第21話 心の機微――データにならないもの
機密の漏えいを防ぐドッキングというチャンスに恵まれた<ケイローン>号と<アイレース>号は、人格コンピューターの直通有線回路を接続して、データの交換を行った。無線交信による傍受を避けるためである。大量の情報をやりとりする作業は丸二日をようした。だが、通常地球に帰還したときに実施していた作業を行えたことには重要な意味があった。これから未知の宙域を探査する<アイレース>号にとって、その情報は貴重だったからである。
「いったい俺の立場はどうなるんだ」
とフェデリコはぼやいたが、船長のエヴシンとトゥラキアはその意味を知っていた。
電子情報や人格コンピューターをもってしてもシェアしえない、情報交換が必要だったのである。人と人が会って話すことでしか共有しえない微妙なものがあることを知っていた。
「リコ、君は任務を果たした。例えば今回発令された新部署への要員配置だ。こいつはデータとしておおっぴらに交換することはできない。だが、信頼関係があれば、そいつを耳にできる」
「するってえと、あれかい? おれのようにヘラヘラしてて何も考えてないように見えるやつが適任だったってわけだな」
「まあそう言うな。それも君の優れた個性のひとつだよ」
「さようでございますか」
ムードメイカー、フェデリコが帰ってきたことで、<アイレース>号の船内は少しずつ明るさを取り戻していた。
「ようやくすっきりしましたよ」
と、レックスが少し沈んだ声で割って入った。
「自分は納得なんてしてませんでした。けど、船長自らがあの子たちの部屋に足を運び、ケイローンの船長の手で彼を連れていかせた。その意味がわかりましたよ。もしも口だけ動かして、あの指示を出したなら、一生許せなかったかもしれません。自分には幸か不幸かわかりませんが、あの子は記憶を失ったけど、過去を生き直すチャンスをもらえたんだと思うようにしたんです」
エヴシンと彼の周囲の空気が緊張したが、それは刺々しいものではなかった。
「過去を生き直す……か。いい言葉だね」
「するってえとあれかい? エヴとあの女にはやっぱり何かあったってことだな」
レックスが笑った。
「よしてくれよ。まあいい、想像に任せるよ」
と、エヴシンは苦笑した。
「おれの見たところじゃ、そうだなあ、あの女は鞭でピシピシされたところで堪えないタイプだ。相当に打たれ強い。適任だったと思うぜ。――でもウィークポイントはある」
「どこだと思うんだい?」
フェデリコはにやにやしたり渋面になったりして、
「淋しがり屋なとこだろう」
と答えた。
レックスが驚きのこもった声で、
「本気でそう思うのかい?」
と、聞き返す。
「あんた、あの女とエヴに似たものを感じないのかい? 時々『誰か話を聞いてくれ』って背中に書いて歩いてるときがあるんだぜ」
「おいおい、よしてくれよ」
エヴシンはふと思った。
あの夜、リラクゼーション・バーでセラといたところを見られたのだろうか? あのときは酔っていたし、感情も昂ぶっていた。誰かが戸口をくぐろうとして、回れ右をしても気づけなかったかもしれない。
見ちまったんだよ、おれは。お二人さんの哀しくもあり、いい雰囲気でもあるのをね。
フェデリコは艦橋の天井を見上げながら映画のようなワンシーンを再生してみた。
けどあれは、ラブじゃあない。ライクでもない。なんていうのかな……。
「君の個性は尊重するよ。けど、想像にすぎる話は、クルーのあいだに疑心暗鬼を生むんだ。慎んでくれ」
エヴシンは無理やり、見られていない! と胸の中で結論しながら言った。
「ま、どちらでもいいさ。おれが興味を持ってるのはラキアだしな」
「彼女は結婚しているがね」
「たっはあ……そいつは切ないことを聞いちまったな」
「だから、そわそわしないで仕事に集中してくれ。そろそろケイローンとの切り離しの時間だ。オズウェルを呼んでくれないか」
「がってんだ」
フェデリコはにやにやを顔に残したまま、制御卓へと向きなおった。
隣で終始笑っていたレックスが肩を叩くと、彼は、
「なあに、おれは諦めの悪い男だ」
と言って、親指を立てて見せた。
「なんの諦めかしら?」
艦橋に入ってくるセラフィーナの声が遠くから聞えた。




