28話・考えるくらいなら構いませんよ
そこで不思議に思ったことがある。ゲームの中では彼は出世欲が強かった。他の五宝家を蹴落としてでも何としても次の王位をジェーンに、そして自分の息子を王配にと、がむしゃらに陰謀をめぐらしてきたはずの彼は、この世界ではその意欲が感じられなかった。
それに設定が違った。ゲーム内ではギルバードは両親と暮らしている一人っ子の設定で、甘やかされて育てられたことになっているのに、将軍には長年連れ添ってきた愛人との間に子供がいて、しかもその子供たちはギルバードよりは年長で、それぞれ軍隊に入り活躍している。現在は遠方に派遣されているので二人とも王都にはいない。
彼らは母親の身分が低い事で将軍の子として貴族籍には入れないでいるが、別にその事を悲観してるようでもない。ギルバードに対してはなぜか一線を画した態度で接していたがそれは義理の弟に対し、一物を抱えてるようなものではなく、ただの世話焼きの使用人と言うような感じがした。荒削りの執事がふたりいるような感じである。
わたしは義兄達にごくたまに出会うことがあり話すこともあったが、ふたりともいつもギルバードの身を案じていた。今も遠くから義弟のことを心配しているに違いなかった。
エメラルドグリーン家は、現代の貴族社会の理想の家族に思われている。夫婦別居してお互いに干渉しあわない生活。正妻は愛人の存在を認め、愛人一家と暮らす夫を責めることもない。そればかりか結婚前から夫と深い関係にあった愛人に嫉妬する姿すらみせるところのないギルバードの母は、よく出来た女性だと誰もが口々に褒めていた。
それは彼女が信心深いことも関係しているかもしれない。彼女は信心深くカトリ教会に足繁く通っていると話には聞くし。夫に対し彼女の態度はおおらか過ぎた。いくら政略結婚だとはいえ、結婚するとなれば一度は相手と関係を清算するものだが、将軍はそうしなかった。そこにわたしは奇妙なものを感じていた。
公の場では将軍はギルバードの母である正妻を伴ない、彼女を大切に扱った。彼が入り婿なのだから妻を立てて当然だろうと意地悪い見方をする者もいる。でも、わたしが見る限り将軍夫婦は仲が悪いわけでもないのだ。仲は良い方だと思う。それなのに普段はそれぞれ違う場所で暮らし、夫婦で参加せざる得ない場所には二人仲良く連れ立って現れる。まるで親しい友人のような気心の知れた間柄のようだ。
前世を知るわたしにはそんな仲もありかもと容認したくなるが、その反面、この世界の貴族社会を知る自分としてはそこに何か事情があるのではないだろうかと疑われてならない。
それでも頭髪が薄れてきた将軍に、深々と頭を下げられては無視するわけにも行かず、わたしは彼のもとへ通い続けている。もちろんこんなことで絆されるつもりはない。婚約破棄の件は自分の中で続行中である。
「ジェーンさま。まもなくあなたの憂いは晴れることでしょう。このオックスが必ずやギルバードの目を覚まさせてくれるに違いないですから」
「高く買ってくれるではないか? サーファリアス?」
「そうでなくては困る」
考え事をしていたらオックスに話しかけられていた。オックスは気安く宰相に呼びかけていた。いつの間に二人は仲良くなったのだろう? 確かふたりはそんなに仲が良かったことはないのに。そこに思いがけない言葉があがった。
「ギルバードは何か薬を盛られたに違いない。それを何とか解毒頼むぞ」
「はい。はい」
「薬……?」
わたしの記憶が揺さぶられるような感覚がある。薬と言えばメアリーが薬草に詳しかった気がする。薬草は使い方を誤れば毒草になるものもあった。メアリーはそれを駆使して邪魔な人間を消して行く。
もしかしたらギルバードは、そのメアリーに何か盛られたのではないだろうか?
ゲームの中で、ギルバードは毒死はしていなかった。このような奇妙な眠り病になることもなかった。
「ギルバードは目を覚ましますか?」
オックスに向けて言うと、彼はほほ笑んだ。
「彼を目覚めさせてみせますよ。そしたら私とのことを考えてもらえますか?」
「オックス」
宰相のサーファリアスが、こんな時に言い寄るような真似はよせと止める。
「別に構いませんよ。考えるくらいなら」
ただし選ぶとは限りませんけどね。と、言えばオックスは苦笑し、サーファリアスは安堵したような表情をみせた。




