59話・国王さまがやってきた
一週間後、我が家の城に国王ルイが客人を連れて現れた。我が国の陛下のみならず隣国の王女を伴なっているということで城の警備は一層強化されている。緊張した面持ちの父の隣にはスティール、そしてその後ろにわたしが控える形で国王さまご一行をお迎えした。父は国王一行を出迎える為に、数日前にこちらに急ぎ帰って来ていた。
国王の乗った馬車からルイが先に降り立ち、馬車に同乗して来たと思われる王女に手を差し出しているのを見て衝撃を受けた。
王都からこのパール公爵領は馬車で二日ばかりかかる。陛下と王女は、まだ婚姻の約束をしていないとは聞いていたが、この長旅で同乗して来る位なのだから、ふたりの仲はそれだけ進展してるのではないかと思うと、胸が重苦しく思われた。今回の移動に宰相は同行していないようだ。ルイには侍従長のアズライトが従っていた。
「しばらく頼むぞ。公爵」
「ようこそおいで下さりました。陛下」
考え事をしていたら目の前に久しぶりに見るルイと、その連れの王女がいた。スランバ王女殿下は薔薇色の髪に菫色の瞳をした美しい女性だった。
「初めてお目にかかります。イサベルと申します。あなたがジェーンさまですわね? 陛下からはお話を伺っております。わたくしとは同い年とか? 仲良くしてもらえると嬉しいですわ」
「長旅お疲れさまでございました。すぐにお部屋にご案内させて頂きます。こちらこそ宜しくお願い致します」
イサベル王女の前で一礼をすると彼女は満足そうにほほ笑んだ。ジェーンが案内の為に前に立つと、王女をエスコートしながらルイが後に続く。その後には侍従や、女官、護衛らが続いた。幸い古城とはいえ、客室は多いので各自部屋が行き渡るようになっている。今頃、食堂の調理場は戦争だろうなと思いながら歩を進めた。
「この城は余の先祖の兄妹の末の姫が、こちらの初代パール公爵家に降嫁した際、公爵家でそれを祝って建てたものなんだ」
「なんだか壮美ですわね」
「ああ。初代公爵は王女を海の女神に模して称えていたらしい」
素敵ですわね。と、王女殿下の声が背後から聞こえた。ルイはここは初めてではない。幼少期に何度かわたしを訪ねて遊びに来ていたので、この城にも何度か来た事がある。彼にとっては、勝手知ったる他人の城状態なんだろうな。と、前世の記憶から掘り起こした慣用句が頭に浮かぶ。
背後のふたりの関係が気になるが、わたしはルイにとってたかが従姉だ。しかも臣下の身で二人の会話に口を挟むことも出来ずに黙って先を歩き続けた。
重厚な扉の客室の前に来て「こちらでございます」と、振り返ると、王女が「ありがとう」と、礼を言いながら、ひしとルイを見つめていた。わたしはばつが悪い思いで控えるしか出来なかった。
「陛下。わたくしはいつになったらあなたさまから及第点を頂けますか?」
「なんの話かな? きみは最高の女性だとは思うけど?」
「陛下はなかなかに手厳しい御方ですわ。まあ、いいですわ。では晩餐で」
そう言いながらイサベル王女は、女官を連れて部屋の中に入った。その隣の部屋にルイを案内しようとした時だった。後ろから手を掴まれた。




