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初心者ダンジョンを掃除してたら、聞きたくないことを教えられました  作者: ギズモ


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4/4

第4話 よろしくしたくないんですけど

『では、現時点で確認できた内容を整理します』


「お願いします」


 俺は。


 まだダンジョンの中にいた。


 帰りたい。


 本当に帰りたい。


 でも。


 協会から帰るなと言われている。


 目の前にはグラーフ。


 横には中継ドローン。


 その上には俊太郎。


「キィ」


 元気だなあ。


『第一に』


 ドローンから、ダンジョン管理部の責任者の声。


『佐倉さんにのみ視認できる黒い異常が存在する』


「はい」


『通常の映像機器、測定機器では確認できない』


「そうみたいです」


『ただし侵食が進行した場合、黒い染み、粘液、膜などの形で実体化し、通常の観測も可能になる』


「はい」


『多摩第一で確認された黒い物質も、その実体化したもの』


「その認識で問題ありません」


 グラーフが答える。


『第二に』


 一拍。


『その異常は、モンスターや罠そのものを強化するわけではない』


「はい」


『しかし、配置、巡回、作動時期などへ干渉し、本来想定されていない危険な組み合わせを発生させる』


「その通りです」


『第三に』


 少し間が空く。


『グラーフさんには、異常の抑制や隔離は可能』


「はい」


『完全な修復はできない』


「はい」


『一方』


 嫌な予感がした。


『佐倉さんの《浄化》では修復できる』


「…………」


 来た。


 そこ。


『以上で間違いありませんか』


「ありません」


「俺も聞いてます?」


『佐倉さんにも確認しています』


「……みたいですね」


 間違ってはいない。


 間違ってはいないけど。


 嫌な方向へ話が進んでいる。


『次に、情報の取り扱いについてです』


 俺は少し姿勢を正した。


『現時点で、この件を一般公開する予定はありません』


「そうなんですか?」


『はい』


「黒いの、危ないんですよね?」


『危険性はあります』


「じゃあ知らせた方が」


『何を、どこまで知らせますか?』


「…………」


 止まった。


『一般の探索者には視認できない』


「はい」


『通常の観測機器でも検出できない』


「はい」


『唯一確認できる人物が佐倉さん』


「はい」


『そして情報源は、自らをダンジョン管理者と名乗る存在』


「私ですね」


『さらに』


 責任者が続ける。


『その存在は、実際にダンジョン内のモンスター巡回経路へ干渉できることを確認済みです』


「はい」


『これを根拠なく公開すれば、混乱は避けられません』


「まあ……」


 確かに。


 俺が一般探索者だったら。


 いきなり。


 見えない黒い異常があります。


 ダンジョンを管理している小さいおじさんもいます。


 と言われても。


「信じませんね」


『そういうことです』


「小さいおじさんという表現に問題があります」


「声に出てました?」


『グラーフさんの存在についても、当面は機密情報として扱います』


「承知しました」


「俺は?」


『佐倉さんにも守秘をお願いします』


「ですよね」


『正式な書類は後日』


「いりません」


『送ります』


「即答しないでくださいよ」


『必要ですので』


 知ってた。


『ただし』


「はい」


『情報を非公開にすることと、異常を放置することは別問題です』


 来た。


 ものすごく。


 嫌な言葉が来た。


「その先、聞きたくないです」


『聞いてください』


「はい」


『グラーフさん』


「はい」


『現在、同様の異常は他のダンジョンにも存在しますか』


「はい」


「…………」


 俺は目を閉じた。


 聞きたくなかった。


『数は?』


「正確な総数については、現在の皆さんへ開示可能な範囲を超えます」


『では、複数存在する?』


「はい」


「…………」


 俺は。


 ゆっくり右手を見る。


 嫌な予感しかしない。


『佐倉さん』


「嫌です」


『まだ何も言っていません』


「分かりますよ」


『一応最後まで』


「はい……」


『今後、黒い異常が確認された場合』


 確認するのは。


 俺なんだろうな。


『協会管理下での《浄化》に協力していただきたいと考えています』


「…………」


 やっぱり。


「俺」


『はい』


「普通の清掃員ですよ?」


『承知しています』


「モンスター倒せませんよ?」


『承知しています』


「危ない場所、嫌ですよ?」


『それも承知しています』


「じゃあ」


『ですので、まずは安全が確保できる範囲に限定します』


「安全が確保できる範囲」


『初心者ダンジョンを中心に』


「…………」


 少し考える。


 嫌だ。


 面倒だ。


 絶対。


 また何か起きる。


 でも。


 さっきみたいなことが。


 初心者ダンジョンで起きる。


 罠そのものは普通。


 ゴブリンも普通。


 でも。


 タイミングだけがおかしい。


 もし。


 あそこにいたのが。


 俺じゃなく。


 本当に探索を始めたばかりの人だったら。


「…………」


 俊太郎を見る。


「キィ?」


「初心者だけ?」


『現時点では』


「見つけたら協会に連絡して」


『はい』


「勝手に一人でやらない」


『当然です』


「周囲の安全を確認してから」


『はい』


「危なかったら帰っていい?」


『状況によります』


「そこは『はい』って言ってくださいよ」


『原則として撤退を優先します』


「…………」


