58話・陛下はお見合い中
あの後、ルイからの呼び出しがぷっつりとなくなった。こんなこと今までにないことだ。必ず彼はどんなに忙しくても執務の合間に時間を作ってくれて、ふたりでお茶をする機会は度々あったというのに。ちょっぴり寂しく思われてきた頃に父から教えられた。
いま隣国のスランバ国から表向き遊学という形で、第一王女のイサベル殿下が宮廷に滞在していると。つまりお見合い中なのだろう。スランバ国は、実はルイの母方の祖母の母国で、祖母はスランバ王家と係わりのあった方だったらしいので、その縁もあって向こうの国から打診されたものらしい。
スランバ国の第一王女のイサベルさまは御年十六歳。わたしと同い年だ。ルイは十五歳なのであと一年待てば結婚するのには可能な年齢となる。もしかしたらスランバ国はルイが成人する前にと、早めに手を打ってきたのかもしれなかった。
我がアマテルマルス国は富んだ国だ。その王がまだ少年であるということは侮られやすいだろうが、そのルイが何事もなく執務を執り行なってきていることなどから、他国の王族らから見たルイの評価はそう悪くない。見目も良い事だし、将来有望な王の下へ娘を嫁がせたいと望む王族もそう少なくないだろう。そこにスランバ国は一番乗りしたような状態だ。
王都の屋敷にいてもルイのお誘いもなくなり、ギルバードの訪れもなくなってどこか物足りないような思いをしていたら、スティールが「僕は一度も領地に行ったことがありません。どのようなところですか?」と、聞いてきた。
丁度その時、その場にいた父が「スティールも一度はその目で見て来たほうがいいだろう。ジェーンの一緒に行って向こうで少しゆっくりしてきたらどうだね? 最近、婚約破棄の件で心ない中傷を受けたりして嫌な思いをしただろう。気分転換に出かけておいで」と、言ってくれたので、有り難くそうさせてもらうことにしたのだ。
王都の屋敷にいてはいつまでも連絡のないルイからの誘いを待ってしまいそうで、そんな自分が彼に依存しているように思えて嫌だったから。そろそろ弟離れをしなくてはいけないかもね。と、心の整理を始めた頃に、ルイの訪問が決まっただなんて、何だか目に見えない誰かに振り回されてでもいるようだ。
鷹狩りはこの国の貴族子息の嗜みの一つだ。馬を駆って猟銃で鹿を仕留める狩りは他国で行われているようだけど、もっぱら狩りと言えばこの国では鷹狩りが主流だった。その名の通り、鷹や隼などを使って獲物を狩る。
「スティールも鷹狩りは得意よね? お父様と参加するのでしょう?」
「はい。義父上さまの許可が下りればサービオと参加したいと思っています」
「あなたとサービオは息がぴったりあっているし、あなたの一人勝ちになりそうね。そうしたらお祝いを用意しないといけないかしら?」
「そんなことないですよ。陛下の扱っている鷹はとっても賢いと聞いています。先勝を飾るのはきっと陛下ですよ」
スティールは謙遜して言う。サービオは雛の頃に庭師に拾われて我が家にやってきた。庭師は王都にある我が家の屋敷裏の森のなかで足を怪我していて動けなかった隼の雛を見つけ、そのまま置き去りにする事は躊躇われて屋敷に連れてきたのだった。
ぴいぴい鳴く雛に絆されたのか、一目見てスティールは「自分が世話をする」と、言い、元気になったら森に放すことを父と約束して、雛にサービオという名を与えて面倒を見ていたら、雛はすっかりスティールに懐いてしまった。
元気になったので森に放したところ、一時間もしないうちに屋敷に舞い戻り、スティールの後をついて離れない。何度かスティールはサービオを森に放したが、必ず屋敷に帰って来る。森に帰した方がサービオの為だと思うのに、当の隼がスティールとは離れたくない様子だ。それを見て父が言った。
「そんなにサービオが懐いているのなら、いっそのことサービオに狩りを教え込んだらどうだい?」と。
その頃スティールは鷹狩りを教わり始めたばかりで、自分所有の鳥は決めていなかった。隼に懐かれるだなんて滅多にない事だ。お試しでサービオに教え込んでみたらどうだい? と、いう父の意見により教え込んでみたら、サービオはスティールの言うことをなんでも良く聞いた。他の人間では通用しない。もちろん、わたしにも警戒の目を向けて威嚇してくるほど、サービオはスティールが大好きなようだ。
このコンビに立ち向かえそうな相手はそうそういないだろう。いくらルイが鷹のソウを使いこなせたとしても、スティール達のように意思の疎通ができるかと言えば無理なような気もするし、スティールの一人勝ちは間違いない。
当日に早くも心を飛ばし、わたしはスティールの勝利を疑わなかった。




