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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
34/121

ある日の短編:EVERMORE/2017

 最後に表示されるイラストをもとに書きました。

 昨年書いたエピソード(https://ncode.syosetu.com/n9925dq/9/)に、意識して似せているところもあります。

 色々書いてみて、霧原の中でもキャラクターに対する大きな変化がありました。お時間があれば、読み比べてみてくださいね。


 登場キャラクター:ユカ、政宗、統治

 約10年前、彼らは決して切れない『縁』で結ばれた。

 でも、同時に……その『縁』は鎖となって、彼らを締め付け続ける。


「……」

 とある平日の午後、東日本良縁協会仙台支局にて。

 名杙統治は自分の席で仕事を進めながら……ふと、今は主がいない二人分の机を見つめた。

 本来そこに座っているはずの佐藤政宗と山本結果は、2人して『遺痕』対策に向かっている。間もなく戻ってくるとは思うが……この部屋に1人でいると、つい、仕事の合間に色々なことを考えてしまうのだ。

 統治はそっと机上のスマートフォンを操作して、画面に1枚の写真を表示させる。

 それは今年の6月、『この3人で』撮影した『唯一の』写真。

 自分がいて、政宗がいて、そして――『成長した』ユカがいる。

 生命縁の異常などが重なり、急激に成長した彼女は、記憶こそ欠落していたけれど……でも、統治が短期間で違和感なく接することが出来た、『山本結果』だった。

 そして、彼女にずっと思いを寄せてきた政宗と結ばれて、ハッピーエンドになるはずだったのに。


 現実は、そう上手くはいかない。

 今は全て――『元に戻った』。

 そのため……根本的な問題は、何一つとして解決していない。


 ユカは相変わらず生存が綱渡りだし、政宗は相変わらず自己犠牲が強い。

 つい先日、福岡からセレナや一誠、瑠璃子を招いて七夕まつりを楽しんだ時も……しょうがなかったとはいえ統治は自分のことで手一杯になってしまい、2人のことを気にかける余裕がなかった。


 その結果が――あれだ。


 今でこそ2人はこれまで通りに接しているが、心の中で何を思っているのか、それは各々にしか分からない。


 写真の中にいる自分に問いかける。

 俺は……名杙統治は、何か変わっただろうか?


 刹那、入り口の扉が大きな音を立てて開く。そして――


「あのなぁケッカ、いい加減にしてくれよ!! 俺にも出来ることと出来ないことがあるんだ!!」

「政宗のケチ!! ドケチ!! なまはげ!!」

「最早意味が分からねぇよあとここは宮城だ!!」

 といういつも通りのやり取りをしながら、2人が部屋の中になだれ込んできた。

 政宗はスーツ姿、ユカは誕生日にもらった秋仕様のキャスケットにサロペットという出で立ちで、遠目に見ると兄妹に見えるまでがテンプレである。

 いち早く統治のところにたどり着いた政宗が、これみよがしなため息をつきながら統治に助けを求める。

「頼むよ統治、わからず屋のケッカにビシっと言ってやってくれ」

「……話が見えない。一体、何を言っているんだ? あとどっちでもいいからきちんとドアを閉めてくれ」

 統治がジト目で指摘すると、ユカが政宗を顎でしゃくった。

「おぉっと失礼。政宗、ドア閉めとってー」

「やっぱり俺!?」

 ブツブツ言いながら結局扉を閉めに向かう彼の背中を見送りつつ……統治は、憮然とした表情で腕を組んでいるユカに視線を向ける。

「今度はZOOパラダイス八木山(仙台市内にある動物園のこと)におけるペンギンの『動物痕』の処理方法でもめてたのか?」

「違うとちょっと聞いてよ統治、政宗が1人で『猫の島』に行くって!!」

「猫の島……ああ、田代島のことか」

 すぐに具体的な地名を呟いた統治に対して、ユカがそのとおりだと言わんばかりに首肯する。

 田代島は、石巻市に属している有人島で、別名『猫の島』と呼ばれるほど、多くの猫が自由気ままに生息している。『猫神社』もあるため、近年はちょっとした観光スポットになっていた。

 島に通じる橋もないので、定期船での移動になる。そのため、いざ行こうとなると半日以上、下手をすると丸一日潰れる可能性が高い場所だ。

 しかし、ユカが好きなのはペンギンだったはず。好みが変わったのだろうか?

