40話・過激な余興
メアリーの目は鋭かった。憎々しい感情を超えたものがそこにあり、周囲の者たちは圧倒させられた。
「ルイさま。お早く。ジェーンさまも」
アズライトが近衛隊に目で合図を送る。近衛隊はルイとわたしを守るように取り囲み、出口へと導いた。そこへ宰相のサーファリアスが現れた。
「これは何の余興ですか? メアリー嬢? シーグリーン卿?」
「余興などではないわ。わたくしはここに宣言致します。先王の唯一、血を引く者として簒奪者を許さないと。この手に王位を取り戻すことを」
「何をおっしゃっているのか分かりかねます。ルイ国王は先代王の血を引く正当な王子です。あなたがたの戯言には付き合いきれませんよ」
「ここに証拠がありましてよ」
メアリーは何を思ったのかこちらにつかつかと歩み寄り、ルイの髪に手をかけた。
「無礼なっ。何をするの? メアリーさま」
「ジェーンさま。あなたは黙って見てなさいよ。この偽者王の正体を皆に教えてあげるのよ」
メアリーが掴んだルイの髪がずるりと下がった。
「陛下っ」
皆が息を飲む。そこにはアズライトに良く似た紺色の髪の毛が現れた。
「どういうこと?」
「な、陛下の御髪が……?」
「アズライトさまと同じ色と言うのは、まさか王妃さまは侍従長さまと通じていた?」
皆が騒然としていた。わたしはルイが幼い頃から傍にいたが彼が紺色の髪をしていたのなんて一度も見たことがない。幼い頃は水遊びをしていたけれど、彼の髪は王家特有の亜麻色の髪に間違いなかった。
「……ルイ、いつの間に髪を染めたの?」
乙女ゲームの中でも、彼の地毛が紺色の髪だなんて設定はなかったはず。一体、どうなっているの? と、思っていると宰相が笑い出した。
「さすがはジェーンさま。気がつかれましたか? 陛下は朝からなにやら企んでおられましてほんのちょっとした余興だなどといって、女官たちに髪を染めさせていたのですよ」
何が始めるのやらと思っていましたがね。と、サーファリアスは言った。
「嘘よ。先代王は種なしだったのよ。子供なんて出来る訳がない」
メアリーが思わずといった感じに言うと、アズライトがねめつけた。
「メアリー嬢。おいたが過ぎますよ。先代王を貶めてはなりません」
普段優しい男だけに、その一言はメアリーをすくませた。その後、アズライトは他の貴族らに「あれはほんの余興でメアリー嬢が酔ってしまい、台本にはない言葉を吐いて収拾がつかなくなったので終わりにさせて頂きます」と、言葉巧みに締めくくり他の貴族たちをすみやかに会場から送り出すと、及び腰になったメアリー嬢の肩をがっちり掴んで謁見室へと連れ込んだ。




