23話・何ごとですか?
翌日。わたしはボードレイ伯爵令嬢ナミアと会っていた。彼女がギルバードのことで忠告してくれたのにもかかわらず、彼のことを信じすぎてしまったばかりに追い返してしまった。その非礼を詫びるに屋敷に招いていたのだ。
ナミアはミルクティーのような色合いの髪に、こげ茶色の瞳をした優しい顔立ちの令嬢だ。父親同士が学友で親交があり、父親に連れられて我が屋敷を訪れることの多かったナミアとは自然と仲が良くなっていた。
「この間はごめんなさい。ナミア。わたしあなたを傷つけるようなことを言ってしまって。悪かったわ」
「いいのよ。ジェーン。顔をあげて。あなたはギルバードのことを信じたかっただけだもの。でもあなた、噂に聞いたけど……、ギルバードと婚約破棄するんですって? もしかしてわたくしが言ったことを気にして?」
ナミアはわたしがギルバードを盲目に愛していたことを知っていた。彼女は自分が忠告した事でわたしがやけになってギルバードと婚約破棄するのではないかと心配になったのだろうか? そんな心配はいらないと、わたしはほほ笑んだ。
「わたしね、目が覚めたのよ。あなたにはずい分と心配させてしまったけれど、もうギルバードのことは何とも思ってないの」
本当よ。と、言いながらわたしは手にしたティーカップを口元に運んだ。ナミアといるのは応接室のテラス席。広い庭園を一望できる場所で、チッチッチと時折なく小鳥の声が、そよ風にのって伝わってくる。
給仕をしてくれているのはオルリーだった。こんな時にいつもいるダリーは傍にいない。そのことにナミアも気が付いたらしい。
「今日はいつもの侍女の方ではないのね?」
「ダリーならお遣いを頼んだの。あなたが前に言っていたでしょう? いま王都で評判のチーズケーキのお店があるって。そろそろ帰ってくる頃だと思うけど……」
「お嬢さまぁあああああっ」
「ほら。帰って来たみたいよ」
ナミアと楽しみね。と、目配せ合うとダリーがぜぇぜぇと息を切らしてかけ込んできた。
「ダリー。どうしたの? 頼んでいたケーキは?」
「あ、後で……直接、運んで来て……くれるそうで……す」
「そう。どうしたの? そんなに慌てて」
息の荒いダリーは、両膝に両手を当てながら肩で息をする。
「何です? ダリー。お嬢さま方の前ですよ」
オルリーは眉根を寄せる。公爵家に仕える侍女としては行儀が悪いと指摘しようとしたところに三人の侍女たちが駆け込んできた。
「お嬢さまっ」
「お嬢さまぁ」
「お嬢さま!」
初めにばあああんと大きな音を上げてドアを開けたのは、ピンク色の髪に苺色の瞳をした可愛らしい容姿のマリーで、勢いあまってドアの前にいたダリーを押し倒し、その後に駆け込んできた金髪に青い瞳をしたリリーは、足元を良く見てなかったのでマリーの足に躓いてこけてその二人に乗りあがる。最後に飛び込んできた濃紺色の髪に、黒い瞳のリーズは反射神経が良く、障害物を上手く避けて彼女らの横に立とうとしたが、起き上がろうとしたリリーの腕に足を捕まれてその場に転倒した。




