21話・あんなにも自分を好きだと言っていたくせに
ルイのもとを辞して、宮廷内に与えられている部屋にやってきたギルバードは深いため息を漏らした。ここのところどうも自分が変だと感じる。その原因が分からない。
「いったい何だと言うんだ? 調子が狂う」
首もとのクラバットを緩め、カウチソファーに寝転がる。ここ最近、何だか気持ちが落ち着かない。天上を見上げれば銀髪に青い目をしたジェーンの顔が思い浮かんだ。彼女の行動に何故だか知らないが妙に苛立ちを覚えるのだ。
今まで彼女は自分の言うことを素直に聞いて従ってくれていた。自分のことを全面的に信用しているようだった。ところがどうだろう。何があったのか彼女は変わってしまったような気がしてならない。まるで別人のようだ。まさか彼女の方から婚約破棄を言い出すなんて思いもしなかった。
彼女からの婚約破棄。そのことに驚き、気が動転して教皇のもとへ走ってしまったではないか。ふだんの自分ならありえない行動だ。今まではジェーンに嫌われたならそれでも構わないと思っていた。
ルイに命じられての仮の婚約者だ。ジェーンには何も期待してなかった。相手はお綺麗なだけの人形姫としか思っていなかった。名ばかりの婚約者で構わないと思っていたから、相手が自分に好意を持ってくれていることを良いことに好き勝手してきた。
そんな自分に振り回されているジェーンが憐れに見えて、時々、同情心が湧いて罪悪感を感じて優しくしたこともある。だが彼女が自分に求めるだけの愛情を返せそうにないことは重苦しく感じていた。
それなのにいまの彼女はどうしたと言うのだろう。ギルバードに何も求めようとしない。そればかりか関心がなさそうな言動を繰り返し、突き放すような物言いをする。
あの目を潤ませて「あなたが大好き」と、恥ずかしそうに言っていた頃の面影などない。あれは誰だ? ジェーンという名の名前を借りた別の女に思えてくるから不思議だ。そして彼女を前にすると、自分の心もままならない気がしてならない。
ジェーンには優しくあろうと務めてきた。軽い触れあいなどはあったが、必要以上の過度な接触には気をつけていたつもりだ。幼い主の為に。
それなのに彼女にキスをしてしまった。彼女に手を出す予定はなかった。自分から離れていく様子をみせた彼女が許せなかっただけだ。ジェーンは自分を好きではなかったのか? あんなにも自分を好きだと、早く結婚したいと言っていたくせに。
ギルバードのなかでは、例え結婚しても白い結婚で三年後に離縁する予定だった。自分にとっての彼女とは保護すべき人物で、それ以上ではなかったはずだ。
彼女が自分に熱をあげていることを良い事に都合の悪い事は言い包めてきた。それを何でも信じてしまう彼女に逆に心配になったけれど。でも彼女には思いがけない行動力が備わっていたらしい。
(もしかしたら今までの彼女は猫を被っていたのか?)
そう思わざる得ないほど、彼女は変わった。猫を被っていたにしては見事な掌返しだ。何かがあって彼女が変わったとしか思えない。
「やはりメアリーの件かな?」
彼女とのことは完全な誤解だが、真相は謎のままにしておいた方が今は都合がいいだろう。しかしそんな時に限って色々起こる。
「オックスが出張ってくるとはな」
彼だけは彼女に近づけてはいけない。あれは危険だ。なんとか阻止しないと。




