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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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147/317

アムスタス迷宮#146

 霧が晴れると、『蜥蜴』の姿があった場所は赤熱した地面と化し、灼けた大地が一直線に生まれていた。

 一体何があったのか。

 ノイスたちの間に生まれた疑問は当然のものだった。突然寒くなると同時に霧が発生し、一瞬で視界は零となった。しかし、それと同時に突如地面から高熱を感じ、何かが霧の中で動く気配があった。視界が全く無い中で何かが起きている。それにも関わらず、視界が効かないために一体何が起きているのか訳もわからず、また迂闊に動くこともできず、ノイスたちは霧が晴れるのを待つほかなかった。

 そしてようやく霧が晴れた時、『蜥蜴』の姿は影も形も無くなっていた。だが、その行方は簡単に追う事ができた。

 一直線に焼けた地面。これは一見すると、『蜥蜴』が炎を吐いた後のように見える。だが、『蜥蜴』が炎を吐いたならば、あの霧の中であってもその光は目にする事ができたはずだ。また、それほどの炎が吐かれたならば、熱さを感じる者がいてもおかしくはない。だが、あの霧の中で、『蜥蜴』相手に戦いを続けていた者の誰1人として、地面以外からの熱を感じていなかった。

 故に、この地面の痕跡は『蜥蜴』由来のものでは無いと考えられる。では、この様な芸当を可能とするものは誰か。

 シロシルは真っ先に除外される。確かに彼女の力量ならばこの様な芸当ができてもおかしくはない。だが、彼女は主に距離を取り、さまざまな魔術による攻撃を行っていた。また、距離を積められた際には肉弾戦に切り替え、活路を切り開こうとしていた。そんな彼女が、これほどの大規模術式を展開できる余裕を持っていたとは思えない。さらに、彼女が霧が発生する直前に立っていた場所は、文字通り一歩間違えれば溶岩と化している地面だった。自殺前提で術を構築するとは思えない。故に、彼女は除外される。

 では、ウズナはどうだろうか。確かに、彼女なら可能性はある。だが、彼女は突然墜落し、その後意識を取り戻した様子も見られなかった。しかし、今彼女が墜落した地点を見ても、彼女の姿はどこにも見えない。故に、完全に可能性として否定はしきれない。一方で、彼女が警告も無しにこの様なことをするだろうかという疑問は湧く。彼女の性格を考えるならば、この様な術を発動させるならば事前に警告の一つあってもおかしく無い。

 あの黒髪の女性はどうだろうか。そこまで考えた時だった。近づいてきたシロシルが辺りを見渡しながら質問を飛ばしてきた。

「コウカはどこにいる」

「そういや、さっきから見かけねぇな。だが、彼女がどうかしたのか?」

「どうもこうも、こんな大規模な『錬金術』の術式を行使できる人間は限られるだろう」

「なに?」

 事もなげに答えたシロシルの言葉に引っ掛かりを覚えた。

「これは魔術や魔法では無いのか?」

「いや、全て物質間の等価交換法則上で成り立っている。十中八九、錬金術師の仕業だ」

「だが、それでこんな芸当が可能なのか?」

「ああ。地面を溶かすために必要な熱量はこの空間からかき集めたんだろう。故に飽和水蒸気量が変わり、空間に存在した水分が霧という形で顕在化した。そしてかき集めた熱量を用いて地面を溶岩へ変化させ、『蜥蜴』を流す。なかなかに考えられた策だ。これなら土砂まじりの氷を溶かすよりも熱は必要だが、確実にこの場所から『蜥蜴』をどこかへ押しやる事ができる。

 そして、そんな術式を短時間で組む事ができるのは・・・・・・」

「・・・・・・だから、コウカを探しているわけか」

 そう言っていると、突如シロシルが雪の中へ駆け出した。その足取りは確信に満ちているものだった。何か手がかりを見つけたに違いない。そう判断し、ノイスも後に続いた。

 そして、シロシルはある地点で足を止めた。ノイスもそこにたどり着くと、そこにはコウカが倒れていた。全身からは力が抜け、ぐったりと手足を投げ出していた。慌てて呼吸を確認すると、幸いなことに息は安定していた。だが、目はぼんやりとしていて、意識があるのかどうか判断に困った。

「・・・・・・術の反動だ。これで確定だな」

「だが、なぜこんなことを」

「それは起きてから聞けばいい話だ。それに、あのままだったら遅かれ早かれジリ貧になっていた。わずかな間とはいえ、休息できる時間ができた分はありがたい」

 それに、向こうのほうで派手にやっている様だしな。

 そう言うシロシルの視線の先を追うと、宙を光るものが何本も飛んでいた。そして、それらの飛ぶ先を見ると、遠く離れた場所に『蜥蜴』がいた。しかし、遠距離攻撃だけでは距離が詰められたらひとたまりもないだろう。そう考えてその方向へ駆け出そうとした時だった。空中で光る何かの機動が急激に変わり、『蜥蜴』へと飛んでいた。

「なんだ、あれは・・・・・・」

「おそらく、あれは魔法の類だろうが・・・・・・。一先ずは回復しつつ向かうしかあるまい」

 アレが何かは不明だが、戦うものは必要だろう。かといって、今のままおっとり刀で駆けつけても、我々は体力を使い果たしている。

 そう言いながら手早く雪を沸かし、飲み物を用意するシロシルにあっけに取られながら、ノイスたちは自然とシロシルの周りに集まっていた。

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