雨の日が好き
雨の日が好き。
一人でポツンといる温室の屋根を雨粒が叩く音が好き。
いつもより静かだから葉っぱに落ちる音が聞こえるのも好き。
窓の表面を流れていく雫を見るのが好き。
雫が集まって流れていくのも好き。
風が強くなって横に流れる雨も好き。
でも、濡れるのはあんまり好きじゃない。
温室に来る途中にいきなり雨が降ってくるなんて思わなかった。
走って温室に飛び込んだものの、そのせいで一緒にいたリアラたちにはぐれてしまった。
すごい雨で前が見えなかったものね。仕方ないよね。
温室の中はほんのりとあったかい。
雨で冷えた体が少しだけ緩む。
うん、でもやっぱり寒いかも。
濡れて貼りついたドレス、どうしよう?
誰も見てないからいいよね、脱いじゃっても。
う、一人じゃ脱げないかも、しれない?
困っちゃったなあ……。
とりあえずそこにある椅子に座って、と。
ちょっとギシっていったけど、あれよね、ドレスが重いからよね?
部屋にあるのと違って足が細いからちょっと心配。
でもこのテーブルとか椅子とか、誰が持ってきたのかな? 庭師のオスカーかしら?
大きなテーブルの上にはちっちゃな鉢やスコップがあるから、ここで作業してるのかもね
テーブルは温室の壁にくっついてる。
壁は全部ガラスだから、雨粒が当たって地面に落ちていくのがとてもよく見える。
綺麗。
ガラスに当たる大粒の雨がバチバチ、ベチベチ、って大きな音で打ち付けてくる。
ガラスのおかげで守られている私はその音を聞くのが好き。
温室の端のちょっと壊れた屋根から水が入り込んできてバケツに適度なリズムを刻む。
ぺちん、ぺちんって聞こえて可愛い。
ふふ、なんか幸せ。
そんなことをしてたら。
突然知らない誰かが温室に飛び込んできた。
ちょっとびっくりした。
ううん、とってもびっくりした。
目をぱちくりして相手を見る。
それは私と同じ年頃の男の子だった。
全身ずぶぬれで川に飛び込んだみたいな感じ。
上着の裾からぽたぽたと水が落ちて地面に水たまりを作っている。
銀色の髪が貼りついてどんな顔かよく見えないけど、はあはあと肩で息をしているのを見てたら気の毒になった。
「大丈夫?」
椅子から降りて近づく。
そういえば私もびしょびしょだった。
でもきっとこの子より濡れてない。
何か拭く物はないかしら?
はしたないけれど仕方ないよね。
「うわわ……」
男の子が両手で顔を隠す。
たくさん巻き付けられているドレスのスカート部分をほどいて取り外した。
このドレス、デザイナーのハナヲがふんわりさせるためとかいってたくさんスカートを巻きつけたせいで10枚くらい重なってるのよね。柔らかくて軽いドレッドスパイダーシルクだからいいけど、そうじゃなかったら動けない。
「ごめんなさい。こんなのしかないの」
言いながら、男の子の濡れた腰に回す。さすがに肩とか頭には無理だった。恥ずかしいもの。
「え、ええっ!?」
男の子とてもビックリしてた。そりゃそうよね。ドレスは綺麗だけど私が身に着けてたものね。ごめんなさい。
「でも、すごく濡れてるから服を脱がないと風邪ひいちゃう。でもあなたの裸を覆うものがないので、これで我慢してほしいの。隠れなかったらもう一枚取るわ」
「え、あ、うん……」
「濡れた服は気持ち悪いわよね。私も濡れちゃってるんだけど、このドレス、一人じゃ脱げないの。だから寒いのを我慢してるんだけど、貴方はその服を一人で脱げそうだから、必要がないでしょう?」
早く脱げ、という目で見ると、男の子はやっと自分の状況を理解したようだった。
ぶるる、と身を震わせて、両肩を抱きしめる。
「そういえば、少し涼しいね」
苦笑した男の子の足元は服から滴る水で大きな丸ができていた。
雨はまだやまない。
屋根を打つ雨音が大きくなり、遠くで雷が光った。
「きゃっ」
と叫んだのは男の子のほうで、思わず笑ったらジト目で睨まれた。
「雷嫌いなの?」
「嫌いって言うか、三番目の兄上の魔法が雷なんだ」
「そうなんだ。私は水よ」
「僕は、氷なんだよね」
「へえ、珍しいね」
魔法の話で盛り上がる。
氷は風と水と光の複合って話をどこかで聞いた。いいなあ、珍しいの。
「そういえば名前聞いてなかったね。僕はオズ」
「私はアンよ」
今更自己紹介しあう私達。
今は二人とも薄着になっていて、寒いから身を寄せている。
大きなテーブルは二人で乗っても大丈夫だったから、湿った地面を避けるために二人で登った。
二人で転がっても大丈夫なくらい大きいのも嬉しい。
下着姿のオズと私はバラバラにしたスカートの半分をテーブルに広げ、その上に乗ってる。二人でくるまってるのもドレス。邪魔だと思ってたけどたくさん重なってるのって悪くないのね。
「私のドレスなんかでごめんね。嫌じゃない?」
女の服に包まるとか、男の子には気持ち悪いかなと心配したら、オズは顔を赤くして手で隠した。
「ごめん。なんかいい匂いとか思ってた」
「!!!」
「ほんとごめん。もうほんと、落ち葉に埋もれたい……」
テーブルの上じゃなかったら転がってたかもしれない勢いのオズを見てたら私も頬が熱くなった。
数時間後、雨の中ではぐれた人々が探しに来た時、私はオズと抱き合って眠ってた。
オズの体はとてもあったかくて、幸せな夢を見た気がする。
ボルト王国の第七王子のオズワルドとアーネット王国の第十王女の私が婚約したのはその一週間後の話。
読んでいただいてありがとうございます。
このお話は「ただただ仲の良い婚約者同士がイチャコラするだけの話」の習作です。
恋愛描写が苦手なので、甘々になってるか心配です。他の話の登場人物はほぼ全員恋愛下手なので……。
こんな感じですが、お付き合いいただけるとありがたいです




