35話・天敵登場!
ギルバードが目を覚ました後も、わたしは残念ながらまだ彼の婚約者のまま留め置かれてしまった。ギルバードが深い眠りから目覚めた時に、わたしが傍にいたことから、「許婚の愛あるキスで彼は目覚めたのだ」と、瞬く間に、社交界に噂となって流れてしまったせいだ。
社交界とは怖い場所だ。単なる噂話に面白おかしく尾ひれがついて話が大きくなる。その煽りを受けて、わたしはのっぴきならない状況に追い込まれていた。
宮廷で開催されたルイ国王のお誕生日を兼ねた舞踏会で、ギルバードにエスコートされて出席すると、こぞって若い娘達が視線を向けてきた。
「みて。ギルバードさまとパール公爵令嬢よ」
「深い眠りに落ちたギルバードさまを、許婚であるジェーンさまの愛あるキスが救ったんですってね」
「まあ、素敵」
「お二人ともお似合いねぇ」
今夜の装いは彼とは全く被っていない。わたしは青いドレスに銀の刺繍が入ったドレスに身を包んでいたし、ギルバードは襟や袖口が黒の深緑色した夜会服を着ていて、ふたりには何も共通点など見いだせないはずなのに、ギルバードが目覚めた時の噂が先行したせいか、概ね好意的な視線が向けられた。
「ジェーン。誰よりも綺麗だよ。でも、僕の贈ったドレスを着てもらえないのは寂しいな。きみの為に輝かしい新緑色のドレスを選んだのに」
「ありがとう。ギルバード。嬉しいわ。あれは素敵過ぎるからしまってあるわ」
ギルバードからは自分を目覚めさせてくれたお礼としてドレスを贈られていたが、その色が緑系だったので遠慮した。これ以上、他の者たちに噂の種を提供する事はない。期待させるようなことは口にしないほうが良いだろう。
ギルバードの物足りなさそうな視線から逃れるように、他に目線を送れば会場の入り口がざわめいていた。
「馬鹿馬鹿しい。愛あるキスですって? 話を盛り過ぎじゃなくて? どう思う? オックス」
「メアリー。言いすぎだ」
真紅のドレスに身を包んだ派手な容姿の美女が、ルビーレッド辺境伯のエスコートで姿を現したのだ。彼女は真っ直ぐこちらへ向かってきた。彼女を苦手とするわたしは、あちらへ行きましょうとギルバードの腕を引いたが、彼は動かなかった。




