表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルアント・ユダラ  作者: ユダラバギー|脳内探索アトラクション


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/8

【4】砂埃と羽 [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]



「ジー。ジー。」


「ああ。俺はジールだ。」


「ジー、おぉぉ、ジー。」


「そうだ。ジール、わかるか?ジール。」


「ジーぅ、ジーぅ。」


「よし、その調子だ。」


シャワーを浴びた濡れ髪で、よじ登るようにしてローテーブルに手をかけ、不安定な腰を前後に揺らし、二本足で立ち上がったまま、口に指を押し込むようにして咥えた。


「うぅぅ。あーーぁ、あー。」


酒を飲むジールもまた、濡れ髪に下着姿であぐらをかいている。恐怖を知らない好奇心旺盛な暴れん坊は、唾液まみれの手を差し伸べ、1歩、1歩、近づいていく。


「お、やるか。新しいチャレンジだな。こい。」


一歩進む度に重心が揺れ、足を踏ん張ろうとするが、押し返す加減を誤って、後ろに座り込んだ。


「いいぞ。もう一度、テーブルに立ってみろ。」


おおー、おぉー、うー、言葉がまるで通じているかのように、彼は四つん這いでテーブルに向かい、よじ登るようにして立ち、ジールをもう一度見る。


「ジーぅ、ああーう、おおーー?」


「よし、こい。」


小さな足がまた、一歩を踏み出した。頭を左右に揺らし、両手を前に突き出し、2歩目で前に重心が倒れ、足をまた前に出し支えるが、勢いが止められずに更にもう1歩踏み出す。そのままもう一歩、またもう一歩。ジールに飛び込むようにして倒れ込んだ。


「あはははっっ。坊主、やるじゃないかっ。」


皮の厚い大きな手で雑に撫でられた細い髪は、絡まるように上下左右に乱れた。


「“小さなゾンビ”みたいだな。ほれ、立ってみろ。」


両脇を手で支えられながら立たされ、足に力を入れ、おぉ、おぉ、と声を出す。


「そうだ、こっちにこい。」


ヨタヨタと小さなゾンビがジールに近づいていく。だが、前につんのめるようにバタリと倒れる。泣くか?と思い覗き込むと、しっかりと顔を上げ、けらけらとわらった。




「坊主、その調子だ。また立ち上がれ。」




ジールはグラスに残った酒を一気に飲み干した。




「ジーぅ、ジーぅ。」






「坊主、こい。芽生える恐怖に打ち勝つんだ。」






___________


【4】


砂埃と羽


___________





「おぉい、最近のジール、なんか変じゃあないか?なんて言やぁいいのかわっかんねぇが、“こわくねぇ”んだよ。思わねぇか?」


昼食を食べ終わったダンカーが、残り2本しかない前歯に順応性オーラルピュリファイアを付けたまま、休憩所に入ってくる。


「おい、ダンカー、また口腔装着着いてるぞ。」


「おお?!ほんとだ!あちゃー!これ着け心地良すぎて忘れちまうんだよなぁ。がははっ。」


「確かに、ジールさん、笑う事が増えた気がするな。」


カイトが持つ燃焼デバイスがカプセルを検知する。アルコールの匂いが立ち込めたあと、点滅していた赤色が、緑に点灯した。


「ジールはなぜ赤ん坊がいることを言わねぇんだぁ?あいつから言わねぇから、聞けねぇんだよなぁ。カイトも知ってるだろ??」


ダンカーの声が工場に響き渡る。ジールさんに聞かれたらどうするんだよ、呆れた表情で燃焼デバイスを鎖骨の下に押し込む。


「人には人の事情がある。バンナムでは、特に。俺は噂には耳を貸さない。首を突っ込むとろくな事がない。ジールさんのことだ。いずれ話をするだろうさ。」


「その赤ん坊、昼間はエミリちゃんのところにいるんだろ?なぁなぁ、カイト、エミリとジールの子どもなのかな?!」


ダンカーに静止をするように手のひらを見せ、深呼吸をしながら燃焼デバイスを抜く。


「そんな出鱈目な推測を大きな声でばら撒くな。ジールさんはそんな人間じゃないだろう。俺達を拾って、こうやって雇ってくれているんだ。軽率な冗談はよすんだ。」


人工肺が可動範囲を回復させ、空になった気化性グリセロールのカプセルは、カランッと音を立て正確に屑籠に放り投げられる。


「冗談じゃあないぞ??俺は真面目に言ったんだぜ。」


お前は正気か?

