子の体温が腰回りにいいい!?

 しかもこの子、よく見たらものっすごい可愛い! 可愛い子を見たことがないとは言わないけど、その中でも一番可愛いんじゃない!?


「でも、すごく濡れてるから服を脱がないと風邪ひいちゃう。でもあなたの裸を覆うものがないので、これで我慢してほしいの。隠れなかったらもう一枚取るわ」

「え、あ、うん……」

「濡れた服は気持ち悪いわよね。私も濡れちゃってるんだけど、このドレス、一人じゃ脱げないの。だから寒いのを我慢してるんだけど、貴方はその服を一人で脱げそうだから、必要がないでしょう?」


 言われて初めて、全身ずぶずぶに濡れてたのを思い出す。

 僕はぶるる、と身を震わせて、両肩を抱きしめた。


「そういえば、少し涼しいね」


 苦笑すると、女の子は面白そうに笑った。




 それからいろいろ話をした。

 女の子はアンと言うそうだ。このドレスはアンのところのデザイナーが作ったそうだが、アンはあまり好きじゃないと言う。


「でもドレスが役に立ったから、ハナヲには感謝しなくちゃね」


 確かに。

 ドレスからはぎ取ったスカートはすべて四角かったから、敷いてよし掛けてよしだった。薄い布だけどすべすべしてとても気持ちいい。

 でもあんまりあったかくはなかったから、アンと二人で身を寄せ合ってぐるぐる巻きつけた。

 アンの体温、あったかくてとても気持ちいい。


 色々話をしているうちに眠くなって、気づいたら寝ちゃってた。




 そして今に至る。



 目が覚めると知らない部屋だった。

 叔父上が泣きそうな顔で手を握っててびっくりだ。横ではダイソンが大泣きしてる。すごく心配してくれたんだって。なんか嬉しい。


 僕が転げ落ちたとき、近くで魔獣と冒険者が戦っていたんだって。

 町の近くに大きな魔熊がいて危ないからって、冒険者の皆さんが頑張ってたそうだ。たまたま運が悪く魔熊がこっちに威嚇を放ったそうで、馬たちが怖がって逃げたんだとか。

 馬車を制御するのに必死なダイソンと馬車から落ちないようにしがみついていた叔父上は僕が魔熊に殺されたんじゃないかととても心配してた。

 魔熊かあ、気づかなかったなあ。

 雨のおかげで僕の匂いが消されてたんだろうって叔父上が言ってる。

 僕って運がいい。

 可愛い女の子にも会えたしね。




 次の日、僕ってものすごく幸運なんだなって思ういいことがあるんだけど、その話はまた別の日に。







読んでいただいてありがとうございます。


オズ視点は婚約パーティにする予定だったのですが、ちょっと前に入れてみました。

ちなみにこの子たち、6歳の設定です。

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