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崩れはじめ

ーーー昼時ーーー



 ユリは病院をあとにした。太陽は頭上の空に、くすみ、かがやいている。

 家に向かって歩けば歩くほど、流れていく景色の色は褪せていった。家は冷たく青い空気の間で、彼女に寂しさというものを感じさせなくするほど、それを与えていた。

 勿論、家があることは幸せである。幸せの空間につつまれていることを、ユリは充分承知していた。

「…………帰ったら勉強でもすれば良い話じゃない。」

 ユリは自分の感じている寂しさに呆れた。これ以上、幸せというものを求めてはいけない…………。自分はこういう道を歩む定めなのだ。きっと。

 ため息をついて、ユリは足を速めた。しかし、流れていく景色の中で、また、一つのことが思い浮かんできた。それは、ヒササキのことである。

 昨日の帰り道、いったいヒササキに何が起きたのだろうか。急に抱きしめてきて…………。しかも、シズクとの会話も違和感があった。何なのだろうか…………本当に…………

___そう考えながら歩いていると、家についた。ドアを開くと、ぬるい空気が外の空気にとけだしていく。

「__ただいま。」

 返事はないが、とりあえず言った。ドアを閉めて、靴を脱ぐ。その時、ユリの目は、電話の留守電ボタンに向いた。ボタンのライトが点滅しているのだ。

 ポチっとボタンを押した。お馴染みの女性の台詞の後、電話主の声が発せられた。

『___おーーっす、ユリぃぃぃぃぃ!!このシズクちゃんの電話にでないとは、お主、何事じゃい!!…………かっこ、妹さんのところに行ってるのは知ってるヨ。この台詞はネタじゃ★、かっことじ、話したいことがあるから、電話してね~~。』

 相変わらず大きな声であった。仕方無いので電話をかける。



___トゥルルルルル………… トゥルルルルル…………



___トゥルルルルル………… トゥルルルルル…………



 なかなかでないな、と思った4コール目の後、電話にでる音が聞こえた。

『もしもしーーユリ?ユリかなぁ~~?』

「…………私よ。二回も確かめないで。」

 シズクの電話の最初の挨拶は、何時もこんな感じだ。他の人からの電話だったらどうするのだろうか。

『実はね、少し悩んでることがありまして…………』

「あら、あなたが悩みとは、珍しいわね。明日地震でも起きるの?」

『いやいや、実は実はぁ…………

  ___ヒササキのこと、好きかなぁ~~って…………』

 聞くからに、嘘では無さそうだ。前にもこんなことがあったような…………。

 頭に思い浮かんだのは、自分によく話しかけてくる、男の先輩だった。あんな奴が好きなのか、と言ったら、「フフフ、さっきのはうっそぴょーん!ユリと話したかっただけだよ~~!」…………と言われたような。

「まあ、あの子、良いやつだし、積極的だし…………。それより、あなたそういうタイプなのね。」

『うむ。そういうタイプでねーー。どうアタックしたらいいかな~~って…………』

「そうね………………あなたは、顔も良いし、性格も明るくて、一緒にいて楽しい奴なんだから、アタックもなにも、飾らずにそのままで良いんじゃないかしら。」

 はっきり言えばシズクは美人だし、一緒にいると元気がでる。彼女なら告白してもOKをもらえるだろう。

『なるへそ。なんだか自信が出てきた。ありがとね、ユリ!んじゃ、しっつれーいっ!』

 ガチャっと電話がきれた。ユリも受話器を置いた。部屋のなかに、静けさが戻る。ふと時計を見ると、十三時くらいになっていた。

 ユリは勉強しようと思い、自分の部屋にむかった。 


 

 独りぼっちの足音が、廊下に響き、空間の静けさは増すばかりである。



ーーー夕方ーーー



 時計の針は、五の数字をさしていた。日がかたむき、部屋に影がさしてきたので、ユリは灯りをつけた。この灯りのデザインは、ユリのお気に入りだった。鳥籠のような形で、紐を引っ張ると灯りがつく仕組みだ。

 ユリは勉強を終え、ノートを閉じた。今日で、ノートのページは最後まで文字でうまってしまったため、新しいノートを出そうと思い、ノートの代えがある引き出しに手をかける。

 しかし、ユリはこの引き出しの代えがきれてしまったのを思い出した。仕方なく、他の引き出しを探った。きちんと整理整頓された引き出しを一つ、二つと探るうちに、自分宛の手紙が入っているところで手が止まった。手紙以外の物が奥に入っていたのだ。

