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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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アムスタス迷宮 ウズナ-32

 黒い魔力の奔流が『竜』に命中したのは、ちょうどウズナが攻撃を終えて距離をとったときだった。周囲に兵士が多いため攻撃方向は気を使わなければならなかったが、そのことで慎重に攻撃箇所を定めることができていた。そして、幾度となく至近距離で確認し続けた結果、ようやく見つけた『鱗』が見間違いでないことを確認しようと思っていた時だった。

(これは・・・・・・)

 一眼見ただけではそれがなんなのか分からない魔力。即ち、既存の魔術体系には存在しないもの。そして、魔術は『生命力』を用いているとはいえ、法則としては一般的な物理法則に従う。しかし、この黒い光はそういった法則では説明がつかない。故にウズナは一眼で魔術ではないと判断した。

(魔法。でも誰が?)

 誰が放ったのかはもちろん気にはなったが、黒い光線の正体も気になった。魔法ならば、どこかしらに必ず既存の法則とは異なる何かが含まれる。たとえば、『竜』の使っている炎に関する魔法は、発射されてから対象物が燃え尽きるまで一切温度が変わらず蒼炎を保つが、蒼炎を発する温度の割には燃え尽きるのが遅いと言う特徴を持つ。また、ウズナの使う氷に関しては、物体の素性としては確かに氷ではあるものの、ウズナがそう命じれば、たとえ不意に人が触れたところで冷たさにより手が貼り付いたり、握っても冷たさを感じることはない。

 そう言った特徴があることから、この攻撃にも何かしら奇妙な点があるだろう。そう思いながらウズナは『竜』を眺めていた。

 ウズナの視線の先では、『竜』の『生命力』が滞り始めている様子が見えた。黒い閃光が命中した箇所を中心として、ゆっくりと、だが確実に『生命力』が止まり始めていた。

(これは、ギムトハさんが受けた攻撃? ・・・・・・いえ、アレも確かに動きを止めるものではあったけれど、これとは本質が異なっている)

 眼下では、動きが鈍りつつある『竜』に対してここぞとばかりに猛攻を加えている兵士たちの姿が見えた。その様子を観察しながらウズナは考察を進めていた。

 ギムトハの身体の診察をした時、確かにギムトハの全身には『生命力』が巡っておらず、彼は動きを止めていた。しかし、その本質としてはある意味で単純なものだった。『生命力』の固形化。それがギムトハが受けた攻撃の正体だった。

 健康な人間ならば『生命力』は滞ることなく全身を巡る。それはさながら水路を流れる水のようであり、故に魔術師たちは『生命力』を水や気体のような流体として捉えている。そして、人間の身体も『生命力』は流体であるとの前提の上で生きているとされている。

 しかし、あの時のギムトハは『生命力』が氷、若しくは石のように固まってしまっていた。つまり、水路に流すものを水ではなく岩にしようとしたところで流れることがないように、元々流体が流れるものという前提では、このままでは生命力は流れない。だが、そこに『生命力』があることには変わらないため、極端な事を言えば消耗し尽くすまでひとまずは生命を保っていられる。そう言った状態に陥っていたのがギムトハだった。

 因みに、マナが固形化する条件はまだ詳細に解明されていない。だが、まれに地中奥深くから採掘される『極光石』というものがある。この石の特徴として、一見透明に見えるが、その実石自体の内側から極光のような光が揺らめいて見えることが命名の元となっている。これは永らく宝石の一種とされていたが、実際には高純度かつ高濃度のマナの結晶である事が判明している。その込められたマナは小指の先程度の大きさで、大抵の国を半壊させるに足る質と量だという。とても稀少であり、試料数も少ないことから未だ解明には至っていないが、そのようなモノがあるというのは魔術師ならば知るものは知っている話でもあった。

 故に『生命力』の一部であるマナが固形化するならば、生命力が固形化してもおかしな話ではないだろう。そこまではアラコムやシロシルも推論を建てられていたと聞いた。だが、結果がわかっても原因や過程が分からないことには手の打ちようがなく、解呪出来なかったと言う。

 また、『竜』の動きを鈍らせるものとしてはアルカの呪詛を交えた攻撃もある。だが、それに関してはさらに単純だった。

 そもそも『呪詛』とは『生命力』が負の感情など何らかの要素で反転しているものであり、普通の人でも日常的に非常に微量に生成されるものだ。そして、『呪詛』を打ち消すだけならば同質同量の生命力で事足りる。打ち消してかつ普段と変わらない状態を保つには10〜1000倍のマナが必要とされているが、普通ならばそこまで問題になる程度ではない。

 だが、アルカの場合はその質と量が桁違いだった。もともとアルカは『生命力』の生成がごくごく僅かであり、日々の食事から得ていなければすぐに『生命力』の欠乏で死亡してしまうのではないかと心配になる程だった。しかし、今では日々生成される量が全て『呪詛』なのではないかと思うくらい『呪詛』を生み出していた。その量は、マナと同量として換算した時に、皇国の魔術師の中でもでも五指の指に入るほどの量であり、無闇に放出すればアルカの周囲5エリム(約10km)は誰も立ち入れない死の土地となるだろう。さらに、質も段違いであり、それこそ極光石と同等の質があるのではと思われるほどだった。

 故に、彼女の呪詛が込められた攻撃を受ければ、それがたとえ小銃の弾丸程度であっても並の人間ならば命中する前に『呪詛』にやられて死亡する。また、『呪詛』を放置すると、周囲を物理的にも魔術的にも破壊していくため、被害を最小限に抑えるためには、いち早く中和しなければならない。そしてその攻撃は『竜』に対しても有効であり、『呪詛』を中和し、機能を維持させるために多大なマナを費やしていた。

 しかし、今の攻撃はそのいずれとも異なっていた。『竜』のマナに対して黒い閃光に込められていたマナは干渉しているように見られた。そして干渉されたマナは徐々に動きを停止させて行っていた。

(打ち消しているわけでもない。破壊しているわけでもない。マナが固体になっているわけでもなさそう。ーー生命力を止めている?)

 生命力を止める。それが今最も正確に表していると考えられた。だが、その方法が分からなかった。しかし、観察していくうちに唐突に理解した。

(この魔法、魔法に含まれるマナが他のものに干渉した瞬間をそのまま留めている)

 その一瞬を永遠に留めようとする。それが本質だとウズナは理解した。そうしている間にも、マナは侵蝕を続けていたが、やはり使い慣れていないのだろう、地力の差で徐々に『竜』のマナに押し戻され始めていた。

(完全に対応される前に決着をつけないと)

 そう決意を固め、ウズナは攻撃へ転じた。

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