 純粋にそう思った統治は、ユカに真顔で問いかける。

「山本は……そんなに猫が好きなのか?」

 統治の問いかけに、ユカは真顔で返答した。

「ううん、普通」

「じゃあ別についていく必要はないじゃないか。佐藤も遊びに行くわけじゃないんだぞ」

「そげなこと分かっとるよ!! でも、たまには仙台以外で仕事がしたかと!!」


「……はぁ。」


 だから遊びじゃないって言ってるだろうが、以外の感想が出てこなかった。


 そんな彼にユカは眦を釣り上げ、声を張って訴える。

「反応が薄かよ統治!! 政宗は1人で観光地に行って、サクッと仕事を終わらせたかと思えば「船の時間がないからちょっと遊んでついでに美味しいもの食べて帰ろう」ってことになるやんね!! ズルくない!?」

「ズルくないだろう、船の時間がないんだから」

「うがーそうなんやけど!! そうなんやけどね!!」

 頭を抱えて嘆くユカの背後に……彼女の1.5倍はある彼が、ぬーんとそびえ立つ。

「――それだけ非常識なこと言ってんだよ、ケッカ。帽子外して外出禁止にしてやろうか?」

「はっ!?」

 ユカは慌てて両手で帽子をおさえつつ、自分の後ろで仁王立ちしている政宗に向き直り、改めて訴えた。

「だ、だからあたしも行くっていいよるやんね!! 第一、『遺痕』対策は二人一組が原則やろ? 政宗1人で行かせるわけには――」

「――ケッカはこの間、猫の『動物痕』にとり憑かれたばっかりだろうが。そんな奴を、猫の『動物痕』がうじゃうじゃいる(かもしれない)ところに連れていけると思ってんのか?」

 普段より少し厳しい声でピシャリと指摘され、ユカは思わず口ごもった……が、ここで言いくるめられるようであれば、こんなに言い合いが長引くわけもない。すぐに奮起して負けじと反論する。

「で、でも、それは政宗も同じやろ!? だったらなおさら1人で行かせられるわけないやんね!! なしてそげん意地を張るとやか……!!」

 いつもであれば、ユカの理論と剣幕に口ごもっていたかもしれない。彼女が言っていることは、決して間違いではないのだ。

 しかし、最初から明確な指針がある政宗は、ブレることなく彼女に反論する。

「ここでは俺が一番処理に長けているし、何かあった時のリスクはケッカの方が明らかに高い。正直……統治もとり憑かれた前科があるから、あまりここには連れて行きたくないんだよ」

 そう言われると……統治ですら何も言えなくなってしまうのが現状だ。

 名杙直系であり、生物を従わせる優勢があるはずの統治でさえ、そう遠くない過去に猫の『動物痕』にとり憑かれたことがあるのだ。これは、名杙直系が、猫という下級の『動物痕』に負けたことを意味している。

 結局それが表沙汰になることはなかったが……統治が現当主である父親から「気を抜くな」と注意されたことは事実だ。

 それを考えると……この島に、今の2人を近づけるのは、得策ではない。リスクを回避するのであれば、積極的に避けるべき事案であることは目に見えて明らかである。

「分かるだろ、ケッカ」

 政宗はそう言って、悔しそうな表情のユカを見つめた。

「俺は仙台支局の現状を冷静に見極めて判断しているつもりだ。少なくとも……今、お前が言ってるのは私的な感情にすぎない。俺を心配してくれていることは分かってるけどな……冷静に判断出来なくなるぞ」

 努めて冷静に告げてから、何か言いたげな統治を見据え、無言で一度頷いた。

 彼の表情を見ていると、彼自身がこの決定を覆らせるつもりがないことがよく分かる。

 そして確かに、彼の決定に従うほうが良いことも、頭では理解している。


 でも――今の統治にも、彼の決定が間違っていることが、はっきりと分かっていた。


「……お前は昔からそうだな、佐藤」

「統治?」

 ため息混じりに呟いた統治の言葉に、政宗が顔をしかめる。

 彼は片方の耳に引っかかっていたイヤホンを外すと、2人を見据えて当たり前にこう言った。


「どうして『3人で行く』という発想に至らないんだ?」


 刹那、ユカが目を輝かせ、政宗がとても困ったような表情で頬を掻く。

 まさかここで、統治が味方に『なってくれない』とは思わなかったのだ。

「いやまぁ、そうしたいのは山々なんだがな……この程度の仕事にこれ以上人員を割くわけには……」

「佐藤も俺たちと同様に、猫の『動物痕』にとり憑かれたのは事実だ。分町ママが付き添ってくれるとはいえ、何かあった時に生きた人間がいたほうがいいことくらい分かるだろう?」