 奥に入っているそれを引っ張り出すと、二つに折り畳まれている紙が出てきた。ユリなら普段、捨ててしまうだろうに、その中身を見てしまった。

 ………………クレヨンで描かれた絵だった。人らしき物が四つ描かれている。人らしきものは、手をつないでいるように見え、右から二番目の物だけ、髪の毛が長かった。そして、一番上には、文字が書かれている。

「ず……り…………は?なんて読むのかしら、これ。」

 幼い頃、描いたのだろうか。そしたら、この右から二番目の物が自分だ。髪の毛は、幼い頃から長かった。



____ユリはじっと絵を見つめていた。



____絵も、ユリを見つめていた。






  今、運命の歯車が速度をあげ、回り出したことも知らずに。





ーーー??????ーーー



自分は、地下室で息を殺して待っていた。天井から人の足音が不気味に響く。大切な妹と身をよせあって、必死に泣き声をこらえていた。

 そうして、何時間たっただろうか。足音が完全に消えて、昨日セットしていた目覚ましの音が少し聞こえた。


 

 ____目覚ましの音が聞こえるまで、決してここから出てはいけないよ____



 両親から言われた言葉が色濃く脳に染み付いていた。

 足音が暫くしても聞こえてこないため、地下室の天井にあるドアを開けた。家のなかは、目覚ましの煩さと、言葉にできぬ静けさが支配しているように見えた。

 自分は、本当に人がいないか確認するために、妹を地下室に残して家のなかに出ていく。

 ____どの部屋も荒らされて、ぐちゃぐちゃだった。きっと『あれ』を探していたのだろう。自分の部屋も、他の部屋と一緒だった。

 どんどん、目覚ましのある部屋に近づいていった。本当なら、この部屋の目覚ましを一番先に止めに行きたかった。煩いし、まだ近くにアイツらがいたら大変だ。

 でも、自分は最後にこの部屋に訪れてしまった。何故なら、この部屋に近づくたびに、ある臭いが濃くなっていくからだ。

 この先の光景は分かっていた。目を閉じながら、重いドアノブをひねる。ドアが、空っぽな音をたてながら開かれた。

 …………部屋は真っ赤だった。真っ赤な床に、真っ赤な人形が二つ、横たわっていた。

 もう、この時自分は、臭いなど感じなくなっていた。

「これ………………なぁに?…………お兄ちゃん…………」

 後ろで声が響いた。そこには地下室にいるはずの妹が立ち尽くしていた。地下室から脱け出してきたのだろう。

「僕が帰ってくるまで、出ちゃダメだっていっただろ!?」

 自分は声をふりしぼって、大声で言った。しかし、妹にその言葉は届かない。妹は大事に持っていた金属製の籠を床に落とし、悲鳴をあげながら頭を掻きむしりはじめた。それは、現実におきた現象からヒビがはいった、壊れた姿だった。





