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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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103/316

アムスタス迷宮#102 イグム-4

「皇都への道のりを見つけた?」

「はい。確かに皇都へ通じている場所を見つけました。時間差などは調べられませんでしたが、景色からそこまで差異はないかと」

 間も無く日が暮れようという時、連絡が途絶えて丸一日ぶりに、想定していた方向とは別の場所から息を切らして飛んできたウズナを見つけた。その動揺ぶりから何かとてつもない事態が発生したか、重要な何かを見つけたに違いない。そうイグムは判断してウズナから話を聞くことにした。

 幸いにも、見つけた時に周囲にいたのは、彼女の事情を知る者たちだけだった。ウズナもあまり大っぴらに自身の姿を野営地で晒すのは如何なものか、という考えはあったのだろう。野営地から少し離れた場所で警衛として立っていたイグムたちを見つけると、イグムの合図に従い降りてきた。そして少し落ち着かせて話を聞いたところ、開口一番に彼女はそう証言した。

「とりあえず隊長に報告だな。その時詳細を聞くが・・・・・・。その前にちゃんと服を着直せ」

 いかんせんウズナも余程動揺していたのか、それともいち早く報告すべきだと考えていた為なのかは不明だが、今のウズナの格好はとても人前に出せるものではなかった。

 まず、フードを外している。この時点でウズナのことを知らない兵士や学者、術者たちなどは彼女を異物として認識するだろう。側頭部から生えたツノ。縦に細長い瞳孔。頬に生えている鱗など顔だけで『ヒト』では無いことは丸わかりとなってしまう。

 そして彼女は現在着られる服がない。合流した時に、なんとかコウカが即興で準備したローブはあるものの、その下に身につけるべきシャツやズボンに関しては現地の材料では作成できなかったらしい。また、野営地に戻った以降も彼女の丈に合わせて作成したらしいが、何らかの理由によって着れなかったと聞いている。探索に同行していたーーすなわちウズナの事情を知るーー魔術師たちや錬金術師が何やら尋ねていたが、最終的に解決には至らなかった様子だった。その為、今ウズナはローブの下に何も身に付けられていない。

 コウカが作成したローブに関しては、しっかりした素材で作成されており、また丈も十分にある。そのため、普段ならばローブだけでウズナの全身をすっぽりと覆える程の一品ではある。だが、裏を返せば、もしもローブがはだけてしまったら、その下にすぐ見えるのはウズナの裸体となっている。一瞬見た程度では、ウズナの体表に生えている鱗が軽装鎧の一種の様に誤認してしまうだろう。だが、よくよく見たら鎧でないことは一目瞭然だ。また、仮に鎧だったとしても変な作りをしている様に見えるーー例えば胸元の肌や臍あたりは見えるが、体側部は何かに覆われているなどーーため、鎧と見做されたところで『奇人』もしくは『露出狂』などといった誤解を招きかねない。

 そして今、ウズナは急いで飛んできたばかりであまり自身の状況に気を払えていない。また身体が変異して以降服を着ないで過ごしていたためか、人目があまりないところでは『服を着ていないこと』を忘れがちになっている様に見られた。

 つまり、今のウズナの状況は『翼を広げていた為に盛大にローブが捲れ上がり、布が背中の方に全て回ってしまっていることで、本来なら隠されているべき場所まで全て隠されることなく見えている』状態だった。それでも彼女の裸体を見ていてあまり羞恥心や違和感を覚えないのは、鱗によって大事な部分はきちんと隠されているように見えるためか、それとも彼女があまりにも堂々としているためか、はたまたその姿が完成されており、一種の神々しさすら感じられるためか。

 だが、流石にその格好で野営地を歩かせるわけにはいかない。それとなく注意すべきだったかもしれないが、周りにいたのは特別任務部隊の仲間だけだったし良いだろう。ならば最優先事項はいち早く報告を上げるために何をすべきか、だ。

 そう考え、イグムは端的に伝える事にした。ウズナは一瞬きょとんとしていたが、すぐさま自身の状況を確認したのだろう。白い肌が見る見るうちに朱に染まっていった。心なしか薄い青色の鱗も今は赤くなっているように感じられた。

 シュパン、と破裂音が響いた。それと同時に一瞬で衣服を整えたウズナは、まだ幾分か赤い顔のままフードをしっかりと被り直していた。

「では、報告に行きます」

 蚊の鳴くような声で呟くと、ウズナは野営地の方へ走り出した。瞬く間に遠くなる背中を眺めながら、イグムは

ため息を吐いた。

「それにしても、とうとう帰還の算段がつく様になるとはな」

「ああ」

 近くにいたイガリフと話しながら、イグムは遠くに監視の目を向けた。願わくば、彼女のもたらした話が瑞兆であることを。そして、無事帰還できたらまず何をしよう。集中しようとはするものの、どうしてもウズナから聞いた話は頭から離れるものではなかった。期待に胸を膨らませながら、イグムは見つけた一番星にそう願いを込めた。

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