弾けた笑顔の美少女
弾けた笑顔の美少女がこちらに向かって走ってきた。
すらりとした長身の少女で、キラキラとした銀色の髪に巻き付いた真っ赤な細いリボンが目の赤とあっている。フワフワしたスカートが走るたびに揺れて、長い足がちらちらと見えていた。
それを見たクラスメイトの皆様が口を開けて固まっている。
まあ、すごい美少女なのに、なんというか、男性的な走りっぷりだものね。
その美少女、なぜか嬉しそうに私の元に一直線に向かってくる。
見たことのない顔だけど、知り合いだったかしら?
首を傾けて考えていたら、正面まで来た美少女はがっつりと私に抱き着いた。クラスの皆様が悲鳴を上げて駆け寄ってくる。
でも、上からかぶさるように抱き着いてくるこの体温のは憶えがある気が……。
「アン! そっちは何やるの?」
キラキラした顔をじっくり見ると、ピンクのぷるふるリップをしたオズがにこりと笑っていた。
直後、周囲の生徒全員が悲鳴のような声をあげた。
「オズワルド様のところはメイド・従者喫茶でしたか」
可愛らしいエプロンドレス姿のオズを教室の奥に引っ張り込むと、品出しの準備をしていたキールが笑顔で迎えてくれた。
まあ、ほかの方々は口を開けて固まってしまったけども。
皆様はオズを認識すると一斉に脱力し、素敵な笑顔で椅子を勧めてくれた。ついでに私の分まで出してもらって申し訳ない。
「ありがとう。でも僕も抜け出したから腰を落ち着けると怒られる。すぐに戻るよ。邪魔してごめん」
いつものように気さくなオズが頭を下げると、クラスの皆様は温かく微笑んでくれた。
キールが品物の一つを持ってきて、オズに渡す。
「せっかくだから買ってくださいよ。お安くしませんけど」
「あ、これ、こないだもらった飴だね。美味しかったからほしいけど、今お金持ってないんだよね」
「大丈夫、代金はアンにもらいます」
「10個入りなんだね。それじゃ2袋くれる? うちのみんなで分けるよ」
「まいどあり」
どさくさに紛れて私のお財布で買い物されてしまったわ。
「ありがとう、アン。大好き」
ちゅっ、と唇にキスされる。唇全体を覆うように密着させて、ぱっと離れると、ぺたぺたした感触が残った。
「ふふ、同じ色の唇になった。女装した甲斐があったな」
「もおっ、オズったら」
美少女にキスされたみたいで、不思議な背徳感。
「はいはいはい、こんなところで見せつけない。このバカップル」
フローがパンパンと手を叩きながら入ってきた。
はっとして見回すと、クラスの皆様がなんとも言えない顔をして微妙に視線をそらしている。
「……、砂糖吐きそう」
「……、彼女欲しい」
「……、甘い、甘すぎる」
「……、尊みがすぎる」
確かに、皆様の前ですることではなかった。私は両手で頬を押さえて赤くなってしまった顔をごまかす。目だけ上げると、オズはすごい勢いで何度も頭を下げていた。
少し時間をもらえたので、オズと一緒に魔法剣士科1組に向かった。
オズが休んでいた時にいろいろ気遣ってもらったので、皆様とは親しくさせてもらっている。あの大きな方々がどんな装いをしているのか、楽しみだな。
ふふ、と笑い合いながら、オズと手をつないで歩いていると、魔術師科2組の教室から見たことのない生徒たちが出てきた。
「これに懲りたら逆らうんじゃねぇぞ」
「馬鹿野郎が」
「魔法ができるからって威張ってんじゃねえ」
なんだかずいぶんとガラの悪い方々。
無意識につないだ手に力が入る。
「何見てんだよ、ねーちゃんよ!」
固まっていると、ガラの悪い生徒の中から体の大きな一人が出てきて私たちのすぐ前に来た。