 籠は、床に染み込んだ赤と、妹の頭から滴る赤で、銅よりも赤く赤く、真っ赤に染まっていった。



 それは、妹の心のようだった。



ーーー五日目ーーー



『おーーーーっすッ!!!ヒーサーーサーキぃぃぃいぃぃい!元気かぁ!?』

 ヒササキは受話器を耳から五センチメートルほど離した状態でシズクからの電話を聞いていた。

「え、ちょっ、ひ…………シズク?すごい大声だね。」

 ヒササキは困った顔で笑っていた。日曜日の何気ない時間帯に、突然かかってきた電話がこれだ。困らない者などいないだろう。

 今朝から開けてある窓から注ぐ風は、常に火照っている体を柔らかく包んだ。しかし、受話器から聞こえる声は、その涼しさを相殺するどころか、暑くしそうである。

『ねぇ、ヒササキ、アポ無しでゴメンだけどさ、そっちに遊びに行っていい?一緒に勉強しようぜ!』

 彼女の声の様子からいって、勉強しそうもない。

「あぁ…………いいよ?暇だし。」

 その一言を言った後、シズクはいろいろと言っていたが、早口すぎてよくわからなかった。とにかく、すぐにこちらに来るのだろう。

 それにしても、俺の家の場所を知っているのだろうか。そう思って電話をかけなおそうと思ったヒササキは、学校から渡された連絡簿を棚からひっぱりだし、受話器をとる。

 だが、ヒササキの耳をつんざいたのは、電話の平淡な電子音ではなく、ドアを開いた音だった。

「___神速のシズクちゃん…………只今参上っっ!!」

 ヒササキがドアの方を向くと、そこには逆光を浴びた、額に手をピースの形であてたシズクが立っていた。

「お邪魔しま~~す!どれ、ヒササキ、勉強しようぜ~~」

 勉強道具を片手に、靴をぬぎはじめるシズク。体勢を崩すことなく、家にあがった。それからすたすたと歩いて、ヒササキの近くまできた。

  とても 近くまで。

 ヒササキはシズクと共に、自室のある二階へいく。薄暗い階段を上りながら、心は静寂という空中で漂った。

 しかし、階段を上り終える直前、シズクはその空気を打ち破るかのように、言葉を口にした。

「ねぇ、ヒササキ、話があるんだ」

 階段を上りきったとき、その言葉はヒササキの耳に届いた。ヒササキは重い空気をゆっくりときりながら振り返った。

___シズクの目は真剣だった。黒い瞳は、煮えたぎった血のように、強く、熱く、ヒササキの瞳の奥の奥を見つめている。

「勉強よりも大切なことさ…………言いたいんだ。

 


 それに、今、親______いないんでしょ?だから______」

 ヒササキは、シズクの瞳におちた瞬間、この道からは逃れられないと悟った。静かに頷き、自室へと足を動かした。



ーーーユリの家ーーー



 空が紫色に柔らかく染まっていった頃、ユリは受話器を片手に、左手の中のシャープペンシルを転がしていた。

「で、アタックしたの?」

 ユリは呆れながらそう言った。何故なら、シズクは電話をかけてくるなり、『ユリぃ~~ぅう~~ユリぃ~~』と言うばかりであったからだ。

『えーーーとね、まだ出会って少ししかたってないでしょ?だからぁぁ~~もっとお互いのこと知ろうっていうことになったのだ!』

「そう。これであなたは、非リア充という組織と戦う、『リアル充実最強シズクちゃん』になったのね。これからすごい敵達と戦うことになるわよ。」

 ユリはシズクからの学んだジャンルの会話からネタを作ってシズクをいじくった。受話器からは『なにぃいぃいいぃ!?!?』という声が発せられる。 

 明るい会話は、この後も続いた。それは脆くて儚い幸せの一時であった。



ーーー六日目ーーー



 この日は雨が降っていた。天から誰かが霧吹きで小さな人間の住む箱庭に水をふきかけたような、静かな雨であった。

 教室の窓を開くと、ユリの鼻いっぱいに雨の薫りがひろがった。窓からの校庭の景色は、雨により色を変えて、落ち着きのある景色になっていた。ユリはそんな雨の日が好きである。世界がたった一つの現象で生まれ変わり、涼しげで暗くなるからだ。

「おーーーっす!これはおはようございますの略なのだっっ天才最強シズクちゃん参上っっ!!」

 趣のある雰囲気をぶち壊す如く、シズクは教室に入ってきた。

 教室の雨天は彼女が来ることによって晴天へと変わる。それまでは、自分という雨雲でこの空間は、外がどんなに晴れようと雨の雰囲気が漂うのだ。

 「あら、お早う。最強もついたのね」

 彼女の挨拶は毎日変わるが、そこをいちいちツッこむと厄介である。一気に彼女のペースに引き込まれるのだ。

 そんなシズクが机に鞄をおいてユリの方に向いたとき、ヒササキが教室に入ってきた。

「お早う」

 いつもと変わらない笑顔で挨拶をするヒササキ。ユリも少し微笑んで挨拶を返した。そして、シズクは息を腹一杯にため、大声で返す。

「おはーーーーー!!!!!!!ヒーーーサーーーサーーーーーーキィィィィィィイイイ!!!!!!!」

 シズクはヒササキの方へ駆けていく。だが、途中で足が椅子にぶつかり、椅子が折れ曲がったため、彼女は進行するのを止めた。

 ユリは呆れ、ため息をついた。ユリは代えの椅子を持ってくるために、教室から出ようと足を進めた。しかし、彼女はドアを半分開けたところで振り向く。

「代えの椅子を持ってくるわ。………………そうそう、良い椅子を持ってくるから時間がかかると思うけど、ね」

 ユリはシズクにウィンクして、教室からでた。シズクの方は、ドアが静かに閉められたときまでその意味を理解することができなかった。

 ユリはシズクが照れでドアに向かってくることが分かっていたが、それを見なかったように無視し、廊下を歩き始めた。

 廊下はしんと静まりかえっており、雨天の天気に項垂れたようにユリの足音を響かせた。こんなに音を響かせるのは、雨の降るささやかな音を消すためなのだろうか。

 ユリはそう思いながら廊下を暫く歩いていたが、ふと、窓がある水道場で立ち止まった。窓を覗くと、先程よりも強く、大粒になっていた。その雨は、絶え間なくこの地に降り注いでいる。

まるで、何かを洗い流しているみたいだ。

 ユリはそう思った。何故だかそう感じた。ユリは窓から離れ、歩き出した。そうでもしなければ、ずっとここに居そうだった。足を進ませ、代えの椅子がある空き教室に着くと、すぐにドアを開け、残り少ない正常な椅子をもって、空き教室から出た。



 ユリは教室に椅子をもって帰ってきた。すると、直ぐ様シズクがとんできたので、椅子を足元においてスッと身をずらした。案の定シズクはドアに衝突寸前のところでユリに額を押さえられ、腕を少々振り回していた。

「ほら、椅子を持ってきたわよ。………………あぁ!曲げた椅子を片付けるのを忘れていたわ!

