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深淵のアリス3 博物館の惑星  作者: 沢森 岳
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4.クレイオ博士の行方(1)

世界最強とも言われる某コメ国第七艦隊の旗艦は艦齢50年を超えてるそうで。

メンテさえすれば、宇宙船もそれくらいは普通に使えるのでは?

使えるといいなあ。



 銀河系探査船ラーグリフは、その当初の使命を全うするために百年以上の活動期間が設定されていた。そのために対消滅リアクタには充分な反物質燃料が封入され、人間の乗組員の代わりにアリスのようなAIによって活動する儀体が多数搭載されている。


 ドーナツ状のハビタブルゾーンに沿って、天の川銀河のバルジの向こう側をぐるりと探査して戻るまで補給は出来ない前提なので、補修用機材などは船体下部にある複数のコンテナブロックにたくさん詰め込んである。


 レオンに付き従う現在の活動内容では当面補給の心配はないと思われたが、唯一観測機器の消耗だけが激しかった。観測機に関しては、長期にわたる探査航海の間も可能な限り回収して再利用する想定だったが、先だってのフライトではチェリルジュ星系で多数を置き去りにしたことで、随分と数を減らしてしまったのだ。



 そんな状況をアリスから伝えられたレオンは、自分が置き去りにするよう指示したことでもあったので、代替となる観測機器の補充をメルファリアに願い出た。ついでに、ラーグリフへの補充だけでなくて、惑星ノアのあるアルラト星系内に自動観測網を構築することを併せて提案した。

「観測網を構築してラーグリフに統括させれば、もう海賊なんてのさばらせませんよ」


 レオンもメルファリアも、以前ノアを訪れた際に海賊アシッドクロウの襲撃を受け、それぞれに面倒なことを経験している。現時点で経済的な重要性のないアルラト星系の警備が手薄なのは仕方ないが、メルファリア・ランツフォートが住まうともなれば、これからはそうも言ってはいられない。


 これをメルファリアは快諾してくれて、まずは既存のカタログモデルの観測機が製造ロットごとに順次アルラト星系へ運ばれることとなった。いずれは、ラーグリフと高度に連携できる観測機器を、アルラト星系内で生産及びメンテナンスできるようにしようと思う。



「そうそう、わたくしから、逆にお願いしたいことがありました。かわりに、という訳でもありませんが、クレイオ博士とラーグリフの関わりについて、教えて頂けませんか?」


 これはメルファリアから、レオンにというよりもアリスに対するお願いだ。レオンがアリスを伺うとアリスもレオンに顔を向けたが、回答はメルファリアに対するものだった。

「構いませんが、これは、ランツフォート家とクレイオ博士個人のプライバシーに関わる情報ですから、メルファリア様にだけお伝えします」


 レオンも興味はあるが、これはまあ仕方ない。それに、クレイオ博士のこととなれば、あの有名なテロ事件など、きな臭い内容もあるはずだ。世の中には知らない方が良いこともある、という言葉ならレオンも知っている。

「ああ、了解した」


「わかりました。レオン、後でお伝えできる部分は、わたくしからお話しさせて頂きますから」

 レオンが知っておくべき事柄もきっとあるだろう、とメルファリアは感じていて、言葉の通りに、レオンのことはそれなりには信用しているのであった。


 §


 アストレイアとプロミオンは、惑星トーラスの「御城」の広大な中庭にある駐機場に今は仲良く静かに並んでいる。セヴォールへの航海を終えてそれぞれにメンテナンスを受け、今は惑星ノアへと赴くための準備中だ。


 レオンはメルファリアをプロミオンへと案内してアリスにバトンタッチし、アリスとメルファリアは二人だけでプロミオンのブリーフィングルームへと入っていった。一人になったレオンはブリッジへと移動してキャプテンシートに腰を下ろし、目の前のコンソールに向かっていつものように話しかける。


「アリス、そういえばさあ、ラーグリフの一人目の管理者ってのは、どうなったんだ?」

 アリスの儀体はメルファリアと共にブリーフィングルームにあるが、レオン用のインターフェースとしてのアリスはプロミオン船内では常時稼働中だ。当然ながら、その程度の並列動作は負荷という程の事でもない。


 コンソール内にアリスのデフォルメCGがアイコンとして小さく表示された。

「しばらく話題に上りませんでしたから、もう忘れてしまったかと思いましたが、案外しぶといですね」

「しぶといとは何事だ」

 ひとこと多いよね。音声と小さなアイコンのみながら、アリスのすました顔が容易に思い浮かぶ。


「忘れたままでいて下さい」

「忘れていたんだけどさ、やっぱり気になっちゃって」

 画面上のちいさなアイコンが首をかしげる。


「そうですか。では……、一人目の管理者はクレイオ・ラトウィッジ・ランツフォート博士です。クレイオ博士は、ラーグリフ計画の主要メンバーの一人で、MAYAプロダクトの責任者です」

 アリスは、最小限の事柄だけを伝えた。


「あ、やっぱり」

 ……。

「なあ、クレイオ博士って、デルフィでテロに遭ってお亡くなりになったんじゃなくて、やっぱり生きていたんだな?」


「これ以上は個人のプライバシーにも関わるので、親族でない方にはお答えできません、ということになるのですよ」

 アリスはレオンからの問いかけに対して嘘は言わない。答えることができない内容なら、黙るしかない。ディスプレイ上では、デフォルメアリスのアイコンが目を閉じた。


「そうなんだ。……じゃあ、メルファさんには教えてあげるんだろう? あとでメルファさんに教えてもらえそうなところだけ聞いてみるかな」

「そこはご自由に、としか申し上げられませんね」


 一人目の管理者は体調を崩してしまった、と言っていたはずだ。ということは、爆破テロの後も博士は生きていて、ラーグリフと共に惑星ノアに来たのだろう。だからこそラーグリフはアルラト星系に存在していて、そして幸運にもレオンは救助された。


 因果は複雑に絡んでいて、そもそもラーグリフの存在がなければレオンが小惑星上で遭難者になることもなかったろうが、過去に戻って違う選択肢を選びたいなどとは微塵も思わなかった。むしろ、クレイオ博士には感謝しなくちゃならない、とまで思っている。



 今後、惑星ノアへと出発するにあたっての補充品などをいくつか吟味して、さらに一通りの定期的なチェックを行ってアリスに確認を頼むと、あとはもうやる事がなくなった。レオンはギャレーに足を運び、幾つかあるストックの中から適当に珈琲豆を選んで二杯分をミルに放り込んだ。珈琲カップを取り出し、ドリッパーをセットし、ミルのハンドルを握る。


 ドリッパーもミルも、国際郵便船乗務員時の先輩航海士からお下がりとして貰ったものだ。こだわりのあった先輩の使用していた機器はそれなりに良い品物のようで、レオンもメンテをしながら使い続けている。なんとなく、捨てられない、といった方が正しいかもしれないが。


 どれくらい時間が掛かるか分からないが、メルファリアがブリーフィングルームから出てくるまでは待たなきゃならない。その間にいろいろと想像が膨らんでしまいそうだ。それよりも、惑星ノアへ向かうフライトプランでも吟味しようか、などと考えつつ、お湯の温度を九十度に設定して、レオンはドリップケトルにミネラルウォーターを注いだ。


珈琲ドリッパーのためにも、疑似重力はさっさと実現してほしいものです。

紅茶党の方のためにも必要です。


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