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アムスタス迷宮#134 アルカ-12

 アルカはコウカの話を聞いた後、狙撃できる位置に身を移しながら戦場の様子を俯瞰していた。コウカの話によれば、現状では攻撃に参加している人数が、先ほどと比較して半分以下になっており、攻撃の手立てが足りていないとのことだった。

 確かに、単位時間あたりの攻撃回数は減っているだろう。だが、戦場にいる人数が減ったと言うことは、単純に悪い話ではない。

 今、『蜥蜴』に対する戦いぶりを見る限り、『蜥蜴』に与える負傷が最も大きいのはウズナだ。彼女の攻撃力は他の人員を凌駕している。ただ牽制にはなつ氷塊や氷柱でさえ、並の兵士だったら1発で数百人規模を壊滅させられるだろう。そして時折溜めて放っている一撃は、更に威力や精度が向上している。だが、見る限り彼女は全力を出していない様子だった。それが速射性を維持するために必要なのか、それとも周囲の兵士を巻き込まないようにするために抑えざるを得ないのかは、アルカには分からなかった。

 次点はシロシルとなるだろうか。彼女が十分にマナを蓄えて発動させる魔術は、ウズナが牽制に放つ氷柱と同程度の威力はありそうだ。だが、残念ながら今はその猶予が十分には与えられないため、シロシルの攻撃も浅いものにとどまっている。また、彼女が近接攻撃と遠距離攻撃の両刀使いをしていることも原因の一因ではないかと考えられた。シロシルの使う魔術は、ウズナのように即座に切り替えができるものではない。その為、シロシルは戦闘の推移を観察しながら次の一手のために魔術を構築していた。必然、『蜥蜴』の反撃によっては、構築した魔術を放棄し、回避に移る必要がある。故に、どちらの魔術も中途半端に即興で構築したものを使用していると言う印象だった。

 勿論、アルカは魔術師ではないため、その印象が間違っている可能性も十分にはあるが。

 それ以外にも、エムらしき女性が使う『黒い光』は、何らかの阻害効果があるらしく、命中すれば大きな隙を生み出していた。勿論、『蜥蜴』もそのことを理解しているためか、エムに対して集中的に攻撃を加えて、エムが術を使う暇を与えないようにしていた。

 また、剣が折れているとはいえ魔法で編まれた剣を使うイグムの一撃は、気を散らす程度には痛みを与えるらしく、攻撃を受けるたびに『蜥蜴』は煩わしそうに追い払おうとしていた。他にもイオリフソやイガリフ、ネルなど特別任務部隊の面々はノイスの指揮の元懸命な攻撃を加えていた。

 だが、戦場に残っている面々はそれくらいで、『蜥蜴』相手に一個分隊程度の人数しか戦っていなかった。それは逆に言えば、戦場には人がほとんどいない分、周囲の被害を考える必要がない、と言うことでもあった。

 ならば、やりようはあるだろう。そう結論づけ、アルカは自身の内側へ意識を向けた。

(カザハ)

[なんだ]

(貴女の力を、弾丸に纏わせずに放つことは可能?)

[是。ただし、物に纏わせない分負担は増える]

(大きさを変えることは?)

[それも是、だ。但し、大きくすればするほど負担は増えるぞ]

(最後に1つ。『蜥蜴』を一撃で仕留めるにはどれくらいの量が必要?)

[それに関しては否だ。たとえ私たちが自身の生命を顧みず全力で撃って、それが命中しても『蜥蜴』を一撃では止められない]

 それ以前に躱されるだろうが。カザハはそう結論づけていた。だが、聞きたい情報は手に入った。そして、人が少ない今、流れ弾を気にしてちまちま狙撃する必要もない。何より、『わたし/カザハ』の一撃は、逆さの鱗の一つに当てるのと同じような効果が期待できる。ーー『蜥蜴』の動きを止める、と言う効果が。

 アルカは静かに息を吐くと、ゆっくりとチカラを込め始めた。求める大きさは銃弾程度ではない。可能な限り大きく。だが、速射できなければ意味がない。『蜥蜴』の事だ。悠長に溜めなどしていれば、即座に火焔によって薙ぎ払われてしまう。故に、即座に込められる最大の大きさを。

 そして、今まで銃を利用して飛ばしていた。だが、銃は使えない今、代替のもので完成系の想像を補完する必要があった。理想としては大砲でもあれば良かったのだが、生憎ここにそんなものはない。せめて大筒でもあれば、とは思わなくもなかったが、アルカも大筒を使用した経験はない。変に使ったことがないものを使うくらいならば、現状でできることを行うしかない。

 決意を固め、アルカは『蜥蜴』を見据えて構えた。その構えは、約800ラツ(約⒈5km)という距離の隔たりがなければ、まるで『蜥蜴』を殴るかの様であった。そしてアルカは固く握りしめた拳に己の『生命力』を籠めると、そのまま拳を振り抜いた。籠められていた『生命力』は、その軌跡をなぞるかの様に『蜥蜴』めがけて超音速で放たれた。


**************************


(アルカの『呪詛』の気配・・・・・・ッ)

 ウズナがその気配に気がつき、アルカのいる方角を向いた時だった。こちら目掛けてどす黒い『呪詛』が、掌大の大きさの塊となって高速で飛んでくるのが見えた。

 もし万が一直撃してしまったら、ウズナでも生命の危機を感じるほどだ。そんなものが、こちらに飛んでくる。着弾まで時間的猶予はあまりないだろう。咄嗟に巻き込まれないように回避しようとした時だった。

[我が身の盾となれ、眷属]

 『竜』もその危険性を察知したのだろう。そして、『竜』の俊敏性ならば避けることは余裕だったはずだ。実際、ウズナもやろうと思えばあれくらいの速度ならばまだ躱せる。また、『竜』の能力ならば防壁を張ることも他愛もないはずだ。だが、『竜』はそれをせずにウズナに盾になる様に命じてきた。それは、味方の攻撃によってこちらの戦力を削ごうとする巧妙な一手だった。

(誰が、そんな手にかかるものですか・・・・・・ッ)

 そう思うものの、ウズナの身体の動きは鈍った。それどころか、翼の動きも離脱する方向から『呪詛』に衝突する方へ変わりつつあった。

(なんで、今まで抵抗できてたのに)

[当たり前だ。眼前の『竜』の方がお前より遥かに格上の『竜』なのだから。

 弱きは強きに従え]

(そんなのは・・・・・・)

 そう抵抗するものの、刻一刻と呪詛は迫りつつあった。この分では、どんなに抵抗したところでも『呪詛』はウズナの身体を掠めてしまうだろう。そしてあれほどの密度と量だ。掠って仕舞えばそのままウズナにとっては大惨事になりかねない。

(もう、ダメかもしれません・・・・・・)

 そう思った直後、ウズナは衝撃を感じた。

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