___シズク、ヒササキと一緒に片付けてくるのよ。」

 シズクは怪しい笑みを浮かべるユリを見て、「ユーーリぃぃぃ!」と叫びながら腕を振り回していた。ユリはシズクの額から手を離し、クスクスと笑った。ヒササキはそのやりとりを見て、笑った。いつもと変わらなく、いつも通りに。



___この時の教室は、雨が降った後だったことを、まだ、一輪の花は知らない。



ーーー放課後ーーー



 ユリは、部活終わりの廊下をヒササキと共に歩いていた。ヒササキはやはり科学部に入り、先輩から爆発的な歓迎をうけた。……この部では爆発的という言葉の意味がねじ曲げられて使用されることもあるから、この使い方で良いだろう。

「本当にこんな部活で良かったの?」

「うん、良かった」

 ヒササキは後悔の表情など一切ない爽やかな笑みをユリに向けた。ユリはそれなら良いと思って、これ以上問うのを止めた。

 それにしてもシズクと仲を深めていくように約束をしたはずなのに、私と一緒にいて良いのだろうか。なるべくなら、ヒササキにはシズクと一緒にいてほしい。

「ねえ、ヒササキ」

「ん?何?」

 ユリはヒササキと目を会わせた。彼の瞳は、光が身を潜めた中でも、星のような光をともしている。

「シズクはね、他人のために自分の時間をいくらでもさくことができて、誰にでも平等に接することができる、太陽みたいな子よ。きっとあなたの病気のことも、あの子のことだから毎日必死に、分かろうと勉強しているでしょうね。

 確かに、シズクはうるさいし、不器用だし、がさつだわ。でも、あなたにはシズクのことを愛してほしい。だから、あの子のこと……お願いできないかしら…………」

 唐突に言ってしまったが、今言わねばならないとユリは思った。思いは、形がそのまま言葉となって心からすべり出た。

 ユリの言葉は人気のない廊下いっぱいに木霊する。その言葉がヒササキの耳に入り、心に届いたとき、ヒササキは立ち止まった。

「その事だけどさ」

 ユリも立ち止まった。ヒササキの声はぴんと張った硬い糸のように心に届いた。ユリの脳は、これから起こることを予知していた。今までの経験、彼の声、目、表情から。しかし、その予知をユリは拒んだ。脳に染み出す血のような予知を、ひたすら拒み続けた。

「俺さ、本当は____」

 違う。違う。大丈夫、違う。きっとそういうことじゃない。きっと違う。違う。違う。違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う




「______君のことが  好きなんだ_______」





 心のどこかで、何かが壊れる音がした。赤く染まっていきそうな景色は、ヒササキをユリに引き寄せた。ユリは呆然とそれを見ることしかできなかった。

「誰にも渡したくない。君を縛り付けておきたい。それほど、大好きなんだ。髪の毛一本だって誰にも渡したくない。全て、俺のモノになって欲しい_____」

 ヒササキの体温がユリの全てを縛り付けた。ヒササキは全てを手放さぬようにしっかりと、その両腕でユリを抱きしめていた。

 この時、運命の鎖はもうユリに巻き付き、離れなくなっていた。縛り、縛り、心を締め付けている。  ユリは息ができなくなっていた。体の芯から震え、涙腺が崩壊しそうになり、心からは黒々とし、血の混じったような複雑な感情が、波のように自分を撃ち、蝕んでいる。

「____そんなことっ…………なんで……!!!」

 ユリの目からは涙が溢れだしていた。廊下には、ユリの涙をこらえようとする声と涙の音が、赤く、青く、響いていった。ユリの涙もそうだった。

 ユリは走り出していた。この空間からはやく脱け出したかった。複雑に絡み合う感情はいつもは遅い足を動かし、静かだった廊下に重い足音を響かせる。道の途中にシズクがいたが、ユリは気づかずに走り去っていった。

