54話・バルコニーで
「ジェーンちゃん。陛下とは何を話していたの?」
「グレイさん。さっきの態度はないです。ルイは陛下ですよ」
ルイが何かを言いかけていたのに、その場に飛び込んできたグレイらに対し、わたしは面白くなく思っていた。特に彼は話し口調が女性的なので、苛立ちを覚えているわたしにとって馬鹿にされているような気にしかならなかった。その彼に聞かれてあなたに応える筋合いはありますかと返せば、彼は口惜しそうに言った。
「分かってるわ。でも相手が誰でもジェーンちゃんをギルバード以外の男性といさせるのは嫌なんだもの」
「義兄さん。相手が悪い。今のは不敬罪にあたる」
ギルバードがグレイをいなそうとするのを見て、ますます腹が立った。
「ギルバード。あなたがしっかりしてないからグレイさんが付け上がるのよ」
「全くその通りだ。僕がしっかりしてないばかりに迷惑をかけた。すまない」
「わたしに謝られてもね。ルイに後で謝罪してよ」
八つ当たりのように言えば、ギルバードは珍しくも謝ってきた。
「分かった」
「なぜギルバードが謝るの? 陛下が……」
「ああ、義兄さん、黙っていてくれ」
さすがにギルバードも、今回のグレイの態度には思うところがあったようで、義兄の言い分を遮った。
「さあ、行くぞ。義兄さん」
「えっ? なんで? 悪いのは私?」
ギルバードはグレイの腕を引っぱってこの場から連れ出した。それを見てわたしはため息しか出なかった。
バルコニーに一人残っていると、しばらくしてガルムが顔を出した。
「ジェーン嬢。不快な思いをさせて済まなかった」
「本当ですよ。なぜあのグレイさんを連れてきてしまいましたの?」
「本当は連れてくる予定はなかったのだが、衛兵達の活躍により王位簒奪を回避できたとして陛下からお礼状を賜り、その代表として私とあいつがこの会に招かれたからね」
「もう。ルイったら、どうしてグレイさまにまで招待状を贈ってるの」
思わず口をついて出た言葉にあっと思い、口に手を当てるとガルムには笑われた。
「あいつはギルバードを好き過ぎて厄介なんだ。分かってくれとは言わないが」
その事は良く知っている。ギルバードの婚約者となってから一時、ブラコンである彼はわたしとギルバードのデートに付いて回って邪魔してきたからだ。それが酷すぎて父親に僻地に追いやられていた。
「親父殿からは聞いている。ジェーン嬢はギルバードとの婚約破棄を望んでるのだろう?」
「はい」
「ギルバードは浮いた話が多かったし、あなたに愛想をつかされても仕方ないと俺は思っている」
「ガルムさま」




