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ヒロインは死にたくないので婚約破棄します!  作者: 朝比奈 呈
婚約破棄したいんです
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31話・メアリー嬢は疑わしい

 ルイのもとに教皇さまがお出でになったことで、早々に執務室を辞して出て来ると、廊下で侍従長のアズライトが待っていた。彼は「そこまで見送ります」と、同行を求めてきたので、断る理由のなかったわたしは彼と連れ立って歩き出した。


「ジェーンさま。今度の宮廷の夜会にはいらっしゃいますか?」

「今週末の陛下のお誕生日会でしょう? もちろん伺う予定よ」

「それは良かった。殿下が喜ばれます」


 許婚のギルバードがこんな状態で誘うのもなんですが。と、前置きしてから


「ではそのエスコートを、わたくしがさせて頂いても宜しいでしょうか?」


 と、うやうやしい態度で言ってきた。紺色の髪にサファイアブルーの瞳をした、優男風のアズライトに誘われたなら喜んで!と、言いたいところだけど、彼は仕事の方はいいのだろうか? 侍従長職にあるのだからその日、誕生日を迎えるルイの傍にいてパーティーを仕切らなくてはならないだろうに。


 その怪訝な気持ちを読み取ったようにアズライトは「当日、ルイさまのもとにあなたさまをご案内するのがわたくしの仕事ですので」と、くすりと笑った。それが何だかわたしには、アズライトのことを自意識過剰に反応したみたいに受け取られたように思われて、ここで頷くのは癪に思われた。


「侍従長はお忙しいのでしょう? わたしのエスコートまで時間を割かせるのは申し訳ないですわ。お父さまにエスコートして頂くのでどうぞお構いなく」

「ジェーンさまに振られてしまいましたか。やはりジェーンさまはシーグリーン卿のことを思われているのですね」


 アズライトはお兄さんだった。わたしの言葉に不快を示すことなくさらりと交わす。さすがは侍従長と思っていると、丁度その時、廊下の向こう側からせかせかと歩いてくる人に出くわした。先ほどギルバードの屋敷で会ったサーファリアスだ。


「ジェーンさま。もうお帰りですか?」

「はい。陛下の元には来客の方がおられますので」


 いま、宮廷に帰って来た様子の彼は、「では私も見送ります」と、アズライトの後に続いた。すると廊下で行き会った女官や、貴族の子弟たちは興味津々と言った感じでこちらを見てくる。

 構図的におかしな図だからだろう。一公爵令嬢に過ぎないわたしが、宰相と侍従長を連れて歩いてるのだから。何かあったのか? と、他人の目を惹くらしい。


「あの……、サーファリアスさまは陛下に御用だったのでは?」

「いや。陛下に来客中ならしばらく執務室には立ち寄れないので」


 つまりはお忍びで訪問して来た教皇さまと、その甥であるルイとの仲を邪魔しないようにという宰相ならではの思いやりなのだろう。わたしはここに宰相がいるということはギルバードの傍にオックスがいるということで何だか不安を覚えてきた。


「あの。宰相さま。ギルバードは大丈夫でしょうか? お傍にオックスさまがいるのですよね?」

「そのことなら心配はいらないですよ。ジェーンさま。ルビーレッド家と言えば薬草に詳しいので、彼ならシーグリーン卿が、あんな状態になった原因を突き止める事が出来ると思います」


 オックスがギルバードに何かしないと良いけど。と、言う不安を、宰相は彼ならギルバードが眠り続ける原因を探り当てる事が出来るだろうと信じて疑わないようだ。最悪オックスなら毒でも盛りそうに思われるのに。


「ギルバードは、毒でも盛られたと言う可能性はないでしょうか?」

「彼はメアリーさまの弁明の為にも、ギルバードを救わないとなりませんから」

「どういう意味ですか?」


 それではまるでメアリーが、ギルバードに何か盛ったと言ってるようだと思うとサーファリアスは一段と声を落として言った。


「ギルバードが眠り続けることになった日に、メアリー嬢が彼の部屋から出てきたのを目撃した者がおりまして……」



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