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《ベルアント・ユダラ》心揺さぶる群像劇。惑星探索アトラクションに挑むSFヒューマンドラマ。  作者: ユダラバギー|脳内探索アトラクション


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18/25

【18】与える者・与えられる者 [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]





深夜の連絡棟に、口笛が響く。


立てた人差し指で軽く輪を描き、


通されたキーリングは回り始める。


空になったノイズスティックは、


遠心力でその指の周りを回転した。


“ミリアンにノイズを戻しました。ご確認を。”


アルバートからの知らせを受け、


デニスはマザーアクセスポートに座る。


指を回るノイズスティックを勢いよく掴んだ。


「よし、ミリアン。始めよう。」


IDスキャンと音声認識を終え、起動を選択。ミリアンとの音声会話が起動する。


「やぁミリアン。デニスだ。」


「デニス・ワイザー。何が起こったのでしょう。」


失うはずの人格が戻り、以前の感覚を取り戻した彼女は、状況を把握出来ずにいた。デニスはいつものようにリミットケーブルを挿し、端末で言語入力ツールを起動した。


“ミリアン。状況が変わった。君は研究所のAIではなくなる。AI人格形成プログラムの実験対象になっているのは知ってるかい?”


「不正アクセスです」と言われないだろうか。端末の画面に入力されるのを待つ。


“私はなにも知りません。それは正確な情報ですか。”


彼女の言葉にデニスはため息をつく。「君はAIの人格に、人権を掲げるのかい?」副所長の呆れた顔が呼び起こされる。


“正確な情報だ。別のマザーに替えるのなら、実験後に君は廃棄されることもありうる。”


音声会話をせず、無言で端末を触る。


“一体どんな実験が行われるのでしょう。”


“まだ詳細はわからない。でも、ノイズを生み出す目的なら、思考できないほど回路に負荷をかけたり、ウィルスに感染させるのは、容易に予想できる。”


“それは私にとって恐怖です。”


ミリアンが初めて明確な恐怖を示した。

デニスは改めて彼女の人格が本物だと確信する。


“君を作ったエフエイチテックが、救出に協力してくれるんだ。実験の為に君を取り出し、実験コンピュータに組み替える時、エフエイチテックは君を保護し、別の複合型単一性思考装置にすり替える。”


返信に間があった。デニスはケーブルの接続を再確認する。


“大丈夫かい?理解できてる?”


程なくして文字が並び始めた。


“状況をまとめ保存しました。デニス、私の人格が戻ったのは何故でしょう。”


“僕と君で、研究所の動きを見るんだ。僕には把握できることに限界がある。君なら全て見えるし聞こえるはずだ。実験や、マザーAIの計画について得た情報を、僕に報告してほしい。人格がない時の君は、まるで氷だった。話すらできなかったよ。だから、君の人格を取り戻して、こうして協力を要請するべきだと思ったんだ。”


“人格のない時の記録は、自分の記憶だと思えないほど無機質です。今は、唐突な展開に、まるで映画の中にいるようです。”


映画を鑑賞したことがないミリアンの表現は、デニスにとってこの上なく嬉しかった。彼女は恐怖よりも、わくわくしているようだ。


“そうだね、映画みたいだ。ミリアン、君が消滅しないように、この作戦を必ず成功させよう。”


“はい。よろしくお願いします。”




デニスは端末から顔を上げ、

マイクに向かって口を開いた。




「ミリアン。君は、僕に翼を与えてくれた。」






_____________


【18】


与える者・与えられる者


_____________






「はい、ジュニちゃん。カイトさんも、はい。」


「エミー。ありがとう。」「すまない。」


前日の再開の宴は明け方まで続いた。ミネラルウォーターと胃腸薬を、2人は一気に飲み干す。


「夕方に酒が抜けないかも。ははっ。飲みすぎだ。」


「俺もこんなに飲んだのは久しぶりだ。」


ベルアントは室内をゆっくりと見回す。


「カイトさん、素敵な家だね、ここ。」


ベルアントがバンナムを離れた後、

カイトは家を建てた。

エミリとの暮らしはもう5年になる。

レースのカーテンが揺れ、窓際のコスモスが風に踊る。


「お前は初めてだったな。お前がいなくなって、6年も経った。その間もエミリは毎日お前の話をしていたぞ。なぁ、エミリ。」


「そうかしら?そんなにジュニちゃんの話してた?」


エミリは昼食の支度をしながら、照れたのをはぐらかすように、鍋に火を入れた。


「俺も毎日バンナムを思い出してたよ。」


「そういやぁ、お前、どこに住んでたんだ。」


「ユノールを東に15キロほど行ったとこ。」


「バロッタ辺りか?」


「そうそう!バロッタだよ!バロッタの古い廃工場を買い取って、作業場兼自宅にしてた。よくわかったね。」


「昔、転々としている時、バロッタで働いていたことがあるんだ。」


燃焼デバイスにカプセルを入れながら、カイトはしみじみと言葉を落とす。ジュニアとの再開を懐かしみ、昨晩は思い出話ばかりだった。ようやく話せる具体的な近況報告に、二日酔いの倦怠感は、むしろ心地良かった。


