37話・濡れたのはライバル嬢の方でした
「きゃあっ」
「メ、メアリー?」
ギルバードがぶつかった相手が悪かった。彼女の胸元が赤く染まった。ぶつかった拍子に赤いワインがメアリーのドレスの胸元を濡らしていた。
「酷いわ。ギルバード。これはお気に入りのドレスだったのに……」
「済まない。メアリー。このままではきみが風邪を引いてしまう」
と、ギルバードはメアリーに謝りながら、給仕が「どうなさいました?」と、傍に近づいてきたのを良いことに、その彼にグラスを手渡し、彼女の手を引いた。
「ドレスを着替えた方がいい。僕の部屋に来るかい? いや、きみの部屋の方がいいか?」
メアリーがギルバードを睨んだのにほほ笑んで、彼は彼女の手を引いて会場内を歩き出した。わたしは一人その場に取り残された。
(なぜこうなる?)
わたしはこの場で起こりそうな事に予め予想がついていた。その予想が外れたことに唖然としたのだ。なぜならわたしがしていた乙女ゲーム「ときめきジュエル」の中で、陛下の誕生日にワインを浴びるのは、ヒロインであるジェーン、つまりはこのわたしだった。
それなのになぜかメアリーがギルバードに浴びせられて、二人仲良く退場したのだから肩透かしのような気分になるのは当然だと思う。
取り残されて寂しいやら、情けないやらで途方にくれたわたしを救ったのは、優しい声だった。
「ジェーン」
「ル……陛下」
「余と踊ってくれるかい?」
「喜んで」
ルイはいつの間にか王座から下りてきていたようだ。ギルバードに置いて行かれたわたしの手を両手で包み込む。温かなぬくもりが自分よりも大きくなっていた事に気がつく。ルイの身長も高くなっていた。わたしと背の高さが並ぶくらいだ。
わたし達が広間の中央に出るのを皆が注目していた。スローなテンポの曲に合わせてルイと手を取り踊り出す。彼のエスコートはしっかりしていて堂々としたものだった。これなら数年後には、彼は美々しい王としてこの国に君臨することだろう。その彼の隣に並ぶのは他国の王女か、この国の高位貴族令嬢か?
その女性と手を取り合ってファーストダンスを踊るルイを見たのなら、姉貴分として弟の成長を嬉しく思いながら、遠い存在になってしまったような気がするのだろう。今は少しでもルイと仲の良い従姉弟でいたかった。
「背が高くなったわね。ルイ」
「余はまだまだ大きくなるよ。ジェーン。来年は十六歳になる。そしたらきみの背など軽く越してしまうだろうね」
その言葉に簡単にその事が想像出来てしまって、弟のような存在の彼に頼もしさのようなものを感じた。彼と離れるのはそう遠くない日になるのだろうと思うと、少しもの淋しい思いがした。




