55話・放っておいて欲しいのに
「ギルバードは今回の件で言っていた。ジェーン嬢とは完全に別れることになるだろうと。それを聞いてグレイが自分が邪魔してきたせいでふたりの間に亀裂が入ったのだと思い込んだんだろう。必死なんだ」
グレイ的には、わたし達を別れさせない為に頑張っているというところか。でも今更な話だ。別にグレイのことがなくとも決めていた。メアリーが処刑されて身の危険が去ったとはいえ、彼が今までにわたしにしてきた事を思えば、それを全て許す気にはならないし、下半身の緩い男性など夫に持っても苦労しそうだ。現在は保留状態にある婚約破棄だけど、わたしのなかでは結論はすでに出ている。もうそれを変える気はしない。
「面倒なお方ですね」
「迷惑をかけて申し訳ない」
「もう謝らないで下さい。ガルムさま。あなたさまのせいではありませんから」
「それでもあれは兄弟だからな。見過ごすことは出来ない」
ガルムは本当に優しい人だ。だから血の繫がらないギルバードまで大切にしてるのだろうと思う。
「陛下の前で失礼な態度をとったあいつは解雇処分にしても良かったが、陛下はそこまで罪に問わなくても良いとのおうせで、しばらく自宅謹慎の身となった。あいつはギルバードに連れられて陛下に謝罪した後、家に送り返した。本当に済まなかった」
深々と頭を下げてガルムはバルコニーから出て行った。その晩はルイに話し掛けられることもなく、わたしは父と共に帰宅した。
数日後、わたしは正式にギルバードと婚約破棄した。念願の婚約破棄が叶ったというのにわたしの気持ちは晴れなかった。ギルバードとの婚約破棄を聞きつけたご令嬢方が、わたしの出かける先々に顔を出しては詰っていくのである。
「なぜですか? ジェーンさま。ギルバードさまのどこか気に食わないと言うのですか?」
「あなたがたは真実の愛で結ばれていたのでしょう? こんなのおかしいです」
「酷いです。ギルバードさまはあなたさまのことを深く愛されていたのに……」
今日も友人のナミア嬢と会い、王都のケーキが美味しいと評判のお店でお気に入りのチーズケーキを味わっていると、どこからか湧いてきた三人の令嬢方にテーブルを取り囲まれた。
「あなたがた、他のお客さまのご迷惑よ。ここにケーキを食べに来たのなら席についたら?」
令嬢方は不満そうな顔をしながらも渋々、わたし達の隣の席についた。まだ文句を言いたそうである。
「ギルバードさまのどこが気に食わないのですか?」
わたしのすぐ近くの席に座った令嬢が聞いていた。そんなのいっぱいある。でも当事者同士で一応、もう婚約破棄と言う形で片付いたのだから関係のない人達にあれこれ言われたくはない。それに美味しいものは、楽しい気分で堪能したいのにこれでは美味しくなくなる。
「そうねぇ。このミント味の交じったチーズケーキは、斬新で美味しいわよ。どう?」
「……それにします」
「それとこのマーブルチーズケーキも捨てがたいのよ」
「美味しそう」
「濃厚チーズケーキもお薦めするわ」
それまでギルバードがどうのと言っていた令嬢方は実際にそれが運ばれてくると、そのことを忘れたように食し出した。これで静かに好物が味わえる。わたしはナミアとチーズケーキを堪能した。
丁度、その日はお店の開店三周年記念で、チーズケーキ食べ放題を行っていたのだ。発案者は実はわたしだったりする。先月、お買い物によったわたしにお店の主人が、お店が繁盛してるのはお客さまのおかげだから、何かお客さまが喜ぶことをして感謝をしめしたいなどと言っていたので、では食べ放題を行ってみたら? と、提案したのだ。
もちろん前世の記憶から失敬した情報だ。都内でOLをしていたわたしは日ごろのストレス解消に休日ともなると友人達とよく、ケーキバイキングやスイーツバイキングに出かけていたものだ。好きな物でお腹が満たされると悩みなど、どうでも良くなっていたような気がする。
隣の席の令嬢方もチーズケーキを食べ始めて十分後にはギルバードの事がどうのという言葉を吐かなくなっていた。皆、チーズケーキに夢中になっていた。わたし達もほどほどお腹を満たすとお店を後にした。