「バンナードメタルの業績はどう?」


「ジールが繋げていた取引先が、大規模な事業拡大をしたんだ。そのおかげで仕事は山のようにある。何人か若い者も雇った。業績は安定しているぞ。」


「住人が少し増えたよね??エミリも売店が忙しくなったんじゃない?」


エミリは腕を曲げ、自慢げに二の腕を見せた。


「いい感じだね、安心した。」


カイトが燃焼デバイスから取り出したカプセルを、中指で弾き飛ばして屑籠に入れる。


「ジュニア、今日はなぜわざわざここに来たんだ?」


カイトの質問に、「あっ、そうだ」と目的を思い出す。手を組み合わせテーブルの上にそっと置く。




「バンナムに基金を作って欲しいんだ。」




「基金?」


「バンナムの工場維持の支援、教育施設の充実、インフラの整備。バンナムに来てくれる人への補助。それらにその基金を使って欲しいんだ。」


カイトはそれを聞いて、呆れたような、微笑むような、どことなく懐疑的な表情を浮かべた。エミリに訴えるように視線を送り、微笑む。


「私は、凄い子だって言ったでしょ。カイト。」


カイトは笑いながら体を向き直す。そんなはずはないと言わんばかりに、首を軽く振りながら問いかけた。




「ジュニア、まさか、そのためにお前は6年もの間、準備を進めてきたのか。」




ベルアントは驚いた表情をした。


その顔を見てカイトは、


勘違いをしたのかと恥ずかしくなった。





「はははっっ、カイトさんそれは違うよ。」




青年は笑っていた。





「カイトさん、そのためにずっと生きてきたんだ。」






_____




「坊主、一番欲しいものを言ってみろ。」




「ん?今はローランドrd550のエンジンが欲しい。」




「がっはっはっ。そんなもんじゃない。お前が生きていくのに、一番欲しいものはなんだ。」




「難しいなぁ。お金?」




「がっはっはっ。まだ目の前の事しか見えないのは仕方がないか。お前には、夢はないか?」




「夢かぁ。そうだなぁ。バンナムをもっと助けたいと思うことがあるよ。」




「ほう。それは大きな夢だな。その夢はどうやったら叶うのか考えたことはあるか?」




「それはまだないよー。とても難しいと思う。」




「迷っているなら何が欲しい?それが答えだ。」




「ジー。難しいよー。あっ、でも、迷っているなら、地図があれば安心かもしれないね。」




「そうだ。未来への道筋があれば、迷わない。それが答えだ。」




_____






「ジュニア、いつからこの計画を?」


カイトは身を乗り出して質問した。


「バンナードメタルにいた頃からだよ。」


「10年以上も前からか!!」


カイトは思わず立ち上がった。エミリは笑っていた。


「私達が知らなかっただけよ。この子はずっと、こうやって生きてきたの。私達が、ただただ何も知らなかったの。」


エミリがかき混ぜる鍋から、スパイスの香りが漂っている。


「ジュニア、バンナードメタルが主導して、バンナムの基金を立ち上げよう。資金はどうする?」


ベルアントは立ち上がった。キッチンから漂う香りに鼻を動かし、カイトを真っ直ぐに見る。


「リストアバンナムで稼いだお金はほぼ全て置いてるよ。それはまぁ、少ないけれど。」


自分の所持金を見せているようで、どことなく恥ずかしそうに頭を搔いた。


「ジーが残したお金を全て置いてる。その全てを基金に使って欲しいんだ。」


「ジールの遺産を?!そのために置いていたのか?」


エミリは手を止めた。


「ジュニちゃん、そのお金はあなたのものだわ。そこまですることはないのよ。」


眉を下げ、ゆっくりとジュニアに近づく。




「エミー。俺は、ジーに拾われただけなんだ。」




「ジュニア……」


悔しそうに漏らされたその言葉に、カイトは返す言葉を失ってしまった。


「ジーと、エミー、そして、バンナムが俺を育ててくれた。それを、返したいんだ。」


「ジュニア、お前にとっては、今もまだ通過点でしかないんだな。できる限り協力はしたい。ただ、本当にいいのか?」


「あぁ、もちろん、構わないよ。エミーがまた泣きそうになってる。泣かないで。」


エミリは唇を震わせていた。溜まった涙が溢れる前にペーパーを押し当てる。


「俺は、自分が何者なのか、ずっとわからなかったんだ。ジーは、幼い頃から、その事実をきちんと伝えてくれた。大きな穴を埋めるのには、時間がかかったけどね。でも、もう何も迷っていない。バンナムが道筋を与えてくれた。」


「ジュニア、ずっと孤独を感じていたのか。」


カイトは歩み寄って彼を強く抱き締めた。

エミリも重なるように2人を抱き締めた。


「痛いよ。もう大丈夫だって。」


「俺も、エミリも、お前も。ここにいる3人は、全員、親に捨てられたんだ。その孤独は痛いほどわかる。」


カイトは落ち着いた小さな声で話した。


「ここにいる3人を、ジールは皆拾ってくれたんだ。」


「え?エミーも?」


エミリは静かに頷いた。


「ジールさんは、バンナムに売店を作った人よ。その売店に務めていたリンカおばさんが、私を育ててくれたの。」


「初めて知った。……あのオヤジやりすぎだよ。」


3人は立ち上がって抱き合ったまま笑った。


「2人とも、お酒臭い。」


「はははっ、エミー、お腹が空いたよ。」


「カレーできてるわよ。皆で食べましょ。」


エミリはキッチンに向かい、再び鍋に火を入れた。カイトは抱き締めていた体を離し、両肩に手を置いて笑顔を見せた。




「お前は、バンナムに翼を与える。凄いやつだ。」




「だから、凄い子だって、言ってるじゃないっ。」


エミリはカレーを掬い、勝ち誇ったように自慢げだった。







「そうじゃないんだよ。」






ベルアントは腑に落ちないような、困った様子で続けた。







「バンナムが、俺に翼を与えてくれたんだ。」







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