「それはそうなんだが……第一、行くのは明日だぞ。2人とも、抱えてる仕事終わってんのか?」

 この言葉に、統治は足を組み替えて返答した。

「努力する」

 この言葉を受けて、ユカもまた、勢い良く宣誓する。

「あっ……あたしも終わらせる!! それなら文句なかろうもん!?」

 そんな彼女に、政宗は当然のようにジト目を向けた。

「ケッカ……本当に終わるのか?」

「終わらんかったら2人に手伝ってもらうけん大丈夫!!」

「ちっとも大丈夫じゃねぇよ!!」

 ドヤ顔でピースサインをするユカに突っ込みつつ……政宗は大きなため息をついて、涼しい顔をして椅子に座っている統治を見下ろした。

「統治がまさか、こんなことを言うなんてな」

「気にするな。こうでもしないと、山本は明日の仕事に身が入らないし、佐藤は自分が無理をしてでも1人で終わらせようとしただろうからな。俺も……」

「統治……?」


 この先を2人の前で口にするのは、想像以上に恥ずかしいけれど。

 でも……今は、素直にそう思うから。


「……俺も、この支局の仲間である以前に、2人とは付き合いの長い友人のつもりだ。友人の身を案じて、何も悪いことはないはずだが」

 そう言って、彼がどこかぎこちなく……でも、とても優しい表情で、握った手を2人に向けて突き出した。

 躊躇いが残る政宗より先に、ユカが統治へ握った手を伸ばす。そして、握った手を付き合わせて……口元に笑みを浮かべる。

「政宗……一緒だよ、みんな一緒。あたし達は……これからも、ずっと一緒なんだから」

 そして――2人で、政宗を見つめた。


 あの時と同じ――『死神』じゃないとはっきり否定して、手を差し伸べてくれた時と同じように。


 あの時、心から強く思ったじゃないか。

 この3人で……ずっと、一緒にいたいと。


 敵わない。

 政宗がその結論に至って肩をすくめるまで、時間は全くかからなかった。


「分かった。2人とも、明日はよろしく頼むぞ」

 最後に合流した政宗の手が、2人の手を押し返して……未来への約束は完了する。


 あの頃は出来ないことが多かった。それは今でも残っているけれど。

 でも……今は、あの頃よりも更に先へ進むことが出来る。

 その先に何があるのかは分からないけれど、でも、きっと……。


「ねぇねぇ政宗、田代島の名産品って何? やっぱり猫に関する可愛いお菓子とか? それともやけん海産物かなー」

「あーケッカ、悪いが田代島に大きな飲食店はない。(※)だから、事前にコンビニで買ってから行くぞ」

「えぇぇっ!?」


 きっとこれからは、もっと強気で進むことが出来る。

 鎖を断ち切る、そんな未来へ――3人で、一緒に。


挿絵(By みてみん)

※田代島ってここだよ。(http://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10053500/0050/3639/3639.html)

現在の田代島は、民宿で軽食が食べられるか、週末にカフェがオープンしてるだけらしいです。確か島内にコンビニもないので、食べ物は船に乗る前に調達しておく方が無難ですね。

ただしこれが2017年12月時点での情報ですので、実際に訪れる前に最新情報を確認してくださいね。


 イラストは当然のようにおがちゃぴんさんから描いてもらったものです。

 1年前にあのイラストを見て、第3幕を書きたいと思えました。そして今年(2017年)書けました。

 今回のイラストは1年前と同じ構図で、でも、彼女のこの1年の進化が確実に分かるこのイラストです。霧原に新しい力をくれます。本当にありがたい。


 この1年で大きく認識が変わったのは……やはり統治ですね。

 1年前は「仲間だから」と言っていた彼が「友達だから」と言えるようになった(霧原がそう書けるようになった)のは、やはり、第2幕と第3幕という『続き』を書くことが出来たから。

 人は環境で変わっていきます。そして来年、統治は更に変わると思っています。今回の外伝で「……どういうこと?」って思うような描写があっても、来年の今頃にはきっと分かっている……と、いいんですけどね、頑張ります。

 『エンコサイヨウ』は2018年も、東日本良縁協会仙台支局における彼らの物語を綴ります。宜しくお願いしますー!!

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