 まあ。


 それなら。


「初心者ダンジョンなら」


『はい』


「見つけた時だけですよ」


『ありがとうございます』


「好きでやるわけじゃないですからね」


『承知しています』


「あと」


『はい』


「黒い染みまで進んでたら?」


 多摩第一。


 あの状態。


「その場合は、より慎重な対応が必要です」


 グラーフが答えた。


「私が可能な限り周辺を抑制します」


「それで安全確認してから?」


「はい」


「…………」


 そこまでなら。


 まだ。


 何とか。


「分かりました」


『ご協力ありがとうございます』


「本当に初心者だけなら」


「いいえ」


「…………」


 誰だ。


 今。


 言ったの。


 俺は。


 ゆっくり。


 グラーフを見る。


「今、何て?」


「初心者ダンジョンだけではありません」


「…………」


 聞き間違いじゃなかった。


『…………』


 協会側の声が入る。


『それはやはり』


「ええ、異常はダンジョンの等級を問わず発生します」


「…………」


「初心者ダンジョン」


「はい」


「中級?」


「はい」


「…………」


 聞きたくない。


 でも。


「上級?」


「はい」


「嫌です」


「まだ依頼内容を説明しておりませんが」


「上級って聞いた時点で十分です」


「そうですか」


「そうですよ!」


 中級でも。


 この前。


 地下八階に飛ばされて。


 あんなに大変だった。


 上級。


 無理だ。


 絶対に無理。


『佐倉さん』


「はい」


 協会。


 頼む。


 止めてくれ。


『現時点で、佐倉さんを上級ダンジョンへ派遣することはできません』


「ですよね!」


 よかった。


 今日一番。


 安心した。


「ほら」


 グラーフを見る。


「無理なんですよ」


「現時点では、ですね」


「…………」


 嫌な言葉を拾わないでほしい。


『その通りです』


「…………」


 協会まで。


「今」


『はい』


「現時点って言いました?」


『はい』


「なんで?」


『今後、同様の異常が中級、上級ダンジョンで確認された場合』


「確認されてるんですよね?」


『……グラーフさんの話では』


「はい」


『対応方法を検討する必要があります』


「他の人じゃ駄目なんですか?」


「現時点で修復を確認できたのは、あなたのみです」


 グラーフ。


 余計なことを。


「他に《浄化》持ってる人いません?」


『《洗浄》保有者は存在します』


「じゃあ」


『同様の効果があるかは確認できていません』


「試しましょうよ」


『検討します』


「ぜひ」


「同様の結果になる可能性は低いと考えています」


「グラーフさん」


「はい」


「今は黙っててください」


「承知しました」


 俺は。


 ドローンへ向き直る。


「とにかく」


『はい』


「俺、上級なんて行けませんよ」


『現状ではその通りです』


「戦えませんからね?」


『承知しています』


「ボスとか無理ですよ?」


『承知しています』


「深いところも嫌です」


『承知しています』


「じゃあ終わりですね」


『いいえ』


「なんで?」


『今後、佐倉さんが安全かつ正規に活動できる条件について、協会内で検討します』


「しなくていいです」


『必要になる可能性があります』


「ないです」


「あります」


「グラーフさんは黙っててください!」


「承知しました」


「二回目ですよ!」


 俺は頭を抱えた。


 何で。


 初心者ダンジョンで普通に掃除していただけなのに。


 気づいたら。


 上級ダンジョンへ行く方法を協会が考え始めているんだ。


「俺」


『はい』


「普通に掃除したいだけなんですけど」


『存じています』


「毎回そう言われるんですよ」


「キィ」


 俊太郎が。


 ドローンの上から俺を見る。


「お前も何とか言ってくれ」


「キィ!」


「分かってないな」


 ニィッ。


「笑うなって」


 グラーフが俺を見る。


「佐倉直人」


「はい?」


「今回確認された異常は、今後も発生します」


「…………」


「私は可能な限り抑制します」


「はい」


「しかし、完全な修復はできません」


「はい」


「現時点で、それが可能なのはあなたです」


「…………」


 分かっている。


 嫌だけど。


 分かっている。


 初心者ダンジョンだけなら。


 目の前で見つけて。


 安全が確認できて。


 放っておけば誰かが危ないなら。


 たぶん。


 俺はやる。


 でも。


「上級は嫌ですからね」


「承知しました」


「本当に?」


「現時点では」


「その言い方やめません?」


「事実ですので」


「ですよね……」


 もう。


 疲れた。


『佐倉さん』


「はい」


『本日のところは、以上です』


「帰っていい?」


『はい』


「本当に?」


『はい』


「やった」


 思わず声が出た。


 今日は。


 帰れる。


 本当に。


 帰れる。


「俊太郎、帰るぞ」


「キィ!」


 ドローンが出口方向へ向きを変える。


 俺も。


 ゴミ袋とモップを持ち直した。


 その後ろで。


「佐倉直人」


 グラーフが呼ぶ。


「まだ何か?」


「今後ともよろしくお願いいたします」


「…………」


 俺は。


 振り返った。


 小さい。


 ハゲた。


 少し太ったダンジョン管理者。


「よろしくしたくないんですけど」


「そうですか」


「そうですよ」


「キィ!」


 俊太郎だけが。


 妙に元気よく返事をした。

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