まだ先は長いと思っていたのに
まだ先は長いと思っていたのに、気が付いたら季節は回って、いつのまにか最高学年である三年生になっていた。
忙しすぎて月日が経つのが早かったんだろうな、体感だけど。
学校のイベントも恙なく終え(うちのクラスはいろいろとやらかして伝説になり、下級生のファンが増えた。主に僕以外の男どもに)、早くも卒業後の進路の提出が求められる時期となっている。
僕はホットスプリング侯爵となって領主になるので進路に関しては何もすることはない。婚約者がいる奴らも同じ。僕と同じく卒業後は結婚して自分たちの領地に根を下ろすか、家で定められた仕事に就くから、進路について悩むことはない。
そいつらと一緒に悩む悪友たちを高いところから見下ろしてやろうとニマニマしていたら、意外にも全員ほぼ即答の形で進路希望書を提出した。
これには教師もびっくりだ。
だけど、調査書を見たガロン先生はうわあと呟いてため息を吐いた。
「お前ら……、俺が出せと言ったのは夢物語じゃないんだぞ。書き直し!」
その言葉に、僕以外の面々は大いに抗議した。
「夢じゃないよ、先生!」
「ほぼ現実!」
「もう根回ししてあるし!」
「親の承諾も得てます!」
口々に飛び出す言葉に、ガロン先生は頭を抱え、恨めしそうに僕を睨んだ。
「オズ、お前、生徒たちになにしてくれてるんだ……」
「え、僕ですか?」
何のことやらさっぱりだ。
首を傾げていると、ガロン先生は僕の机にクラス全員分の進路希望調査書を置いた。
「先生、これ、僕が見たらダメなやつじゃないんですか?」
「……、いや、確認しろ」
確認?
何だろうと思いつつ、ぱらぱらとめくっていく。
全員分を見終わったときり僕の顔は、先生のとたぶん同じだったんじゃないかなあ。
「みんな、あれって、冗談じゃなかったのか?」
そこには判を押したように全員が『ホットスプリング領で働く』と書いていた。
確かに、一年の夏休みに魔法剣士科1組と魔術師科1組の全員で領地に行った。初回はあまりにくたびれた領地に全員唖然としていたけど、その後も何度かみんなで出かけたっけ。旅費が全部僕持ちだからねって言われてたからひどいなと思ってたが、違ったのか?
そういえば、その後も足を運ぶ僕に常に誰かがついてきた。だからうちのクラスの全員がホットスプリング領ではほぼ顔パスだ。
アンは王妃様に止められて僕ほどまめにはいけなかったけど、その分、魔術師科1組のキールやシュウエイがよく来てた。こちらも顔パス。まあ人が少ないからよそ者が目立つってのもあるんだろうけどね。
「たしかゲイブとジェフは卒業したらすぐ騎士団に入団するって聞いたよ」
「その話はなくなったぞ」
「情報が古いよ、オズ」
僕の問いに、クラスで1位2位の剣士がニヤリと笑う。
「国境の僻地ではあるが、修行にはちょうどいいと父から許可を得た。領主には護衛騎士が必要だしな」
ゲイブが親指を立てると、ジェフがゲイブの脇腹に拳を打ち込んだ。
「それにな、こいつ、魔術師科の女の子にホットスプリングに付いて来てほしいって膝をついて言ってたんだぜ」
「ばっ! 馬鹿! ななな、なにを! ルシールは向こうの教会で聖歌隊を指導することになったと言ってたから……」
ルシールって、魔術師科1組の癒しと呼ばれているぽっちゃり可愛い女の子だったよね。母君が街で音楽教室を開いているって言ってたからその関係かな?
って、いつの間にくっついてたの!? 後で聞かねばなるまい。
まあそれはともかく。
「ジェフはなんでそんなこと知ってるの?」
「そりゃあ、卒業後はホットスプリングの湧き水でパンを焼くことにしたからだな。秋祭りの時にパン屋の親父さんと仲良くなって分けてもらった酵母が最高なんだ。今じゃ家のパンは全部その酵母を使ってるんだぜ。春になったら弟子入りすることも決まってる」
「マジか!?」
「ああ。あとクラリッサもホットスプリングの商業ギルドに来てほしいって懇願されてるって聞いたからさ。卒業したら家を探さなくちゃなって話してるんだ」
「え? クラリッサと? 何故に?」
「ああ。卒業したらすぐに結婚するつもりだからな」
気が付けばうちのクラスの婚約者がいない男どもは同じく婚約者がいない魔術師科1組の女の子に手を出していた。
なんということだ……。
「そう言えばスズもキールとうまく行ってるんだよな?」
「シンシアはヒイロと、ね」
「婚約者がいないやつらは大体くっついたな」
うわあ……。逆バージョンもあったか……。
まあそうだよね、一緒に旅行したりしていたら、自然とそういうことになるよね。
僕もアンと二人で馬車の中にいて、まあ、いろいろしたもんなあ。
などと感心していたら、ガロン先生はさらに頭を抱えた。
「性格にやや難はあるが将来有望で宮廷や騎士団から指名が来てる奴らばっかりなのに、なんて言って断ったらいいんだ……」
性格に難ありって、先生、言い方!
まあ、気持ちはわかる。ゲイブやジェフは2組の男どもと一線を画すほどの使い手に成長しているし、女の子たちだって卒後すぐに王妃様付きの近衛になれるくらいの腕前がある奴らばっかりだ。
学校としては『将来有望』と言われてる生徒たちがごっそりと辺境に行くなんて、ってなるよね。
仕方ない、ここは一肌脱ぐか。
「みんな、気持ちは嬉しいけど、これって希望だよね? 全員を受け入れる余裕が僕にあるとは思えないんだけど」
情けない理由だと自分でも思うが、仕方ない。
去年の秋祭りからホットスプリング領の予算関連の話には参加させてもらうようにしているから懐事情は知ってるつもりだ。将来有望な若手はありがたいけど、ジェフみたいに市井に降りるならともかく、ゲイブのように僕の下で働く者を、たとえ領主になるとはいえ、僕一人では決められない。
だけど、その理由は逆効果だった。
「オズ、それは、解決できるんだ」
「ガロン先生?」
「ホットスプリング領みたいな過疎地に卒業後すぐ就職する生徒に限り、教育資金として王宮から半年分の給付金が領主に出る。もとは王都以外に行きたくない、田舎なんて嫌だという生徒への対策だったんだが、まさか裏目に出るとは……」
ということは、ここにいる全員が来たら結構な収入源に!
「よーし、みんなまとめて引き受けちゃうぞ!」
「頼む、やめてくれ!!」
頭を抱えるガロン先生を横に、僕はさっそくクラスの仲間と行く夏休みの予定を立て始めた。
ちなみにほぼ同時刻に魔術師科1組のカーチス先生も同じように青い顔で頭を抱えていたらしい。なんかいろいろごめん。大丈夫、魔法剣士科も魔術師科も2クラスあるから1クラス分ごっそりいなくなったところで問題なんてない、と思う。
にぎやかに将来のことを語る仲間たちの顔を眺めつつ、僕はアンとの生活がさらに楽しくなる未来を想像してただただニヤニヤしたのだった。
読んでいただいてありがとうございます。
「ま」行に入ったので巻きで行きました。ま、だけに(マテ)
2年経ってオズとアン以外にもカップルが成立したようです。
ちなみにゲイブとルシールは女装した時に化粧をしたのがなれそめだったりします。この二人の話はいつか書きたいなあ。