恵まれた大きな体と、

人一倍汚れた顔、

未だに外されていないピュリファイア、

大きな声。

ため息に乗せるように漏らす。



「単純すぎる。」




「おーーーい!!仕事するぞーーー!!」


廃材の鉄くずをハンマーで叩く音と、大きな声が響く。


「ダンカー、またな。」


「おう、カイト、怪我すんじゃねぇよ!」


「おう、お前もな。口腔装着を外せ。」


「ああー!がっはっはっ!!忘れてたぁ!!」


男達がぞろぞろと作業場へ戻ってくる。コンプレッサーと発電機が起動され、ブロワーとモーターの重低音が再開する。


バンナムに襲いかかった数年に一度の猛暑は、その勢いを鈍らせながらも、最後の足掻きを続けていた。


嵐の日からもうすぐ一年が経つ。


金属加工専門業者、“バンナードメタル”は、

バンナムの夢から醒めてもなお、

その稼働の勢いを止めることはない。______





風が粉塵を巻き上げる。



逆らうことはできない。



砂ぼこりが舞い上がる。





「あーぁ…、バイクが砂まみれだ。」


エンジンを停め、吸気口を覗き込んでため息をつく。


「フィルター付けないとエンジンやられちゃうなー。」


グローブの指先でタンクを撫で、ご機嫌なスマイルのマークを描いた。ガレージの方から足音が近づいてくる。


「お前か。このうるさいバイクの持ち主は。」


臙脂のチェックシャツの袖を捲り、

指先を拭いて黒い油をつけたデニム姿。

ワイズガレージの整備工場から、

口髭を生やした中年男性が近付いてくる。

骨格の良さが服の上からでも分かる。

オーガニックシガーに火をつけ煙を吐くと、

元気か?とトーンを明るくした。


「ワイザーおじさん!見てよこれ、砂まみれだ!」


「ボナハートの土地を見てきたのか?あそこは時期によって砂嵐ができる。ノンフィルターであそこを走るのは野暮だぞ、ユダラ。」


「ちょっと周辺を見に行ってきたんだ。キャブレターを洗いたい。工房、貸してくれない?」


「ああ、好きに使っていい。デニスから色々聞いているぞ。ボナハートに穴を掘るのか?」


ワイザーの吐き出すオーガニックシガーの、優しい甘い香りが風に乗る。


「そうだよ。地盤が硬すぎて苦労しそうだ。」


「ユダラ、お前達が作ろうとしてるものだが、見つかったら大騒ぎになるんじゃないか?」


「なるだろうね。量子生成装置なんてものが作れる技術があるなら、目の色を変えてあらゆる人間がやってくるよ。」


タンクに書いたスマイルのマークに、シャクトリムシの体を書き足していく。


「デニスは、お前を信じきっている。やれるのか、本当に。」


「はははっ、やってみなきゃわからないよ。でもね、デニスは自分を過小評価しているよ。設備さえ整えたら、可能性は充分ある。」


ボナハートの隣町、ニールの閑静な住宅街で、走り去る車にワイザーは一瞬目を引かれるが、真っ直ぐと目を見て質問を続ける。


「プロジェクトの申請はどうするんだ?その装置がある事をありのまま書くのか?」


「はは、おじさんは本当にするどいなぁ。」


「お前は突拍子もないことを平気でやってのけるからな。寿命が縮まないように、聞いておきたい。」


「おじさん、デニスにこっそり伝えたりしない??」


「がははっっ、あいつに内緒にするつもりなのか。」


「だって、きちんとした親に育てられたせいか、あいつはそういう所、ガッチガチなんだよ。親がどうもガッチガチなのかもしれない。」


「ガッチガチなのは、俺の性質だっ!」


「知ってるよ。怒んないでよ。」


「…お前は無茶をする。心配になるんだ。」


息子の今後を案じているわけではない。再度確認するように、若者の肩にドンと分厚い手を乗せた。


「ありがとう。そんなに心配いらないよ。もう大人なんだ。このプロジェクトは、立ち会いできちんとした申請をしようと思ってるよ。」


「その装置を全て見せて説明するのか?どういうことだ。」


「もちろん説明する。嘘の説明を。」


「お前、虚偽の申請をするつもりか!!」


お前はまた、と言いたげだったが、シャクトリムシの体に羽根を書き足している姿に、魂胆を感じトーンをすぐに戻した。


「おじさん、このバイク、どこのバイクかわかる?」


「なんだいきなり。これは、ローランドのrd550じゃないのか?」


「すごい!エンジンを見て良くわかるね。さすが天才だ。でも、その他は全て違うよ。フレームもタイヤもスイングアームも、フロントフォークもハンドルもキャブレターも、全て僕が作った。」


「なんだと?!全てワンオフか?!」


「ホイールはもちろん、別のバイクのホイールから、3Dプリンターで外注したけどね。もしも、このエンジンすら、僕が作ったとしたら、なんのバイクか分かる?」


「そうだな…、きっとわからないだろう。そういう事か。全てオリジナルで作られた、この世に存在しない装置に関して、誰も虚偽を見抜けないということか。」


「そう!仮に巨大なコンピュータだと言われても、信じるしかないんだ。全ての部品を見せても、どんなに優れた天才が見ても、疑う余地はない。何よりも、立ち会いの申請が通れば、このプロジェクトは、無条件で“白”になる。」


「お前の考えることは、合理性が高すぎて、納得せざるを得ない。虚偽の申請が正義に反していても、プロジェクトは正義だ。デニスには、なんて説明するんだ。」


「適当に上手く言えば、“そっか、分かったよユダラ君!”って納得してくれると思うよ。」


それを聞いて豪快に笑うワイザーに、

思わず心が綻ぶ。


この人の事が、本当に大好きだ。


「…はぁ。その姿しか思い浮かばん…。ユダラ、外にいてもなんだ、中に入ろう。バイクをもう少しじっくり見せてくれ。」


「うん。乾燥してるし、喉が乾いたよ。」


ワイザーはそそくさと工房に向かって歩く。バイクを押しながら、その後ろ姿を見ていた。



タンクに書かれたスマイルは、

羽を得て今にも飛んで行ってしまいそうだ。




やっぱり、この人がいい。




「おじさん!」




「なんだ。」






「バギーを、一緒に作って欲しいんだ。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