言い出せなかった、なんて後悔だけは絶対にしたくなかったの
「ねぇ、あたしたちが形だけの夫婦なのは、あたしを守るため?」
-あたしをママにしてほしい-という爆弾発言で息を呑んで固まっているオービルにあたしは続けてそう言った。
「ノーマ!」
だけど、
「バウンス先生は知ってるよ。あたし、先生に聞いたから。オービルのそういう器官がちゃんと機能しているのか、こと自体にオービルが耐えられるかとか……」
続くあたしの言い分に、
「き、機能して……その前に、ことに耐えられるか? お前そんなことを聞いて、女として恥ずかしくないのか?」
オービルは真っ赤な顔をして怒った。
「う……」
恥ずかしくないのかって言われれば、そりゃ恥ずかしいわよ。でも、あたしは負けるわけにはいかない。
「けどね、それでも聞かなきゃならないときはあるわ。
大体、オービル間違ってるよ」
で、あたしが、目を逸らさずにそう返すと、
「なにが間違いだ」
と、オービルの方が目を逸らした。
「もし、自分が死んでも、子供がいなければ、あたしが違う誰かとやり直せるとでも思ってる? あたしには今、偽物とはいえちゃんとした戸籍があるんだし、元伯爵夫人の肩書きがあれば、若いんだから再婚相手位見つかるだろうって」
「……」
「けど、そこにはあたしの意志は何にもないじゃない。あたしはね、オービルが死んだって別の誰かと結婚する気なんかさらさらないし、どのみち伯爵の未亡人なんて肩書きに寄ってくる奴らなんて、どうせ禄でもないやつばっかよ。そんなのこっちから願い下げ。
第一、それってオービルが早死する事が前提でしょ」
と一気にまくし立てたあたしに、
「どうせ、こんな身体では長生きはできん。そうなれば、生まれたのが女ならばまだ良い、男ならそこからいきなり伯爵家を背負って立たねばならないんだぞ」
大人になってから拝命した俺ですらその重圧は相当なもんなんだぞと、オービルが言う。
「長生きできないって、そんなの決まってないじゃん! それにさ、何度も言うようだけど、あたしはもしそうなっても再婚なんてする気はないの。オービルが死んじゃったら、あたしひとりにぼっちになっちゃう。だから、オービルにはできるだけ長く生きてほしいし、もっと家族がほしいの。
お願いあたしをこの世界でひとりぼっちにしないで」
そうだよ、オービルと結婚して、オービルのパパやママやナタリアさんとも家族になったって言えばそうかもしれないけど、それはオービルがいてこその絆だよ。なんでそれ、解ってくれないの? そう思ったら、涙があふれて止まんなくなった。
「ノーマ……」
そんなあたしにどう言ったらいいのか分からないという表情であたしの髪を撫でるオービル。
「オービルよ、どうやらお前の負けのようじゃな。
お前とて、行くところのないノーマを仕方なく拾った訳ではないじゃろ。もしそうなら、責任感の強いお前のことだ、似合う年恰好の男にノーマを紹介しただろう。お前がそれをしなかったのは……」
それを見て、バウンス先生がニヤっと笑ってそう言う。
「ああ、そうだ。俺は、こいつを他の誰にも取られたくなかったんだ!」
それに対して、オービルは耳まで真っ赤にしながらそう答えた。そして、オービルのその返事を聞いて、
「それが解ってるなら、何を躊躇う必要があるんじゃ。
大体、お前の場合病んで傷んだものではないからの。無理を重ねず養生していけば大丈夫じゃし、この娘は医者の儂が舌を巻くほどに聡い。公私ともにお前を支えてくれるじゃろう。
それにな、人間、歳やら病んでるからと言うて先にいくもんでもないからの。昨日まで元気な者が馬車に轢かれてあっけなく死んでしまうこともある。案じても詮無いことと思わんか」
バウンス先生は優しく諭すようにそう言った後、
「分かったなら、完全に冷めしまわんうちにさっさと食え。人間、腹に物が入ってんと、禄な考えが浮かばんものじゃて。
なにやら、旨そうな匂いを嗅いでいたら、無性に腹が減ってきた。じゃぁ、儂も飯を食ってくるかの」
と言って、あたしたちのそばを離れた。




