32話(閑話)・王妃のお茶会1
ある日、唐突に母が言い出した。
「ギルバード。これからはあなたも王妃さま主催のお茶会に出席します。王子殿下に失礼のないように致しなさい」
王妃さま主催のお茶会。それは単なるお茶会なんかでない事は、十四歳にもなれば嫌でも理解していた。王妃さまには十歳になる王子さまがいらっしゃる。そのお茶会に王子も参加すると聞いて、未来の側近選びが行われるのだろうと思った。高位貴族との顔つなぎの場になる事は必定で、自分にはまったく興味のない話ではあるが。
面倒くさいのは五宝家の一つ、エメラルドグリーン家に生まれたこともあって、王族からの誘いを簡単に断る事が出来ないと言う事だ。
母からは五宝家に生まれたと言う事は、すべての貴族のお手本のような存在にならねばならないと言われて養育されてきた。母は自分で言うだけあって自分の行動には厳格な人だった。ギルバードにとっては母であり、父でもあるような人だ。一応、父親とされる存在はいる。エメラルドグリーン侯爵。自分には似ていない名ばかりの父親だ。
彼は武勇にすぐれ、祖父に見込まれてこの屋敷の主人になったと母親には言い聞かせられて育ってきた。それなのに彼が物心付いた時には、父親は共に暮らしておらず別宅で暮らしていた。それも妻公認の愛人家族と共に。
でもそのことで寂しさを一切感じたことはない。大概、貴族社会とはこんなもので自分の周囲の子らの家庭も大体こんなものだった。親がお互いに別居するのは珍しい事ではない。ただ、相手を悪し様に言うのが夫人方の方で、御主人方は好き勝手に財力と地位にものを言わせて他の花を摘みに蝶のように渡り歩くのが当然のようなものだった。
それは貴族社会の頂点に立つ五宝家も変わりないように思われた。五宝家のうちルビーレッド家と、アクアマリン家、アンバーのそれぞれ当主は正妻がいるのに拘らず、一人の女性を追い回していて、その女性の寝室からお互い出てきたところを鉢合わせして……と、いう話を口さがない者から聞いたこともある。
その時には、母の言う五宝家というのも大した事はないな。と、思ったものだ。貴族にとって結婚とは政略なもので義務からするもの。相手に愛情など望まないとされ、恋愛なら結婚して後継者を残してからとされていた。そしておかしなことに、結婚相手には互いの家の利益になるような関係を望まれて、独身の高位貴族が低位貴族と婚姻するのはあまり良くないとされて反対されるのに、既婚者となって恋愛する分には相手が低位貴族だろうが、平民だろうが非難はされない。
そこにギルバードは貴族の血統というものに矛盾を感じ、貴族という枷を掛けられた生き方に鬱屈したものを感じていた。そこに来て王妃さまの茶会に母が参加すると言う。