 ユリは昇降口のところで靴を素早く脱ぎ、下足に履き替え、外の空気を切るように走っていった。外は日が大分おちており、街灯がちらほらつきはじめていて、星の光もうっすらと見えるようになっていた。

 暫く走っていたユリは体力の限界をむかえはじめ、ユリを立ち止まらせる。額から汗が止めどなく出て、コンクリートの道に黒い染みを作っていき、視界が闇に染まるようだった。

 ユリは遂に膝から崩れ落ち、泣いた。ただ、泣いた。

 少女の泣く声が、街灯が丁度ついていないところで響く。その声は長く続くかと思われたが、すぐに止んでしまい、もとの静けさが戻ってきた。

 何故、声は消えたのか。それはユリが心配になって窓から外に出て、後を追ってきたシズクによって判明されることとなるのだった。  



 シズクは泣きそうな顔で走り去っていくユリを追って走っていた。昇降口まで来ると上履きを自分の下足入れに放り込み、下足をひっ掴んで、歩きながら下足をはく。それからすぐに走りだし、ユリが通るであろう道を駆け抜けた。暫く走り、道の上に何かが見えたとき、シズクは立ち止まった。ユリの鞄が、街灯に照らされていない所においてある。

 _____そう、それはまさに招待状のように。

 シズクの鼻をいつもと違う臭いが突き刺す。麻酔のように、肌に触れる空気が帰ってこられない世界へと手招きしているようだった。気がつけば、シズクはユリの鞄を持って、ユリの家へと走っていった。日が沈んだ冷たい空気が体を包み、足を前へ前へと進ませていき、静かな暗い道の空気を切っていく。

 息切れなど、気にすることができなかった。流れていく景色など、脳に入ってこなかった。シズクの目には、脳には、ユリの家までの道だけが見えていた。

 そのシズクの姿を後輩であるシキミが見ていた。自分のすぐ傍を風を巻き上げて走っていったものだから、仰天していた。

「先輩…………どうしたんだろ…………」

 シキミは肩かけタイプの重い鞄を持っていたので、追いかけることができなかった。



 _____シズクは走り走ってやっとユリの家までついた。シズクは着くなり玄関のドアを力一杯叩いた。

「ユリ!!ユリーーーーー!!いるのーーー?!」

 しかし、ドアが叩かれるうるさい音とシズクの声が混じり、響くだけであった。シズクは舌打ちをすると、窓のある所へいった。暫く歩き、窓を見つけると、自分の鞄を精一杯の力で投げ、窓ガラスを割る。それから窓の鍵を外し、一気に窓を開けて土足のまま室内にはいると、シズクは部屋のドアを開け、玄関の下駄箱があるところまで歩いていき、ユリの靴があるか確認した。しかしそこには靴など入っておらず、代わりに靴ではないものがシズクの目の前に映る。それは、二つ折りにしてある紙だった。

 それをつまみ上げ、中身をみた。シズクは紙の表面に綺麗に散らかった言葉を読み進める度、紙を握りしめる力を強くした。

 窓を割らずにこの部屋に入ってくる奴など、すぐに分かった。シズクは怒りに脳を支配されていたからか、重要なことに気づかないまま、割った窓から飛び出ていった。







 ここはどこだろうか。何故、ここにいるのだろうか。

 手を動かそうにも、足を動かそうにも、何かに縛られていて動かず、鎖の音だけが耳を鈍く掠める。目の前は目隠しによって真っ暗だ。

「気がついたんだね、ユリ」

 聞いたことのある優しい声が鼓膜を揺らした。それと同時に、ユリはその人物をつじつまが会わないと感じていた。

「目隠し、はずそうか?」

 ユリは頷いた。すると、目の前にうす暗い部屋の景色が広がった。

「____どうして、あなたがこんなこと、できるのかしら。」

「さあ………………どうしてだろうね?」

 耳元でチリン、と音がした。彼は何かを首からさげているようだ。彼はユリの後ろから視界に入るところまで来て、ユリの目線と自分の目線があうところまでしゃがみこんだ。

「俺は、ユリのことが好きなんだ。……いや、愛してる。心の底から愛してる。」

 彼は…………ヒササキは、決意の色が浮かぶ瞳でユリをまっすぐ見つめ、その言葉をゆっくりと語った。

「ずっと、ずっと…………君が小さな頃から好きだった。」

 ユリはその言葉について問おうとしたが、鳴り響いた爆音がそれを許さなかった。

 玄関のドアは、もうそこにはなかった。壊したドアから少女は一人、バットを持って現れた。少女は土足で家にあがり、殺気に満ちた声を響かせる。



「____私の幼馴染みを、返してもらおうか。」



 シズクはバットを握りしめ、歩き出していた。


 

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