オズが一歩前に出て、私を背中に回す。
「おう、これはまた綺麗なメイドさんだな」
「俺たちの相手してくれるのかい?」
「胸はないがすらりとしていい体してんじゃねえか」
大声の笑いに背中が震える。
無意識に魔力が溢れ、空気を揺らした。私の魔力に反応したのか、生徒たちから耳鳴りのような小さな流れを感じる。
さて、どうしよう。
そんなことを考えていると、ガラの悪い生徒たちの一人が首を伸ばして私を見た。
「おっ、後ろにいるねーちゃんもかわいいな! 二人まとめて相手してやるか」
ぐへへと笑いながら手を伸ばした瞬間。
「あ?」
私の手をつかんでいたオズの手が一瞬離れた。
同時にものすごい大量の魔力がオズからあふれ出し、近くの窓という窓をバリンバリンと砕いていく。
それらはすべてオズの頭上に集まったかと思うと、一つにまとまり、冷たい雪の輝きをまとった凶器になった。
「僕のアンに手を出す? 死にたいのか?」
今までに見たこともないくらい冷たい紅玉の目がガラの悪い生徒たちに向けられる。私に向かって伸びかけていた手は指先から凍り始め、つららができていた。見ると彼らの足は氷で固められ、身動きできない状態になっている。
「このまま指先から氷を砕いたら、どうなるかわかるよな? 僕のアンに汚い手を出した報いだ。指の一本くらいはいらんだろ?」
冷たく吐き捨てるたあと、口元がわずかに上がった。
「ひっ、ひいいいっ!」
生徒の股間が生温かいもので濡れるが、出る端から凍り付いてしまう。凍てつく空気に包まれ、祭りの準備で浮かれていた空気が四散した。
そのとき、パン、と手を叩く音がした。
「そこまでよ、オズワルド殿下」
ふっ、と空気が緩む。オズの頭上に浮かぶガラスはそのままに、柄の悪い生徒たちを固めていた氷はすべて、元からなかったかのように消えていた。
「窓がないといろいろ不便だわ。元に戻してくれる?」
「……、ああ」
パチン、とオズが指を鳴らすと、頭上のガラス片はあっという間に窓枠に戻り、元の一枚ガラスに戻って窓にはまった。
「そんな物騒な術、校内で使わないでくださらない? わたくしの授業より先進まれているのは困るの」
そう言いながら出てきたのは魔術師科2組の担任、ダーラ=クルー先生だった。
ぺこりと頭を下げたオズは、困った顔で先生と私を見る。
「だって、うっかり窓割っちゃったから、何とかしなくちゃって思ったんですよ」
「それにしたって、頭上に集めるなんて。どこの脳筋から習ったの? 馬鹿なの?」
「うう、ごめんなさい」
「それに、どんな事情があるにせよ、学院内で魔法で生徒を傷つけることは禁止されてるわ。オズワルド殿下、事情を聴くから私についてきて。いいわね?」
「はい」
オズはがっくりうなだれると、私の手を優しくとった。
「ごめん、ケガはない?」
「あ、うん」
「よかったー」
ぎゅっと抱き着いてくるオズはいつもの顔だ。
「悪いんだけどさ、クラスに行って事情説明してくれる? 参加できないかもしれなくてごめんって」
「オズ……」
「まあ、ほら、こんな姿、あんまり人に見られたくないしねえ。結果オーライだったかな、はは」
そう言って、しょんぼりと手を振る。
魔術師科2組の教室から複数の生徒が出てきて、ダーラ先生とオズとともに柄の悪い生徒たちを引きずっていった。
私は1組の教室から飛び出してきていたフローに肩を抱かれたまま、少しの間動けなかった。
読んでいただいてありがとうございます。
登場人物紹介と設定メモを追加しました。
今回は不穏な空気でスタートですが、ただいちゃつくのが目的の話なのですぐにいつもの雰囲気に戻る予定です。




