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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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175/316

アムスタス迷宮#174

 山道は相変わらず、毒霧や間欠泉、落石、崩落など危険が絶えなかった。だが、一度歩いた経験からか、エムを筆頭に探索隊はなんとなく直感的に避けることができていた。

 現状、人員の損耗はないが、ここで怪我をされてもたまらない。それに、道を詳しくわかっているという利点から、探索隊が捜索隊の前後を固める形で進んでいた。捜索隊も、流石に目に見える危険幾つもあるおかげか、森の中で見せたような迂闊さは鳴りをひそめ、周囲を慎重に警戒していた。

 エムからしてみれば、間欠泉の出てこない場所や崩落の危険性がない場所、毒霧の溜まりそうにない場所でも警戒していたため、非効率的に思っていた。だが、それで油断されても敵わないし、何より探索隊ですら知らない危険が9個生じる可能性も否定しきれない。なればこそ、警戒を怠りなく行っているうちは何も言わないことにした。他のイオリフソやアラコム、シロシルも同じ考えのようで、周辺の警戒をしつつも、特に捜索隊には何も言わなかった。

 そんな中、チイラは平地を進んでいた時と変わらない態度で山道を進んでいた。その態度からは周辺の警戒を行なっているようには見えないが、実際は異なるのだろう。先ほど横から突然湯気が吹き出してきた時も、彼女はそれが吹き出す前に察知していた様子だった。実際、そのまま進んでいれば直撃は免れなかったものを、寸でのところで回避し、さらに隣を歩いていた兵士を庇う余裕すら見せていた。

 その先読みの鋭さは、本当に人なのかと疑いたくなるほどだった。

 そうして歩みを進めることしばらくたってからのことだった。

「確か、私たちの時はここら辺から霧が出てきて遭難者が出始めたんだったか」

「そうだな。今はあまり霧が出ていないのが幸いだが・・・・・・。

 周辺に遺品や遺体がないか確認しながら進んで欲しい」

 後方からイオリフソとシロシルの声が響いてきた。

「道がわかっているならば、ある程度は道から逸れて捜索するべきではないか? 互いに互いを紐で結ぶなりして捜索すれば、広い範囲を探せると思うが」

 ある兵士が声を上げた。確かに、捜索を前提としているだけあり、綱や円匙、ランタンなど準備されてはいる。普通に地滑りなどの現場で探す分には、個人では申し分ない装備を有していた。だが、イオリフソは難色を示していた。

「前回はこの辺りは一面霧で、目の前に手を持ってきても見えないほどだった。それにこの辺りの地面は岩だらけだ。そうやって捜索しても、霧が出てきた時に紐が擦り切れ、そのことに気が付かずに合流できなければ、そのまま行方不明になる可能性が高い」

「だが、それでは捜索など夢のまた夢だ。捜索する場所が困難であることは全員が承知している。だが、それでも探さなければ見つけることはできないんだ。

 それに、霧が出てきたらすぐに戻ってくれば良い話ではないのか?」

 そう言われると、流石にイオリフソといえども反論はできなかったようだった。確かに、捜索に関しては彼らの方が方策を熟知しているだろう。少なくともエムは捜索など開拓村にいた頃の方法しか知らないし、アラコムは全く知らないと言っていた。シロシルも『人探し』の術は使えると言っていたが、シロシルができないだけなのかはたまた理論がまだ構築されていないのか、エムが想像するほど便利な存在でもなさそうだった。

 そのため、捜索隊の意見を反映し、捜索しつつ進むことになった。そうして紐をそれぞれの腰に巻き付け始めている時のことだった。エムは僅かに空気が変わったのを感じた。

(この感覚、この匂い・・・・・・。多分ーー)

「ーーまもなく霧が出ます。それだけでなく、稲妻も生じるかもーー」

 言い終わる前に、視界がどんどん乳白色に染まり始めていた。まだ紐を巻き終わっていない。このままではまだ繋がっていない人は道を見失うかもしれない。そう考え、咄嗟にエムは両隣にいたシロシルとアラコムの手を掴んだ。2人はエムが突然行動を起こしたその意図に気づき、2人も近くにいた人の身体を掴んだ。そこまで微かに見えたところで、視界は完全に閉ざされた。

「みんな、今の場所から動くなよ。今繋がっているのは何処までだ?」

「まだ俺たち3人だけです」

 兵士たちの声が酷く遠くから聞こえた。だが、これで焦ってはいけない。この霧音を著しく弱めると言うことは、すでに皆に伝わっている。このまま、先ほどの位置関係のまま紐を繋いでいけば、二重遭難の確率はぐっと下がると思われた。

「アラコムさん、シロシルさん。紐はもう来ましたか?」

「いえ、こちらにはまだ届いていませんね」

「こちらも同じく。まぁ最悪霧が晴れるまで待機すれば良いだけのーー」

 そうシロシルが気楽そうに言った瞬間だった。

 周囲一体に閃光が走った。

 そして同時に、全身に激痛が走った。

「・・・・・・ッ」

 エムは咄嗟に堪えたものの、それでもかなりきついものだった。だが、被害はそれだけに止まらなかった。アラコムの手から力が抜けるのが感じられた。シロシルは先ほどの衝撃から痛みが走るのだろう、手をめちゃくちゃに動かし、エムの手を振り解こうとしていた。

「・・・・・・ッ!」

 大丈夫ですか。

 そう問いかけようとして、エムは全身が痺れて動けないことに気がついた。

 まずい。このままでは。

 次が来たらもうダメだ。そう思ったと同時に、再び世界が白い閃光と衝撃で満たされた。

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