29話・教皇の訪れ
「どうだったの? ジェーン」
「今日もぐっすり寝ていたわ」
わたしはギルバードの屋敷を出ると宮廷に向かった。ルイのもとには三日に一度の割合で訪れている。心優しいルイがギルバードのことを知りたがるので、報告しに伺っているようなものだ。彼の執務室隣の応接室で美味しい紅茶を頂きながら、談笑していた。
「寝ているのに綺麗な顔してた。物語に出て来る眠り姫みたいで妬ましくなるわ」
「どうして? ジェーンも眠り姫になりたいの?」
「そんなわけないわ。わたしが羨んでるのは彼の美貌よ」
「ジェーンだって綺麗な顔してるのに? ジェーンの寝顔は綺麗過ぎるだろうよ」
余は二度と見たくないけどね。と、ルイは続けた。それを聞いてわたしは不謹慎なことを言ったことに気が付いた。ルイは両親を亡くしてるのだ。二年前に母を亡くし、その後を追うように陛下も一年前に亡くなっていた。
「ごめんなさい。無神経すぎたわ。ルイ」
「もう誰かを見送るのは嫌だ。きみは余の為に長生きをして」
「分かったわ。でも、ルイもそうでなくちゃ嫌よ」
わたしの処刑エンド回避の為には、ルイには長生きしてもらわないと困る。結末を知ってしまった今となっては出来れば誰とも結婚したくないような気持ちにもなってくるが、目の前の可愛い弟のような存在の彼には幸せになってもらいたい。
そこへノック音と共に侍従長のアズライトが、ルイの誰何の声を待つことなくドアを開け緊張の面持ちで誰かを伴なって現れた。亜麻色の髪に新緑色の瞳をした美丈夫でどことなく見覚えのある顔立ち……と、思ったところで内心、悲鳴をあげそうになった。
「猊下。こちらで宜しいですか?」
「非公式な訪問だからね。気を遣わないで欲しい」
アズライトが案内して来た突然の来訪者を見て、ルイが笑顔を見せた。
「いらっしゃい。伯父上さま」
「やあ。ルイ。代わりなさそうで何よりだよ。そちらにいるのはパール公爵令嬢かな?」
「ヘンリー教皇さま。お久しぶりにございます」
聖職者たちのトップにある御方が、普段の聖職者が着るような白い衣服ではなく高位貴族が着るような服、それもなぜか黒い服を着て現れたので非常に驚いた。アズライトは教皇を案内するとすぐに部屋の外へ出て行った。




