過去、きおくのおくで
―――――少女は妹と積木で遊んでいた。だが、いつも楽しそうにしている妹は積木を手に持ったままうつむいている。
『どうしたの?向日葵。元気がないわね。なにかあったの?』
妹の向日葵は微かに頷いた。
「雛罌粟おねえちゃんは、おにいちゃんのこと、すきなの?」
積木を持つ手は震えていた。少女はその事に気づいていたが、あえて知らないふりをする。
『ええ。そうよ。愛している。それが、あの人の望んだことだもの。』
向日葵は、その言葉を聞くや否や積み上げていた積木を破壊するように崩した。大きな音が少女の耳をつんざく。
「わたしは……?わたしのおねがいは?!わたしを、わたしをうけいれてくれるのは?!ねえ、どうして?!いっつもわたしはパパとママの『良い子』でいたのに!ずっとわたしをころしてきたのに!どうしておねがいをきいてくれないの?!」
少女は持っていた積木をその場に置くと、向日葵の唇に自分の唇を重ねた。
『こうして欲しかったんでしょう?お兄ちゃんのまえでやると泣いてしまうかもしれないから、二人きりの時だけね。』
少女がそう言うと、向日葵は嬉しそうに微笑んだ。
向日葵の心には、このときにはもう、独占の欲が顔をのぞかせていた。